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第137話 順番が違う(後編)

第137話 順番が違う(後編)


 「上野さん…」

 藍風さんに見上げられている。その目は自分には判断がつかないと言っているように見える。


 怪奇のことに関しては藍風さんの方が詳しい。経験も、判断も、いつも任せている。私ができることと言ったら、このような、怪奇以外のリスクを判断することだろう。


 「藍風さん、この現象を止める方法は思いつきそうですか」

 F子のうめき声と暴れる音が廊下に響いている。


 「すみません…。そればかりははっきりと言えません…」


 「それなら、一旦、この棒から外しましょう。ロープは結んだままで。ぎりぎりまでできることを考えるべきでしょう」


 「賛成です」

 その言葉の後にほっと一息つくのが聞こえた。



 コートかけの棒からロープをほどく。骨は折れていないようだ。F子は先ほどのE子同様、椅子ごと無理な体勢で立ち上がって、教室の方へゆっくりと動いていく。


 (転ばせるか?)

 ダメだ。大怪我をさせる可能性がある。ただでさえ椅子に貼りついているのだから、どう倒れるか分からない。


 (それともロープを引っ張ってみようか?)

 恐らく、力負けして引きずられるだろう。自分の体を傷つけるほどの力だ。結局、できるのはただ見ることだけだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 藍風さんと一緒にF子のすぐ後ろをついて行く。両隣には椅子と一緒に縛られた女子高生たちが展示物のように並べられている。並べたのは私だが、改めて客観的に見ると怪奇とは別のおぞましさを感じる。


 F子が立ち止まった。扉の前にだ。閉めていたのを忘れていた。


 (開けられないだろう)

 藍風さんも恐らく同じことを考えていたと思う。両手が縛られているのに扉を開けることは不可能だろうと。しかし、それは違った。F子は恐ろしい力で扉に体当たりをして、扉のレール部分をすぐに破壊してしまった。倒れた扉からガラスが飛散して、E子の頬に切り傷ができる。


 「ここまでしますか…」

 藍風さんが思わず呟くのが聞こえる。


 「そうですね」

 もしかしたら扉にガタが来ていたかもしれないとは言え、私(普通の成人男性)でも助走をつけて蹴り飛ばさないと無理なことだ。


 F子の肩の位置がずれているのが見て分かる。それでも何事もなかったかのように元いた場所に座っている。表情に変化はない。激しい動きの後だから若干脈が乱れている。しかし、息切れはしていない。


 「これは、私が中学生の時に体験した話なんだけれどもね、部活の帰りに手足のない子供に追いかけられたんだ。え? 違うよ。そういう人じゃなくて、明らかにお化けなんだよ。だって、浮いていたんだもん」

 誰も話していないのに、虚空に向かって1人で相槌を打っている。


 「もう、話も止められらないですから、時間稼ぎをします」

 再びF子に結ばれたロープを手にする。


 「お願いします。私は、この怪奇の情報がないか調べてみます」

 藍風さんが指さした先には10人の荷物が置かれていた。



 引っ張って廊下に運んだあともF子は話し続けていた。


 「で、その忘れ物を持って校門を出たときにはもう真っ暗。私の中学、すごい田舎だったから。そんな中だと1人で心細いでしょ。だから、なるべく明るい道を通ろうと、普段よりも少し遠回りをして帰ることにしたんだ。その道、明るかったけれども、人はいなかったからやっぱり気味は悪かったの」


 F子の座った椅子を引きずっていく。後ろを見ると、廊下に椅子の跡が続いている。


 「それでね、一か所、木が道に出っ張っているせいで薄暗い所があって、怖かったんだ。でも、元の道を引き返すのも無理でしょ。だから、えいっと通り抜けたんだ。だけど何事もなくて、ほっとして後ろを向いたらね、いたんだ。手足のない子供が、自分の目線くらいかな、そこに浮いていたの」

 「現実感がなくて、最初は反応できなかったんだけどね、その子がニヤッと笑ったときにさっと血の気が引いたんだ。そこからは全力でダッシュ。で、後ろをちらっと見たら、笑った顔のまま追いかけてくるの。もう泣きながら全速力。滅茶苦茶に走っていて、道もわからなくて、不思議なことに誰にもすれ違わなくて。でね、もう追いつかれるって時に交番が見えて、思わず飛び込んだら、そこに警察の人がいたの。汗だくで入って来た自分を変だと思ったんだよね、多分。驚いた顔をして『どうしたの?』って言われて、事情を説明しようと後ろを振り向いたの。そうした、もうそこに子供はいなかったんだ」


 廊下の角を曲がる。ロープが手と肩に食い込んで痛む。


 「その道を二度と使うこともなくて、その子供に会うこともなかったんだけど、あれ以来、私、夜1人で外を歩けないんだ。もう会いたくないよ。次、追いつかれたらどうなるか分からないもん。私の話はこれで終わりね」

 ロープの抵抗が途端に強くなった。


 (ここまでで、どれだけ時間を稼げただろうか)

 これ以上ロープを引っ張っても、自分が吊られていくだけだ。手を離して、何か情報は得られないか、F子の横をついて行く。


 F子は不安定な格好で歩いている。妙だ。壁に頬を、いや、左半身をこすりつけている。教室に直進しようとしているようだ。

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