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第159話 夜桜(後編)

なんとか当日中です…。

第159話 夜桜(後編)


 その時、私と桜姫の間には沈黙が流れていた。桜姫は私の方から桜の方に目を移していた。ただし、その手(と言うか樹木?)には私の日本酒の瓶が握られていた。その様子を見ながら私は考えた。


 今まで怪奇に対応して、その結果として封印や破壊を行っていた。それは怪奇にとっては殺しに相当するのだろう。しかしそれは私たち人間が生きるために必要なこと、害を加えるモノに対抗することと考えられないだろうか。それに、害を加えるものでなくとも、私たちは動植物を食べて生きているわけだ。生き物は他のものの犠牲で成り立っているということは何を言っても否定できない。


 桜姫は私の日本酒を大胆にもラッパ飲みしていた。お猪口が私の手に握られていたためだ。その姿に警戒しながらまたも考えた。死にたがっているとして、正常な精神状態なのだろうか。手を貸したとして殺人(?)幇助にならないだろうか。他の仲間(いるのか分からないが)から復讐されないだろうか。そう考えることは不自然だった。言葉、考えが通じることで、今まで怪奇とひとまとめにしていたモノたちを身勝手に区分していた。怪奇は怪奇だろう。どちらの考えが正しいのだろうか。分からない。


 「分かりました。それで、どうすればあなたは死ぬのでしょうか」

 沈黙を破ったのは私が先だった。


 「それは、どうでしょう、切り刻まれれば死ぬと思いますが、でも楽に死にたいのです」

 最もな話だ。苦しみたいものはいないだろう。


 「それはどのようにすれば…」


 「分からないのです。田中さんも、自分が苦痛なく死ぬ方法を知っていないでしょう」

 改めて、最もな言葉だ。


 その後、再び沈黙は続いた。木々のざわめきと、桜姫が酒をあおる音が時たま聞こえた。桜姫は何も話さなかった。これ以上話しても解決しないことが分かった。


 「桜姫さん、私にはどうすればよいのか考え付きません。どうでしょう、知り合いに尋ねてみますから、ここから出してもらえませんか」

 協会や藍風さん、みーさんに聞かないことにはどうすることもできない。


 「そう、あなた、懐に物騒なものを持っていたから、それで一思いにやってくれるだけでもいいのよ、それでもそこまで言うのだったら、もっと良い死をくださいな」

 少しだけ楽しそうに桜姫は言った。それから空になった私の日本酒を返してきた。私はそれを受け取って、他のものとまとめてリュックサックに詰めた。何に興味を持ったのか、桜姫がその様子をじっと見ているのが視界の端に映っていた。


 「それで、どうやって連絡を取ればよいのでしょうか。ここに来ればよいのでしょうか」

 けもの道に戻る手前で、確認をし忘れていたことに気付いた。振り返ると、桜姫は桜の根元に上半身だけを残して沈んで(?)いた。


 「そうしたら、その瓶にお酒を注いで、ここまで持ってきてくださいな」

 そう言って桜姫は地中に消えていった。酔いすっかり冷めていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 家に着いた頃には日が昇りかけて辺りも明るくなっていた。バックレることも選択肢には入っていたが、それが知られたときにどういった報復が待っているのか分からなかったため却下した。何故か桜姫に憐憫も感じて、断る気分にならなかったのもあった。しかし、この件を誰かに連絡するにも早すぎる時間だった。軽く朝食を腹に入れてから仮眠をとった。


 起床後、藍風さんに連絡をしようとしてスマホを取り出したところで、学校が始まっていることを思い出した。半端な時間に起きてしまった。とりあえず支部に連絡をしたら、普通はないような話だったからだろう、報告書を提出するように言われた。普通の依頼なら話を受け、真偽を確認し、現地調査があり、etc.と進んで行くから、その真偽の確認に使われるのだろうと思いながら、夜にあったことの詳細を書き出していった。しかし、この時点では依頼でも仕事でもなく、ただの相談事だった。



 件の報告書を出してから、遅い昼食をとって、雑事をして時間を潰し、頃合いを見て藍風さんに連絡をした。少ししてからスマホが震えたが、それはみーさんからのメッセージだった。どう情報が流れたのか、報告書の内容に興味を持ったとのことだった。報告書以上の詳細を求められた所で藍風さんから返信があった。彼女にもよく分からないから専門家に尋ねるのが良いとのことだった。了解した旨とみーさんが興味を持っている旨を伝えると、少し間が空き、それからみーさんと藍風さん、それから私でどこかで話さないかと返ってきた。

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