第121話 穴だらけ(中編)
第121話 穴だらけ(中編)
始めにしたことはマッピングだった。公園の地図を片手に穴あるいは窪みがあった場所と日時をまとめて、その他現場にあった気になる情報を書き込んだ。それと並行して藍風さんが現場周辺の写真を撮っていった。事前に情報は送られていたが、写真はピンポイントのもののみ、手書きのメモ(FAXがないかと藍風さん経由で聞かれて唖然とした、メールで送るように言ったら手書きのメモをスキャンして送ってきた。びっくりした)、後は協会が事前にヒアリングしたものだけだった。
更に担当の職員は休日だからと休んでいた。異常事態を前にして日常を続ける振りをして、眼を背けるのに都合のよい取っ掛かりを見つけることに関しては天才だと思った。いくらでも振休振出なり考えられるだろうに。そんなわけであまり大がかりな行動、例えば石像を削ったりだとか、監視カメラの映像を見たりだとかはできなかった。
現場は修復できるものは修復済みで埋めたり塞いだりされていたが、それ以外はビニールシートで覆われていた。勿論周りの視線に注意しつつ剥がして観察した。時間のかかる作業だったため、マッピング途中で休憩した。
「この辺りは風もなく天気も良いですね。少し寒いですが」
空いていたベンチに藍風さんと腰かけて、ペットボトルのお茶を飲む。少し冷たいがのどを潤すのにはこれくらいの温度が良い。飲みすぎることがないからだ。
「そうですね。丁度良いです」
いつもの、小動物のような両手持ちでペットボトルを持っている。
座っている所からは子供が遊具で遊んでいるのが見える。その横では親が声を送っている。少し向こうには親子がキャッチボールをしている。高校生だろうか、男女の学生が手をつないで歩いている。なで肩でおかっぱの女子が少しだけ強めに吹いた風に震えている。
「上野さん、少しそちらに寄っても良いですか」
藍風さんも寒かったらしい。私の方から風は吹いていたから、遮るにはもってこいなのだろう。別段聞かなくてもよいと思う。
「はい。大丈夫ですよ」
そう返事をすると藍風さんはピタッと寄り添ってきた。温かく、優しい香りがした。くっつくまでしなくても風は防げそうだとも思った。
その後風が吹くことはなかった。
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マッピングを終えてたときは大分暗くなっていた。だから街灯の下で地図を見ながら、次に出現するであろう場所を予測した。しかし、規則性らしいものは特に見当たらなかった。
「何か、法則がありそうでしょうか」
藍風さんに聞かれたが、規則性らしいものは特に見当たらない。高校以上の数学の知識を使っても分からないと思う。パズル好きや数学が専門ならまだしもだ。
「ええと、はっきりとはわかりません。東に移動している傾向にあることくらいです」
地図を見れば誰でもわかるようなことだ。藍風さんは少しだけ意外そうな顔をしている。大人は何でも勉強ができるわけではない。
「藍風さんは何かわかりましたか」
「私も同じです。後は歩いているときにも言いましたが、現場の穴と窪みはどれも同じ気配が残っていたことでしょうか。だから、1種類か1体の妖怪の仕業だと思います」
「ああ、群れの可能性もあるのですね。それは思いつきませんでした」
藍風さんの発想力と経験はやはりすごい。
「上野さんは何かわかりましたか」
「そうですね、石像とお手洗いの壁にあった窪みですが、削られていた表面はかなり滑らかでした。固い部分も崩れやすそうな部分もまとめて同じように削られていました」
集中しながら直接触り、見て分かったことだ。既に途中で話していたことだが。
結局明るい場所(街灯や自販機)の近くにビデオカメラとICレコーダーを隠して設置した。監視カメラの映像を見ることができなければ、自分たちで撮ればよい、クレームが入ったらその時はその時だという考えだった。
その後、車に戻って夕食を食べに行った。2人ともチェックインの時に見て興味があった、ホテル前にあるイタリアンに行った。店内は間接照明が利いていて、ファミリー層向けではなかったから多少値は張った。味はそれに見合う美味しさだった。使っていた野菜が新鮮だったのだと思う。ワインが飲めないのは残念だった。子供と行くところではなかった気がする。
ホテルに戻ってからは妙な怪奇がないか部屋の確認をして、風呂に入ってからすぐに布団に入った。髪を乾かしている間、ローカル局の番組を何となく流してみたが、すぐに飽きてしまった。