第150話 東洋文化研究会(前編)
第150話 東洋文化研究会(前編)
先日、支部に報告書を提出しに行ったときに偶然みーさんと会った。お互いにその後の予定がなかったから雑談も兼ねて一緒に昼食をとることになった。依頼のあるときはよく外食をするが、それ以外のときにはあまり外食をしていないような気がする。何だかんだこの生活は金銭的な心配が残る。
昼食をとったのはランチタイムにも開いている居酒屋だった。通された場所が個室であったため、みーさんの趣味よりも怪奇のことや依頼のことが雑談の内容となった。その際、戦闘力についての話題となった。私達が受けるような依頼は基本的には調査、捜索、観察がメインだが、時には戦いになることもある。その時は札で封印、ひるませ、etc.と、あとは純粋な物理攻撃(と幽霊相手には幽霊瓶)で対処しているが、それが効かない相手も当然いるというようなことを話した。そこの海鮮丼は安くて美味しかった。
帰りの電車の中でも続きを考えていた。依頼内容を選んでそういうモノに当たらないようにしているが、怪奇はわけがわからないから出くわしてしまうこともある。自分だけなら逃げることもできるだろうが、誰かといたらそれができない場合もある。
その話をしたからだろう、数日後、みーさんを通して弦間さんから戦闘向きの人たちのパーティーに呼ばれた。自分にも真似できることがあるかもしれないから、そのお招きに預かることにした。
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いつもの時間に起きて朝食を食べた後、文松駅からG駅へ向かい、そこから空港へ行った。車でも行くことはできるが、どこでアルコールをとることになるかわからないため(後は運転が好きではないため)、電車を使うことにした。直近の航空券を手に入れられたのは幸運だった。
飛行機で向かった先は首都だった。フライトの関係で昼食をとっていなかったから、折角だからと都心の方まで行ってそこで醤油ラーメンを食べた。通りにある昔からあるような店のはやはり美味しい。
その後、某駅前にある会場まで、これまた電車で向かった。窓の外に見えるビル群はいつ見ても素晴らしいと思った。改札を出ると、人込みに紛れて小さな怪奇がその足元を走り回っていた。会場には『東洋文化研究会』とそれらしい案内が出ていた。受付の前には弦間さんがいた。
「上野さん、こっち」
今日はカジュアルな格好をしている。そのため細身でも筋肉がしっかりと付いているのが分かる。
「こんにちは」
弦間さんが手招きしている壁の方へ向かうと、向こうもこちらに近寄ってきた。
「ん、それじゃ行こうか。予約は僕の名前でしてあるからね」
クールなように見えて、案外楽しみだったのだろうか。それとも待ち切れなかったのか。時間よりそこそこ早く来たが。
会場自体はごく普通で、バイキング形式のものだった。明るい照明の下にテーブルが幾つか並べられていて、床には柔らかそうなカーペットが敷いてあった。しかし、そこにいた人たちは普通ではなかった。服装こそどこにでもいそうではあったが、私でもわかるくらい目つきが鋭く隙のない様子であった。見える範囲に目立つ傷がある人たちも多くいた。既に何人かがテーブルの周りに集まって、飲み物を片手に雑談をしていた。私と弦間さんもビールを取りに行って隅のテーブルに行った。
「もう少ししたら始まるね。そうしたらどんな人達か教えるよ」
弦間さんが周りの人たちの顔を見ながら、ビールをちびちびと飲んでいる。
「ああ、そういえば特に話しかけるわけではないんでしたね」
私も真似をしてグラスに口を付ける。事前に用件は聞いていた。
「そう。特に話すこともないからね。何か用事のある時は話すよ、でも、顔ぶれを見るのが今回の仕事だね。それに、あまり近づかない方がよいグループもあるから。ほら、あの辺りにも似たような用事で来ている連中が」
弦間さんの視線が示す方を見ると、数人が同じように壁際に立って中央の様子を見ていた。
(なるほど)
協会に所属している中にもいくつもの集団があって、その間で相手の情報を入手しあっているのだろう。表では協力しているが、裏では争いとまではいかないまでも探り合いが行われているようだ。
やがて他の協会員も続々とやって来た。時間通りにパーティーは始まったが、会場の広さの割に人は集まっていなかった。弦間さんは、もともと来るつもりがなかったのか、仕事中か(その場合でも代理が来ていることもある)、あるいは怪我をしたのか死んだのかと笑いながら言っていた。冗談だと思いたい。
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