第161話 お猪口(中編)
第161話 お猪口(中編)
結論から言うと、私は勿論、みーさんも藍風さんも決定的な解決方法を見出すことはできなかった。そこで、何かしらの情報を得るために、夜、現地(桜の木の付近)に行くことをなった。その後一緒に喫茶店で夕食、とはならずに解散した。2人は藍風さんの家で夕食を食べると言っていた。仲の良いことだ。
私は家に帰って、残り物で夕食を済ませてから呪術の本を読んで時間を潰した。本によると流行病に感染しないには赤紙または白紙に『蘇民将来之子孫也』と書いて家の戸口に貼ると良いらしい。病は気からとも言うから、私が何も考えずに書いてもないよりましかもしれない。何かあったら見直せるように付箋を貼っておいた。そんなことをしているとみーさんから夕食風景の写真が送られてきた。奥に小さく映った藍風さんがはにかんでいた。料理は和食がメインで、盛り付けが女の子らしく可愛らしかった。どちらも1人暮らしをしているから当然なのだろうか、それとも特別こういうことができるのだろうか。
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風呂から上がって簡単に仮眠を取った後、眠気覚ましのコーヒーを飲んでから車で藍風さんの家まで行った。1人なら自転車で桜の木の元に行くのが手っ取り早いのだが、藍風さんはともかくみーさんは移動手段を持っていなかったからだ。
藍風さんの家の前に着いたときには2人とも門の前で待っていた。藍風さんは登山服風の格好、みーさんは喫茶店のときの格好に一枚多く羽織っていた。前に着ているのを見たことがあるものだった。荷物に入れてきている辺り準備が良いと思った。2人は少し眠そうにしながら後部座席に座っていた。運転中も静かだった。車中にはオレンジと桃のような香りが漂っていた。
幸いにもけもの道に続く山道の近くにちょうどよい空き地があった。そこに車を停めてエンジンを切ると、人口の音がなくなったからだろう、暗い静かさが不気味に現れた。風が木々を揺らす音が聞こえた。
けもの道は私が先行した。後ろから懐中電灯の光が2つ追うように動いていた。2人にとって足元が不安定で、さらにみーさんが周囲のものに触って何かを探していた分、前回来た時よりも少し遅めに歩くことになった。私も途中で立ち止まったときに辺りを見渡したが、桜姫も珍しそうな怪奇もいなかった。
桜の木の下には花びらが散らかっていた。藍風さんは木の周りを歩きながら花や枝、根本と色々な所を見ていた。みーさんは椅子代わりの石に腰掛けて何かを探索していた。その2人を時折視界に入れながら私はけもの道の先(桜姫から逃げたときに飛ばされて出てきた方)を進んで行ったが、すぐに行き止まりと思われる場所に着いた。
「何かありましたか」
元の場所に戻り、桜の近くからみーさんの近く、石の辺りに移動していた藍風さんに尋ねてみた。
「うーん…。何もない、ですね」
藍風さんは手を止めてこちらに向き直って答えた。
「そちらはどうでしょうか」
今度は桜の近くにみーさんに尋ねてみる。
「こっちもダメですねー。驚くくらいにです。そっちはー?」
みーさんに何も見つけられなかったのは予想外だった。
「ただの行き止まりでした。あの道はもう使われていないようです」
「それなら、一旦引き返しませんかー?、どう?」
みーさんが私と藍風さん、それぞれの方を向いて提案する。確かに何も見つからないなら戻るのが適切だ。桜姫を再度呼び出すことも案の1つだが、急ぎではないし、今捕まってもしてあげられることがない。軽くうなずくと、藍風さんが「はい」と小声で言うのが聞こえた。
帰りの道は行きより速く進んだ。何も探さずに一気に戻ったからだ。車の中に戻ってからようやく自然に話をすることができて、話の続きを落ち着いて聞くことができた。お互いの名前を出さないように注意するとぎこちなく、ふとした拍子に誤って呼びそうになった。
みーさんが言うには、桜姫の痕跡も、私や地元住民が利用した時の記録も残っておらず、本当に何も分からないとのことであった。特に、私のリュックサックを触っていても何も見つからないのは歪で、物の記憶(印象に残った出来事)がないのではなく、意図的に隠されていることを表しているらしい。だから、桜姫は高位の怪奇ではないかと考察していた。(もっと高位のモノなら隠した後に偽の記憶でカバーまでするらしい。)藍風さんも分かったことはなかった。2人ともそれらしい気配を感じなかったと言っていた。証拠がなく、疑われかねないような状況であったが、何もないのが逆に怪しいことが、話の真実味を裏付けていた。(最も、2人は疑ってはいなかったと思う。それくらいは信用している。)
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