第16話 文化祭準備
第16話 文化祭準備
先日の夢の中に現れる幽霊について、後日みーさんに聞いてみたがそういうのはあまり聞かないと言われた。夢だったのではないかと笑われてしまった。藍風さんに相談しなくてよかったと思っていたらみーさんがリークしてしまい、藍風さんからまたもやいろいろ言われてしまった。今度からは真っ先に相談しようか。さて、そんな藍風さんから中学校の文化祭に誘われた。入校許可証もあるしぜひということであった。確かにこの町との交流がない私にはこうした機会は基本的になかったのでよいきっかけなのかもしれない。それに藍風さんにはお世話になっているから、頼みを無下にするのもよくないだろう。
文化祭に遊びに行く旨を伝え、ついでに何をするのか聞いたところ、クラスの出し物で写真の展示、生徒会(と複数の部活の合同)の出し物でお化け屋敷をすると返事があった。ハロウィンイベントをいろいろと参考にしていたのだろう。藍風さんは普段そんなものよりもよっぽど怪奇を相手にしているので、彼女が指揮を執れば相当リアルなものができるだろう。実際はどうもそんな感じではないが。この中学校は変わっていて、3年生はクラスの出し物しか用意しないらしい。受験があるからだろうか。だから当日は部活の出し物が良い息抜きになるとかならないとか。
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文化祭の前日、その日は朝から雨で、雨足の強さに辟易して普段使わない車を運転していた。偶々当日に郵便局に行く用事があり、仕事終わりに直行して事が済んだ時には外は真っ暗になっていた。文松中学校の前で丁度信号に引っかかり、そちらに目が行った。飾りつけやらは室内に入れてあるのだろうか。夜から天気予報では晴れだったから当日はまあ何とかなりそうだ。ふと、中学校を見ていると、見知った子が傘をさして歩いて出てくるのが見えた。藍風さんだ。あの雨だったから自転車ではなく歩いて登校したのだろう。せっかくだから送ろうと思った。窓を開けて手を振るとこちらに気づいたようだった。私は学校に車を入れて玄関近くに停めた。もう殆ど人は残っていないだろうし、多少はいいだろう。
「藍風さん、こんばんは」
「あ、上野さん、こんばんは」
まさかそこで会うとは思っていなかったのか、少し驚いたようだがすぐにあいさつが返ってきた。
「この雨だから送っていきますよ」
「あ、わざわざありがとうございます」
そんなやり取りをしていると後方からハロウィンの時の二人がやって来た。城山真奈さんと江崎詩織さんだ。二人とも傘を持っていた。
「こんばんは。もし良かったらお二人も送っていきましょうか」
「ありがとうございますー」「いいんですか。ありがとうございます」
こういうときだけは車を持っていると都合が良いと思った。藍風さんはごく自然に助手席に座った。それを江崎さんは茶化すようにニコニコと笑っていて、気づいた藍風さんが少し照れていた。男子女子で何かしていたらこういうことする子いたよな。そんな3人を車に乗せて車道に出ようと校門に向かった。雨足が激しく、暗いためか玄関から校門が見えなかった。
(いや、おかしい)
ライトに照らされていればもっと視界は良いはずだし、そうでなくても近づけばじき見えるはずである。もしかしたら―
「閉じ込められたみたいですね」
藍風さんが続きの言葉を冷静につぶやいた。
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その後、校門のある辺りまで近づこうと試みたが無理だった。ひとまず、校舎に戻り、学校の先生や通信手段に頼ろうと考えた。スマホは圏外になっていた。私と藍風さんは驚きこそすれどすぐにこの怪奇に対応する方向に頭が動いたが、城山さんと江崎さんは困惑しているようだった。
「あれ、校門が見えないですね」
「もしかしたら夜のうちに工事しているのかな」
江崎さんが素っ頓狂なことを言った。
「そうでも塀があるはずだよ。なんかおかしいよ」
城山さんはビクビクしていた。それを感じ取ったのか江崎さんは笑顔が消えて不安そうな顔をしていた。
「まずは学校に戻って先生に聞いてみようよ」
先生に聞いたところでどうなるわけでもないが、藍風さんは二人を落ち着かせるためにそう言ったようだった。
「う、うん」
私達は校内に入って(緊急事態だし、何もなかったとしてもごまかしは聞いただろう)、職員室に向かった。縁もない学校だが、学校という施設がやはり懐かしさを覚えた。と同時に、普段入ることができない建物が好奇心を呼び起こした。3人の後ろに続いて職員室前まで来たが、思っていたのと違って電気がついていた。
「失礼します」
城山さんが扉を開けて中に入った。続いて二人も入っていき、私も中の様子を外から覗いた。そこにはやはり予想通り誰もいなかった。
「沢田先生?どこー?」
「最後に帰るときにあいさつしたはずなんだけど…」
二人はその沢田先生を探して職員室とその近くを探し始めた。藍風さんは私の隣にやってきた。
「思った通り、先生がいません」
「ここは本来の学校でないようですね。文化祭の出し物が全く見えませんし」
「二人は気づいていなかったみたいですが。多分少し前の学校だと思います。自分たちの上履きはあったのでそんなに昔でないと思いますが」
「それに時計も止まっています。電気が来ているのが謎ですが」
「多分こうなったら何かするまで帰れないですね」
「何かわかりますか」
「うーん、学校の七不思議が少し前に流行りまして、カレンダーの日付がその辺りなのでそれが関係していると思います」
「知都世ちゃん、先生いないよ」
「どうしよう、電話も繋がらない…」
仕方なく、私は二人に現状を説明した。藍風さんは怪奇と関わっていることをあまり知られたくないということだったので私がまとめ上げるような形になった。(と言っても私も偶然気づいた風を装ったが)二人ともしばらくパニックになっていたが、やがて何とか落ち着いて話ができるようになった。今時のこの子の方が漫画やゲームでこういうフィクションのようなものに慣れているのかもしれない。
「それでさっきも言ったのですが、この学校の七不思議を何とかすればここから出られる可能性が高いんですよ」
「何とかするってどうしたらいいんですか」
城山さんの言うことはもっともだ。
「多分、七不思議の元をなくせばいいと思いますよ。まずそれを調べましょうか」
「それなら生徒会室に行きましょう。あそこには過去の校内新聞がありますし、ほら、この間行った神社のお札が貼ってあるし」
藍風さんが言うならそうなんだろう。二人もお札の話を聞いて生徒会室が安全だと思ったのか向かうことに反対はしなかった。道中は不気味なほど静かなほかには何もなかった。というより、どこででも見かけるような怪奇がなかった。
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無事、2Fの隅にある生徒会室に着いて、校内新聞を漁りながら学校の七不思議が何かを聞いた。江崎さんが言うには次の通りだった。
『視聴覚室のPCは殺人鬼がつくったHPに繋がる』
『図書室には読むと呪われる本がある』
『東側2-3F間の踊り場にないはずの大鏡を見ると鏡の自分と入れ替わる』
『第2理科室の人体模型は自分の部品を本物にしようとしている』
『第1美術室に書きかけの口紅の絵を置くと血を抜いて絵の具にされる』
『第1音楽室の肖像画は人の悲鳴を楽器にして音楽を作る』
『保健室の奥のベッドに反対向きに寝ていると人形にされる』
いかにもな七不思議だ。聞いたことがあるようなないような感じがそれらしいと思った。しかし、それを聞いた城山さんが恐ろしいことを言った。
「それ、新校舎の七不思議だよね。旧校舎のは別にあるんだよ。それはね―」
時間がかかりそうだ。