第152話 東洋文化研究会(後編)
第152話 東洋文化研究会(後編)
その後も特に誰かと接触することはせずに、弦間さんは異質な能力者を選んでただ教えてくれた。それは私と彼らに友好を築かせるためというよりも、私が出会っても不用意に近づかないようにするためであるように思った。同時に、弦間さんの目的も同じであるように思った。
漫画やアニメで超能力ものや魔法ものを見ていた経験からおぼろげに理解をしていたつもりでいたが、この時に見聞きしたものは考えの範囲を超えていた。怪奇や能力自体がそもそも常識の外側にあるものだが、その中でもより外側にあるものに違いない。
「ちょうど今遅れて来た、あそこの大きな荷物を持っている彼、分かります?」
会場の入り口には、大型のかばんを持った筋肉質の男が立っていた。
「あの人?、像が変に二重に見えるのですが。怪奇でしょうか、人でしょうか」
人の姿に似ている怪奇を見たことはあるが、その場合でも重なり合っている像は同一だった。しかし、この人(?)は向こう側の姿とこちら側の姿がところどころ違っている。簡潔にすると、こちら側の姿が人間に寄っている。
「そうか、あれはやはり怪奇か。見事に人の振りをしている。あの男は城野だ。怪奇の群れが出たときには専ら彼が対応している」
「それより、やはり怪奇、とは…」
さらっと大事なことを流そうとしているように聞こえる。
「ああ、あの男は、誰から見ても人間なんだ。怪奇としての反応もない。戸籍もある。孤児院で育ってから今までの履歴にも怪しい所はない。ただ、何となく妙な所があってね、いや普通の人間でもしているようなことなのだが、何と言うか…」
弦間さんはビールを一口飲んだ。
「それから、気にはなっていたんだ。それがやはり怪奇とは。上野さんでなければ見抜くことはできなかっただろう」
「それ、彼にとっては望ましくないのではないでしょうか…」
わざわざ隠していることを暴かれるのは良い気分ではないだろう。私からしたら、服を着ないで歩いている人に裸を見られたといちゃもんをつけられているのと同じだが。
「そう、だから、このことはここだけの話にしよう。もし、正体を知っていることに気付かれたら、私達は無事では済まないかもしれない。彼にも事情があるだろうからね」
弦間さんはもう一度さらっととんでもないことを言った。何となく、私が誘われた理由が分かったような気がするが、巻き込まれてしまった感は否めない。
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弦間さんが話をしていないときは、ビールを飲みながら会場の様子を見ていた。怪奇の存在を知ってから出会った能力者のうち、戦闘向きの人たちは弦間さんも含めて皆正統派だったと改めて思っていた。いると言われれば納得してしまうような?ばかりだ。
「ここに来るような能力者は、皆そうも異質なのでしょうか」
つい気になって弦間さんに聞いてみた。
「異質…、まあそうだがね。ここには私のようなものもいる。例えば、あの壁際にいる2人」
弦間さんがそっと指さした先には似た背格好の男女がいた。顔つきも似ている。年は、20代だろうか。
「あの2人は双子でしょうか。よく似ていますね」
「当たりだ。あの2人は念力を使う。兄の方は攻撃に、妹の方は防御に使うことが主らしい。これはフィクションに出てくるような能力だね」
確かにその通りだ。
それから教えてもらった人達は正当派だった。弦間さんや嶽さん、桾崎さんのような集団の一員が殆どだが、先の双子のような能力を持った人もいた。
パーティーが終わるまでしたことは、結局食べて、飲んで、部屋の隅で弦間さんと話をすることだけだった。同じように壁際で様子を見ていた人達の大半は帰りの頃にはいなくなっていた。途中で退場していたようだ。用事が済んだからすぐに帰ったのだろう。
私は最後まで残っていたため、会場を出たときには夜も遅くなっていた。せっかくだからそのまま近場のビジネスホテルで一泊することにした。そのあと弦間さんと二次会に行くということもなかった。いつもなら明るい街の中を酔いも入って気分よく歩くことができたものだが、聞いた話がまだ頭の中に残っていた。
ホテルにチェックインして、エレベーターに乗っている頃には酔いもさめて、本来の目的を思い出した。パーティー会場で見た人の能力に真似できるところはほぼなかった。才能か恐ろしい努力か対価の果てにあるものだ。
部屋に入った後、中を調べて、細長いバチ状の怪奇を部屋の外に放り出してから風呂に入った。ベッドに入って明かりを消してから、弦間さんの冗談(?)のせいで彼らが来年も生きているのだろうかとほんの少し考えた。
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