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第166話 仮の住民(前編)

第166話 仮の住民(前編)


 かつて私が今よりも貧しかったころ、旅行といえば青春18きっぷだった。車窓の風景を眺めるも良く、飽きれば本を読むのもよく、目的地を決めて観光するのもよく、当日に計画を変えて興味のある所に立ち寄るのもよく、気ままに旅をするのにもってこいだった。今でも時間があればやってもよいかもしれない。


 その貧乏旅行は切符を使い切るのと予定を組みやすいのが理由で5日連続であった。泊まるところといえばネットカフェだった。慣れてしまえばなんてこともなく、普段は読まない漫画を(特に流行の漫画や懐かしい漫画を)読み始めるとつい夜更かしをしてしまって、翌日の電車でうとうとしがちになったものだった。


 それを思い出したのは、今回、ツァップさんからとある依頼を手伝ってほしいと頼まれたためだった。予定もなかったからOKと返事をして、スケジュールの調整を行った。



 その日、普段通りに起きて朝食を食べた。昼前に乗ったG駅行きの電車の中で、窓から見える風景を改めて目にしながら依頼内容のことを考えていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 G市にはネットカフェが幾つかあるが、そのうちの1つが潰れることになった。特に特徴はないが、強いて言えば駅から少し遠く、大手のチェーン店でもなかったことが原因なのかもしれない。


 そのネットカフェには店員だけに知られている部屋があった。オープン当初は他の部屋と同じように使われていたが、ある日を境にそこに何かが現れ始めた。


 始めに気が付いたのは店長で、その日、その部屋を使っている人がいなかったのに物の配置がずれていたらしい。さらに翌日から、その部屋を利用した客の何人かが誰かがいるような、寒気がするような、とにかく部屋を変えてほしい、無理ならもう出ると言い出し始めたそうだ。


 その部屋を持てあました店長は物置として使おうとした。しかし翌日、置いた物が通路に出されたいた。さらにPCのメンテナンスや更新を怠れば他のPCも壊れてしまった。結果としてその部屋はシステム上は常に使用中、実際は壁紙で覆って存在しない、ということにして事なかれで営業を続けていた。


 今回、ビルの中から撤去されるにあたって、店員の1人が事故が起こったらたまらないと思い、親戚から協会の存在を聞いて店長に依頼することを勧めた。店長ももう店を畳むことになったのだから、せっかくだから正体を知ろうと(勿論事故が起こったら困るとも)思い、協会に依頼をしてきた。


 依頼内容はこの怪奇の特定と、その部屋、ビルから遠ざけることだ。退治でないのは、店長も長年付き合ったモノだから情が湧いたためなのかもしれない。



 始めはツァップさんが1人でその部屋に行って、怪奇(ツァップさんが言うには幽霊)にアプローチをしようとしたが、気配はしても見つけることはできなかった。取り壊しの日は近い。私なら、出てきていれば見つけられるかもしれない。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 G駅に到着して外に出るとツァップさんが階段の下で待っていた。服は全体的に白が混ざった色でまとめられていて、黒いタイツが例外だった。小学生のような服装なのにお洒落に着こなしていた。


 「上野サン、今日はアリガトウ!」

 ツァップさんは今日もニコニコしている。


 「どういたしまして。それでは、行きますか」


 「デスネー。天気がいいから歩いていきマショウ!」

 ツァップさんがくるりと踵を返すとウェーブのかかったセミロングの金髪が揺れた。マグノリアのような香りがふわっと広がってきた。


 15分ほどだろうか、暖かくなった太陽の下を雑談をしながら大通りを抜け、少し奥まった通りにあるビルの一室に、例のネットカフェはあった。近くにはどこにでもいるような怪奇がいた。エレベーターでネットカフェがある階まで行き、扉が開くと本やPC、それらやその他のものが混ざった独特の匂いが鼻に入ってきた。


 受付にいた店員に店長に用があると伝えると、既に何か聞いていたらしい店員がすぐにバックヤードへ消えていき、店長がバタバタと出てきた。簡単に話をして、早速例の部屋を案内してもらった。ツァップさんが一度来ていたから壁紙は取り払われていて、見た目は普通と変わらなかった。ツァップさんが「気配はするんデスケド…」と呟いていた。

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