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第134話 百物語(後編)

第134話 百物語(後編)


 10人は怖がる様子もなく、嬉々として百物語を続けていた。スナック菓子やジュースの匂いがただのお泊り会のような空気を醸し出していた。少し奇妙だったことは、どこにでもいる怪奇の姿を、百物語が始まってから見かけなくなったことだった。


 4周目まで行った。藍風さんは静かにタブレットで照らされている先を見ていた。私も足を組み替えて、お茶を口に含むくらいしかしたことはなかった。


 「ねえー、さっきの所、撮れてますか? G子ちゃんがビクッてなったの」

 H子が私達に話しかけてくる。


 「ばっちりですよ」

 とっさに片手でOKマークを作って声をかけたが、見えていないだろう。大体、カメラは固定されているからこちらから見て分かることではない。


 「ばっちりだってー。じゃあ、次、私の番ね」

 先ほどのH子の番だ。


 「えーっと、そうだ。おじいちゃんの話なんだけど、子供の頃、山で人魂を見たんだって。それも、少し前に死んだ知り合いの首が燃えていたらしいよ。終わり」

 H子がタブレットをタップした。


 「短くない?」


 「だって、ほんとのことだもん。次、次、I子、はやくー」

 緊張感のかけらもない。


 「うちの番ね。前にパパが話してくれたんだけど、会社の知り合いから聞いた話ね。『池から伸びる手』が出る公園があるんだって。そこは駅から住宅街への近道で、夜遅くに酔っ払いがよく通るんだけど、たまに池で溺死しているのが見つかるんだ。もちろん、柵もあって、池は深くないのに」


 「その公園ってどこ? 近くならやばくない?」


 「パパも聞いたけれど、教えてもらえなかったんだって。でも、違う県の話だよ。それで、その溺れて死んだ人たち、手足に何かに掴まれたような手形が残っていたらしいよ」

 「それでね、夜そこを通る人は少なくなったんだけど、つい近道だからって、使う人はまだいるの。溺れたのは酔って池に飛び込んだだけ、噂は関係ないって。それで、ある日、帰るのが遅くなったOLがそこを通ったの。少し怖かったけれど、前の方を歩くサラリーマンが先にそこを通っていたから、大丈夫かなって」

 「それで、見たんだって。サラリーマンが池から現れる無数の白い手に捕まえられて、手足や口を押さえられて、池の中に引きずり込まれるのを。うちの話はこれで終わり」

 I子がタブレットをタップした。


 「次は先生の番ね。大学のとき、先輩から聞いたんだけど、先輩の地元には『首なしの蜘蛛』がいるんだって。何だっけ、ああ、ジョロウグモ、見かけは普通のジョロウグモなんだけど、よく見ると首がなくて、それでも動いているの」


 「せんせー、それ、怖い話?」


 「ちょっと待ってね。どうして怖い話なのかというと、その蜘蛛を見た人は1週間後に死ぬんだって。実際、先輩の知り合いが自分の家に巣を張っていたのを見てしまって、死んだそうよ。先輩、電話で相談されていたのに、信じてあげられなかったってしばらく落ち込んだらしいよ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 それからも百物語は続いた。時々茶々を入れられながらもネタは尽きることなく、8周目まで終わった。中にはネットで見たような、昔流行ったような話もあったが、それでも普通の女の子たちの間で話が続いていたのは驚きだった。


 部屋の様子はと言うと、少し寒くなったくらいで、誰かが暖房の温度を上げたくらいだった。全員の心拍数も、目も、正常だった。お菓子とジュースは次々に誰かが配膳していた。


 途中、私と藍風さんが交代でしばらく外に出た他は、誰も教室から出ずに話に聞き入っていた。


 「じゃあ、私の番ね」

 A子の番だ。


 「私、昔誘拐されかけたことがあるの。そういう怖い話じゃないよ。5歳のときだったかな、1人で公園で遊んでいたら、知らない子がいつの間にかいてね。何となく遊ぶ遊具も同じだから、話しかけて仲良くなって一緒に遊んだんだ」

 「それで、帰るように言われていた時間になったんだけど、私は鍵っ子だったからまだ遊んでいたかったの。そうしたらその子が『おうちにこない』って言って、母もそれなら仕方ないって許してくれるんじゃないかなって何故か思って」

 「その子に連れられて行った先は、沼が近くにあるあばら家で、とても臭かったから誰も住んでいないとずっと思っていた場所だったんだ。引きずられるように家に入ると、妙に埃っぽくて、誰もいないし、電気もついていない、お茶が出ることもない、だけど居間に行ってトランプで遊び始めたんだ」

 「しばらくして、部屋が暗くなってもその子は電気をつけなくて、私が近くにあった電灯のひもを引いたんだけれど、何度引いてもつかなかったんだ。そのうちトイレに行きたくなって、居間を離れたんだけれど、何故かその子、着いて来たの。ようやく不気味に感じて、帰りたいってわめいて、それでもその子、表情を変えることなく、『まだあそぼう』って。走って玄関の方に逃げても、そこにあったはずの玄関がなくなっていて」

 「とうとう私、泣き始めて、気づいたら家で母に抱きしめられていたの。その間、何が起こったのかは誰も教えてくれなくてね。後で明るいときにあばら家を見に行ったとき、窓から私たちが遊んでいたトランプが見えて、ああ、夢じゃなかったんだって。二度とその公園には入らなかったんだけれど、遠くから見ると、その子がじっとこっちを見返しているんだ」

 A子がタブレットをタップした。

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