第164話 敬意(中編)
第164話 敬意(中編)
依然として朝から天気は良かった。いつもと変わらない朝食を食べて、日課にしている協会のHPの確認を行い(自分ができる依頼はなかった)、勉強をした。筋肉痛のせいで腕を含む全身が重く、家事を積極的にしようとも思えなかった。(急ぎで手を付ける必要があるところもなかったからだ。)
ジャンルを変えたとしても勉強ばかりでは長続きもせず、かと言って体を動かす気もなく、買い物に行く必要もなく、ネットサーフィンや動画の視聴をして少しだらけながら過ごしてしまった。
昼食を食べている途中にみーさんから連絡があった。桜姫の件で伝えたいことがあるから藍風さんと3人で会えないかとのことだった。この時点で、SMSに内容を書かれていなかったから、嫌な予感がしていた。数分後に藍風さんから放課後は予定がないと返ってきた。私も特に予定はないと返したら、先日の喫茶店でととんとん拍子に話がまとまった。中学校にスマホを持って行っても良いことになっていたかどうか少し気になったが、藍風さんは一人暮らしだから特例で許されているのかもしれないと思った。
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喫茶店入ると既にみーさんがくつろいでいた。どことなくアンニュイな表情でいて、普段と違って見えた。出迎えてくれたマスターにコーヒーを注文をしてからみーさんの座っている、この間と同じボックス席に座った。
「こんにちは、早いですね」
「どうもー、筋肉痛ありませんー?」
話し始めるとみーさんはいつもの調子に戻った。しかし、珍しく(?)ゲームをしていない。店内のBGMを聞いていたのか、あるいは疲れでぼーっとしていたのか、あるいは…。
「もしかしてみーさんもですか、私もですよ」
重たい物は私が扱っていたが、本(や紙の束)をあれだけ動かしていれば細腕には応えたのだろう。
「お互いもう若くないですねー」
こういうことを言っているが、私はともかくみーさんは若く見える。
私の注文したコーヒーが届いて半分ほど楽しんだころ、喫茶店の前に自転車が止まる音が聞こえた。続いて喫茶店の扉に目を向けると制服姿の藍風さんが入ってくるのが見えた。通学かばんを持っていて、学校から直行してきたことが分かった。藍風さんも注文を入り口の方でしてからこちらに来て、みーさんの隣に座った。
「知都世ちゃんごめんねー、急にー」
「大丈夫ですよ」
藍風さんは簡単に返事をした。特に何も気にしていないようだ。
「それじゃ、そろそろ話しますね」
みーさんが意を決したように口を開いた。
「桜姫の件なんですけれどもですね、どうにも難しくなったんですよー」
「難しくなった、とは…」
難しい、ではなく難しくなった、だ。何かがあったようだ。
「それが、協会の方も調べたようでして、桜姫に死なれると困ると言っている人たちがいるらしいんですよー」
何となく分かった気がする。藍風さんは届いた飲み物に口を付けている。
「それは、地元住民でしょうか」
「上野さん、正解です。桜姫はどうやらあの辺りで老人たちの信仰の対象になっているようでして、木々の花、特に桜を一層きれいに咲かせるために祀られているそうです」
みーさんは一旦話を止めて飲み物に口を付けた。
「みーさん、桜姫は確か古いモノに財を、新しいモノに居場所を奪われていると言っていました。信仰されているなら居場所や財を得ることはできないのでしょうか」
「それがですねー、そうはいっていないんですよー。昔はお供え物をして、掃除をしてと、丁重にしていたらしいんですけれども…、今はそうしていないんですってー」
「どうしてですか」
藍風さんが少し不思議そうな様子で尋ねた。
「それはね、過去にもう十分やったから、やらないって考えなんだ。逆にね、今まで丁重に扱った分、そのお返しをしてもらわないと困るって。だから、勝手に死なれると困るって年寄りたちが言っているらしいですよー」
みーさんはそこで話を止めて、飲み物のお代わりを注文した。
つまり、過去に払ったコストを回収したいと(レートが適切なのか不明だ)。その結果、言っていたように古いモノに財を奪われ困窮し、追加はなく(知らないだけかもしれないが)、弱って新しいモノに居場所を奪われ、さらに困窮した、と言うことだろう。財や居場所は信仰の範囲?規模?何かは分からない。それでも搾り取ると。
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