第163話 敬意(前編)
第163話 敬意(前編)
例えば、製本化されていない本(紐閉じや手書きの紙をホチキスでまとめたもの)、誰かの私物と思われる色々な占いの本(どう考えても普通の本)、それから月刊『花と酒』が数年分など、少し見ただけでは何がどう必要なのか全く分からなかった。みーさんが言うには、月刊誌のコラムが怪奇現象の記録と合致するらしいから保管していると聞いたことがあるらしかった。そのページだけ切り取って保存しておけばよいのにと思った。もっと言えば、OCRで処理してPCで検索できるようにすれば良いだけなのに。
そうは言っても、数冊、そこにしかなさそうな本を見繕うことはできた。みーさんに悪いから熟読することはできなかったが、流し見をして印象的だったものの一部をまとめておく。(そもそも読めないものもあった。)
・『眼力の基礎』
タイトルとは違って、眼力についての基礎は書かれていなかった。妖怪に会った時に目を合わせて力を込める(このやり方は詳しく書かれていないかった。仏教の知識があることが前提のようだ)と妖怪を遠ざけることができる。また、目を合わせない方が良い妖怪は、洗脳や幻覚を使うモノ、目の多いモノ、高位のモノ、それ以外にも自分がそう思ったモノ。
・『魔女の変身術』
魔女が動物に変身する方法が書かれていた。軟膏(トリカブト、ケシにヒキガエル、洗礼前の嬰児などの脂、死体などが主成分)を全身に塗布する方法と、呪文を唱える方法があった。動物の種類によって呪文が違った。さらに、変身する呪文と戻る呪文も違った。軟膏による方法はどうやって戻るのか。該当のページを見つけられなかった。
・『悪霊を家に寄せ付けない方法』
目次から見て使えそうだった民間でもできる方法。浮遊霊が出そうな場合はその墓に石を置く。家の箒を十字に置く(アパートの玄関では狭くて難しいか)。家に入る前に家の周りを反時計回りに回る(集合住宅の場合は困難)。霊に家の中を通られたくない場合は玄関や窓が対面して設置されている場所に塩漬けのオリーブの実を吊るしておく(できなくもない)。
・『浮遊霊』
浮遊霊研究の歴史と浮遊霊の祓い方、浮遊霊のなり方が書いてあった。その場に執着していること、死に場所が近くであること、生前のうちにその場所に自分の体の一部(爪、皮膚、髪、血液など)を埋めておくこと、それから呪符をその場に置いて、死んだときに持っていることなどが浮遊霊になりやすい条件らしい。両方の呪符を持っていれば、不慮の事故で死んだときになることができる(条件が整う)。殺されたときに目撃者がいなくても、霊媒師を呼ぶことができれば犯人を特定することができるのが使い方の一例にあった。他にはストーカーなど。
勿論、これらの全てが正しいかは分からないし、全てに適用されるとも思っていない。もう少し体系学的な本を見つけられれば良かった。あったとしても時間内に読めなかっただろうが。
そして、本の整理の終わり際、怪奇に苦痛を与えずに祓う方法について書かれた仏教系の本を見つけた。要約すると、その霊、妖怪にとって相応しい物、状態を使って、敬意を持ち、なるべく熟練の者が行うことが苦痛を与えないことにつながるという。
「まず、問題点はですねー、桜姫が何なのかですねー。妖怪?幽霊?」
本を流し読みしていたの隣で同じく本を覗いていたみーさんが間延びした口調で言った。
「私は妖怪と幽霊の違いが分からないですし、他に見た人もいないですからね」
「そーなんですよー。それからー―」
みーさんは人差し指を立てた。
「何がふさわしいのかですねー。熟練の人は後々探せばなんとかなるでしょー」
協会は情報交換、人材交流も設立目的の中に含まれているから何とかなるだろう、だろうか。
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本の整理を終えてから鍵を支部に返して、みーさんと別れた。そのあと予定があると言っていた。私は相当遅くなった夕食を駅近くの定食屋で食べた。昼食は度々休憩していたときにとったペットボトルの水と携帯食糧だけだったから、大盛りでも簡単に腹に入った。
電車に乗っている間、藍風さんに書庫で得た情報を伝えた。桜姫には悪いが、その日、桜の元に行かないことにした。平日に二夜連続でまともな睡眠をとることができないのは藍風さんには辛いだろう。
家に帰って、風呂に入り埃と疲れを落としてから寝た。書庫では私が力のいる作業をしていた。翌日も疲れが残っているだろうが、いやな疲れではないと思った。
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