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第140話 近づいて来る(後編)

第140話 近づいて来る(後編)


 階段を一足飛びで上がっていく。まず、目当ての教室に行かなくてはならない。藍風さんが誰かの生徒手帳で見た学校の見取り図によると、図書室は2階の反対側にある。そこのPCのマウスが必要だ。この現象との関連は謎だが、藍風さんがそう言うならそうだ。


 2階に着くと後方から数人が追ってくる足音が聞こえた。他は別の階段から回り込んでいる。速さもばらついていて、予測困難だ。


 (急がないと…、あった)

 図書室だ。当たり前だが鍵がかかっている。蹴り飛ばして開けるには頑丈な扉だ。


 聴覚に集中すれば足音が2方向から近付いている。後ろを追ってきた数人は階段を上り終えたようだ。急がなければならない。鍵は開かない。まずい。もしかしたら…。


 (しかし、できるだろうか?)

 1つ妙案を思いついた。鍵穴を覗く。私の視力をもってすれば暗さは関係ない。形を把握することは簡単だ。単純な錠だ。ただ、懐の針金を正確に変形させることができるかは別問題だ。


 (ここが3mmくらいか?)

 鍵の形を正確にイメージして、針金を曲げていく。思った通りにも曲がらないし、間隔も不正確だ。


 足音が迫る。急がなければ。針金は何とか形になった。鍵穴に入れて回転させようとするが、動かない。迫ってくる。


 (回ってくれ!)

 必死に針金を前後すると、幸運にもガチャリと音が鳴った。開いた。急げ…。


 図書室に飛び込んで中から鍵をかけるのと、扉に体当たりする音が聞こえるのは殆ど同時だった。運に救われた。動機を抑えるのに一度深呼吸すると、PCは目の前にあった。



 (どうやってここから出ようか…)

 マウスを取り外して懐に入れてから、ふと考えた。唯一の扉の前には6人、だろうか、彼女たちが体当たりをしたり、取っ手に手をかけたりしている。残りは音がしていないからどこかに隠れているようだ。


 窓から飛び降りるのは厳しい。下はアスファルトだし、仮に安全に下りたとして、再び3階まで上るのはそれ以上に困難だ。外にいる人たちを突き飛ばすなり、投げ飛ばすなりは流石に無理だろう。こちらに危害を加えようとする怪奇や動物、人間には特に良心は痛まないが、そうでない怪奇や動物、人間に攻撃するのはよろしくない。ましてや彼女たちは被害者だ。依頼内容も理由の1つだ。


 ならば、やることは1つだ。タイミングを見て、扉の鍵をそっと開ける。かすかにカチャリと音が鳴る。その音を合図に扉が開いて、6人がなだれ込んできた。


 (今だ!)

 全員が入った瞬間、通常の入り口の反対側か扉を2枚まとめて開けた。左肩に誰かの手が触れる。廊下に片足が入った感覚がしたその瞬間に、振り返らずに後ろ手で扉を閉めて、後は走るだけだ。



 廊下を走る。階段が目の前に見える。そこを上ればすぐに1年3組だ。


 (匂いだ)

 誰かが死角に潜んでいる。そこまで計画的な行動をとることができるようになっていたのか。嗅覚が普通なら到底気付くことができなかった。


 何をしてくるのか、何を持っているのか、全く分からない。分からないものは避けるのが無難だ。目の前の階段を通り過ぎると、隠れていた足音が追ってきた。


 廊下の角を曲がって走り、もう一方の階段から3階へ上がる。ここには誰も潜んでいない。が、すぐ近くの教室に隠れている。また反対方向に回らなくてはならないのか。Uターンして方向を変えた途端に、またもや足音が増える。


 再び階段の前を通ると、数人が踊り場にいた。先頭の1人が手を伸ばしている。そちらに目向けて走っていたため、廊下に落ちていたロープに足をとられる。転びそうになったが、何とか立て直す。あと一息だ。


 1年3組が見えた。藍風さんが扉を開け、顔を覗かせて待っている。飛び込むと同時に藍風さんが扉に机をかませた。これでしばらくは開かない。追いつかれずに済んだ…。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「上野さん、大丈夫でしたか」

 立ち上がると藍風さんが心配そうに顔を覗き込んできた。


 「はい……、何とか……。これ……」

 呼吸を整えながら何とか答え、マウスとタブレットを渡す。扉を開けようとする音が聞こえる。


 「ありがとうございます。もう少ししたら、終わります」

 時計を見ると、藍風さんが言っていた時間にはまだ若干余裕があった。机の上には黒いボールペンと黄色いチョークが置いてあった。既に準備していたようだ。藍風さんはボールペンとチョークの間にタブレットを置いて、その上にマウスを載せた。



 扉を開けようとする音はますます激しくなっている。机でバリケードを作った後、はできることも特になく、じっと扉の方を見つめていた。


 「時間です」

 藍風さんの声が後ろから聞こえた。いつの間にか時間が経っていたようだ。私が振り返ると藍風さんがタブレットの上に未開封のスナック菓子を置くのが見えた。、扉からしていた音が止んだ。藍風さんは菓子に札を貼って、専用の袋に入れるとその口を固く閉じた。

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