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第15話 夢の中の幽霊(後編)

第15話 夢の中の幽霊(後編)


 夢から覚める夢を繰り返してから、普段通り過ごしていてもそれが電信柱の陰から出てきて実はまだ夢の中にいるのではと考えると落ち着いてもいられず、常に気を張っていた。自宅でまでこうなのは中々に辛かった。ストーカーに悩まされている人はこういう気持ちなのか。起きてからは現実的なことしか起こっていないので、現実だったと思うが、初めの方の夢は現実味があったと書いてあるので実は夢なのかもしれない。そんなことを考えて日中過ごしていたが、よく眠れていないために、疲れが出ていたようだ。しょうもない失敗をした。別に誰かに迷惑が掛かったわけではないが、こういうのを見逃さないのが奴らで嬉しそうに詰ってくれた。お友達のミスは大事でもかばうのに。攻撃のネタを与えたことが不快だ。眠る時間になって、またそれが来るとは思ったが、しかし、寝ないわけにもいかないのでできるだけ快眠をとろうと早めに寝ることにした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 気づくと夢の中にいた。またもや明晰夢で思った通りに動くことができた。そこはどこかの借家のようだった。窓の外には同じ見た目の家が並んでいた。少し昔のものらしく、和式便所、バランス釜、ブラウン管テレビ、すりガラスの窓…。どれも懐かしいが、そこに住んでいたことはなかった。薄暗い室内の柱には何かのためにあけた穴がところどころ開いており、壁はざらついていてヒビが枯れた柳に見えた。家の中をあらかた調べた私は外に出ることにした。


 (あれが絡むならここを出ると全く別のところに着くが…)

 予想に反したことにそのまま外に出ることができてしまった。眼前の駐車場は土がむき出しで、なぜかど真ん中に古ぼけた自転車が停まっていた。敷地を出ると路地は砂利道になっていた。久しぶりの感触を踏みしめながらアスファルトで舗装された道まで行き、そのまま左手に進むことにした。


 (そういえば先の家は冷蔵庫も洗濯機もなかった)

 どうしてかそのことを考えていたことを覚えている。やがて坂道に差し掛かりそのまま上っていった。そのまま道なりに左に曲がり進んでいった。両脇には古風な家や農家の小屋らしきものが見えた。トラクターが置いてあり、ビニールハウスが整然と並んでいた。あの家にいたときからだが、そこでも人の気配がなかった。また途中から人が出てくるのだろう。しばらく歩くと入り組んだ路地に差し掛かった。両脇は古風な家々から塀のある一般的な家に変わっていた。一本道を進み当てもなく歩くと道はそこで途切れていた。


 (戻ろう…)

 もと来た道を引き返そうとしたが、坂を上ってからは一本道だったのを思い出した。そこまで戻るのは馬鹿馬鹿しく感じ、どうせ夢なのだから家を突っ切っていこう、そんなことを考えたとき、またそれが現れた。


 (逃げろ!逃げろ!)

 正直にUターンしていたらそれに近づいていただろう。待ち伏せでもしていたのか。当初の予定通り、右手に見えた家に門から侵入しその庭を通って裏手に出た。しばらく進んで(何故かやたら長かった)塀をよじ登り飛び降りた。


 そこは夕暮れの田舎だった。飛び降りた背後には土手があり、枯れた水田の間に細く曲がりくねったあぜ道が続いていた。所々転々と小屋やブルーシートで包まれた何ががあった。それをまいたらしかったため、とりあえず近くのブルーシートに近づいた。


 (変なにおいがする…)

 想像していたのは枯草の臭いや機械の埃っぽい匂いだった。そもそも夢の中だから無臭とも思っていた。しかし、得も言えぬ腐った臭いがその下から漂っていた。野菜ではなく、肉が、それもたくさんのが、隠された下にある。覗こうと思う好奇心と、臭いものをこれ以上嗅ぎたくないというごく普通の考えが頭の中で巡り、無難に後者を選んだ。その先に進もそこらにある小屋も、他のブルーシートも同じ臭いがした。だんだん嫌になってきた矢先、あぜ道が二股になっていた。片方が階段になっていて、堤防につながっていた。迷いなくそちらを選び、上に上がった。反対側の下にそれがいた。


 (ここから離れなくては…)

 気配を消して脱しようとした、しかし、いつの間にか少年が近くにいて、いきなり奇声を発した。その音に気付いたそれがこちらを向いた。そこから離れようと走ったが、堤防の上は見晴らしが良く、隠れられそうなところも行く先もない。またあの少年が現れたら隠れていても逃げ切れない。あてもない。ここは夢なのか。息が切れる。自分が知らないものがあるのが現実だが、そのことを自分が本当に知らないのか、忘れているが夢の中だから出てくるのかも分からない。夢なら夢でも自分で適当に組み立てたものがあたかも知らないもののように出てきているのかもしれない。手のひらのしわを見たが、そもそも普段よく見ていない。その時どう見えたのかは覚えていなかったし、本当の手のひらのしわと同じだったかは知らない。ともかく、夢と現実の区別に自信がなくなりながら堤防を走っていった。


 しばらく走るとようやく目の前に大きな高架橋が見えてきた。いつの間にか水田のあった側は川になっていて、ごみや木の板が浮いていた。反対側は何かの工場の裏手になっていた。そちら側に降りて行き、とりあえず道に出ようとフェンス沿いに歩いて行くがいつになっても途切れない。またそれに出くわすのではないかと思い、フェンスに足をかけてよじ登り、工場の中に入っていた。


 (どうせ誰もいないだろう)

 建物の中には簡単に侵入できた。鍵がかかっていなかったからだ。真っ暗で、非常灯が寂しく光っていた。手近な扉を開けると、会議室だろうか、机といすが並んでいた。やっと腰を下ろし一休みしながら現状を考えた。


 (あれは何か。目的は?)

 わからない。


 (あの少年は何だ?)

 知らない。逃げるのに夢中で怪奇がどうか見ていなかった。


 (何故私の夢に出てくるのか。そうだ、何故私の夢に出てくるのか。ただの夢なら私の内在意識だろうがあれは怪奇、幽霊だ。それが出てくるということは何かの原因があって私の夢に現れているのだ)

 原因。思い当たる節。怪奇に触れるようになってからあちら側との余計なトラブルにはなるべく関わらないようにしている。ここ最近妙なところに行くときは藍風さんがいた。それ以外は普段と変わらない生活を送っていた。人付き合いも少なく、誰かが死んだとも聞いていない。似たような幽霊は現実では見えていなかった。ともかく、考えてもわからないが、ということは永遠に追ってくるだろうということだ。


 (そもそも、何故、あれから逃げようと思うのか?)

 明らかに危険な見た目をしている。追いかけてくる。臭い。存在を認知しただけで逃げなくてはとシグナルが鳴る。しかし、ここは夢だ。そうわかると、だんだん腹が立ってきた。ここは私の夢なのに、この先も延々と睡眠不足が続いてたまるか。そうなるとこちらから探して叩きのめしてやろうという思いが湧いてきた。どうせ夢だ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 そうしているうちに、いつの間にか見慣れた天井があった。夢から覚めたらしかった。が、どうせこれも夢だろう。というか夢だ。硬貨虫の入った水槽がないし、所々少しずつ違っていた。窓の外にそれがいてこちらを覗いていた。上等だ。手近にあった小型テーブルを持ち、窓を開けてくぐり、外に出た。なぜか動けなくなることはなかった。それはこちらから近付いてきたことに新しい反応をすることもなく、氷のような腕を伸ばしてきた。私は、そこ目掛けてテーブルを思いきり叩きつけた。幽霊なら通り抜けるのではないかと思うが、夢の中だからなのか、鈍い反動が返ってきて、それの腕があらぬ方向に曲がっていた。それでもなおそれはこちらに触れようと体全体を近づけ、気味の悪い音を放ち始めた。私は距離をとり、近くにあった花壇の杭を引っこ抜くとそれ目掛けて突き刺した。杭はなぜかコンクリートを貫いてそれを串刺しにした。それは身じろいでいたがその場から動けなくなったようだった。体の状態に反応することはなく、一転を見つめ、何かつぶやいていた。終わった、と確信した。私が自分の夢でそう思ったのだからそうなのだ。それが何者であるかはどうでもよくなった。



 そういったわけでこの日は機嫌がそこそこよかった。思わず、夕食に少し高い惣菜を買ってしまった。(普段惣菜自体買わないのに。)その後も、自宅近くの明晰夢を見たときは向かいのアパートの駐車場にそれが固定されているのが見えるのだった。見栄えが悪いので今度誰かに相談して消してもらおう。




 

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