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第136話 順番が違う(中編)

第136話 順番が違う(中編)


 B子がタブレットをタップする少し前に、私は既に立ち上がっていた。話が終わった瞬間に、失礼を承知で一番近くにいたJ子の肩を掴んだが、本人も、他の誰も反応しなかった。前後に軽く揺すってもリアクションはなく、C子は自分の怪談話を始めていた。


 暗がりの中、下から明かりに照らされた顔達は並以上の容貌を不気味に彩っていた。とにかくこの事態を止めようと、タブレットを取り上げようとしたが、机に張りついたように動かなかった。札を貼りつけても反応はなかった。その間もC子の話は止まらず、C子以外にも諫められることはなかった。


 (もう、容赦しなくていいな)

 悪ふざけにしては度が過ぎている。こちらも仕事で来ている。後々問題になったら、録画映像と協会が何とかしてくれるだろう。


 J子の座っている椅子の背を持って、後方に引っ張る。容易に動いた。だが、反応はない。


 「上野さん、これ」

 藍風さんが後ろから私に手渡したのは、ロープだった。礼を言って受け取り、J子と椅子を縛り、椅子ごと後ろへ引っ張り、教室の中にあった配管に結び付ける。ここまでしても、C子の話は止まらない。J子も抵抗しない。異常だ。


 「―私の話は終わり」

 C子がタブレットをタップしようとする。とっさにその右手を掴んで動きを止めようとする。しかし、その細さに反して力は強く、掴んだ腕ごと体を持って行かれた。


 「大丈夫ですか!」

 藍風さんが珍しく大きな声で問いかけてくる。


 「大丈夫です。しかし、次の番に移ってしまいました。もう、タブレットを壊しましょうか」


 「それは、危険だと思います。どういう反応をするか分からないです」


 「それなら、やはり…」


 「今のまま時間稼ぎをするのが無難です。その間に…何か見つかればよいのですが…」


 「ロープはまだありますか」


 「はい」

 藍風さんと手分けして女子高生たちを椅子に縛り付ける。僅かに感じる熱が人形ではなく、生き物であることを感じさせる。顔を覗いて気づいたが、彼女たちは瞬きをしていない。呼吸は、ゆっくりとしている。死んではいない。


 教室内に配管のような、結び付けられる場所はもうない。やむを得ず、廊下まで引きずり出す。抵抗はないが重い。ロープをコートかけのフックがあるパイプに結び付ける。教室に戻るときにちらりと後ろを向いたが、椅子に体を預けていた少女たちは全く身動きせずにうつむいていた。



 J子と教室の出口から近いI子からG子、A子からC子を各所に縛り付けて教室に戻った所で、D子の話が終わった。彼女もすでにロープで縛られていたから、私は次に話が進むことはないと思っていた。


 しかし、その予想に反して、D子は椅子ごと立ち上がり、鼻先でタブレットをタップした。確かに、足は縛っていなかったから可能ではあったわけだ。E子は何に動じることもなく、そのまま話し始めた。



 「口を塞いでみましょうか」


 「うーん…、そうですね」

 少し悩む風をした藍風さんの返事を聞いてから、既にポケットから取り出したハンカチをE子の口に詰める。それから素早く短いロープで口を縛る。抵抗は、ない。ハンカチは後で捨てよう。


 「れ、あらうぃあおうぃらおいいら―」

 しかし、E子は何事もなかったように話を続けた。正確には舌と口がまともに動いていないから、言葉としては成り立っていないが。


 まだ終わらない。藍風さんが必死でF子の座っている椅子を廊下に出そうとしている。すぐにそちらに向かって、一緒に引っ張る。少し遠くに括りつけて、同じようにもごもごと話しているE子を2人で引っ張る。


 「―あらうぃおあらうぃらおらい」

 絶え間なく話し続けていたE子が静かになった。


 (話が終わったのか)

 ほんの一瞬、2人の手が緩んだ。突然、E子があり得ないような力を出した。私達の手は振りほどかれてしまった。


 (彼女の脚は椅子の脚に縛られている)

 動けないはずだ。しかし、その考えもむなしく、E子は無理やり屈んだような姿勢で立ち上がった。そして、D子のように鼻先でタブレットをタップした。


 「!廊下から音が」

 E子は既に椅子に座り直って微動だにしていない。音の方に向かおう。


 廊下に出ると、そこには馬鹿力とはこのことと言わんばかりのF子が、顔の血管を浮き上がらせて、コートかけの棒を、ロープを、椅子を、ちぎろうと身を捩らせていた。


 「あの人、あのままだと体壊すと思います」

 藍風さんがF子を遠目で観察しながら心配している。既に内出血はしているとして、いずれ骨折か脱臼はしそうだ。ロープをほどけば、怪我は軽くなる。しかし、百物語が進む。そのままにすれば、大怪我は免れない。

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