第153話 車両トラブル
第153話 車両トラブル
朝、目が覚めたときに、ホテルのベッドの柔らかい感触と見慣れない景色のせいで、一瞬仕事のために泊まっていると勘違いした。何の依頼だったか思い出せないことに混乱しそうになったところで、弦間さんとパーティーに行った後、家に帰らずにホテルに泊まったことを思い出した。せっかく仕事以外で外泊しているのだからと、急いで家に戻らずに昼の内は観光をすることに決めた。(その分、当然のことだが、個人的なホテルの利用だから自腹だった。)
早く表を歩きたかったから、併設のレストラン(バイキング形式だった)が開く時間の少し前に、朝食のために1階に下りた。入口の前にあった椅子に座って備え付けの新聞でも読もうと思っていたが、私が下りた時には既に開いていたらしく、数人の先客がいた。料理はレストランで作られていたのだろう、普通のバイキングよりも美味しかった(が、品揃えはまあまあだった)。
特に行き先は決めていなかったため、スマホで適当に調べて、まずは近場の自然公園に行くことにした。駅に向かうサラリーマンたちに紛れながら、都会の朝の空気を感じ、ほどなくして目的地に着いた。
公園にも名所が幾つかあったが、それだけでなく、ある程度人工的に作られた広い自然を見ているだけでも楽しかった。整列している木々、直線的に剪定された植木、整えられた芝生にポンプが駆動している池、どれも日常的に触れるにはちょうど良いと思った。
公園の中にはその辺りでよく見かけるような怪奇の他に、数種類の鳥のような怪奇が特に目立っていた。広さが十分にあるためだろう、それぞれが縄張り争いをすることもなく、上手く棲み分けられているようだった。最も、縄張りの境界と思われる場所では、小競り合いが行われているのを数回ほど見た。その争い方も不思議で、お互いにお互いの嘴をこすりつけて、相手に自分と同じ色を塗るというものだった。ある程度色を塗り付けられただけで抵抗しなくなり、色が塗られただけで、何故か大きさがそもそも違うのに、自分の群れに引き込むことができるようだった。時間が経つと形も変わっていくのかもしれない。怪奇はわけがわからないが、この程度なら観察している分には面白い。
次に、時間も時間だったため、昼食を食べに大通りへ行った。地下鉄に乗ったが、途中のトンネルに紫色のもやのようなモノがいくつも貼り付いていた。大通りは活気があって賑わっていた。専門店にふらっと入って中を見ているだけでも面白かった。古い物を扱っている店舗、例えばカメラ屋には付喪神化しているようなモノがあった。古着屋には服に憑りついていると思われる、同じ服を着ている怪奇(恐らく幽霊)が浮いていた。それぞれに思いなどが残っているのだろう。みーさんが行ったら大変だと思う。
昼食に食べたつけ麺は麺が太く歯ごたえがあり、魚介ベースのつゆといい具合に絡んで非常に良かった(歩いたこともあるだろうが)。
その後もスマホで調べた(そこそこ)有名な観光地に行った。どこを見ても飽きることなく、ただ歩いているだけでも楽しかった。夕食は駅内にあった洋食屋に入ってオムライスを食べた。特に食べたかったわけではないが、他になかったのと、どうせ食べるなら普段選ばないものをと思ったからだ。実際、案外美味しかった。
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帰りの新幹線は主に出張と思われるサラリーマンが乗っていた。新幹線が動き出してしばらくすると缶のプルタブを開ける音とビールの匂い、それから駅弁の匂いが微かに漂ってきた。私はタブレットで小説を読みながら時々窓の外の暗闇に目を向けた。
途中で路線にトラブルがあった。幸いにもホームに車両があったときだったから、最悪動かなくなってもそこで降りて泊まればよいだけだったが、いつ動き出すか(あるいは動かないか)わからなかった。私はある程度予定や動きに融通が効くためそうでもなかったがが、周りは相当苛立っていた。翌日が休みだったならまだましだっただろう。
G駅に着いた頃には夜遅くなっていた。そこから電車に乗って文松駅に着いたのは日も変わるころだった。これなら前日に帰ってもそう変わらない時間に着いただろう。家までの風景は見慣れたもので、安心と寂しさが半々の気持ちになった。家に戻った後は水槽の中も大人しかったため、他にすることは翌朝以降に回すことにして、すぐに布団に入った。
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