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第120話 穴だらけ(前編)

第120話 穴だらけ(前編)


 相変わらず朝は寒いが、少しづつ暖かくなっているような気がしていた。しかし枕元の温度計付き目覚まし時計を見るとそこまで変わっていなかったから、代謝が上がっているだけのようだ。食べ物のせいだろう。


 普段通りの朝食を終えて、コーヒーを飲みながら協会の依頼を見ていたが、やはり中々良いものはなかった。普通(どの程度が普通なのか不明だが)のものさえ見つからず、明らかにリターンに見合わないリスクのあるものや、安すぎかつ、つまらないものが少しあるだけだった。藍風さんや他の人たちと仕事をさせてもらっているおかげでなんとかなっているが、この先の不安は残っている。月収も安定しないし、それに12をかけても、ボーナスがない分、多く稼いでいないと昨年の年収を維持できない。



 それから荷物をまとめて車に乗り、藍風さんを迎えに行った。慣れた道でも雪道の場合どうあっても苦手だ。この時も途中にある線路の下の道に凍ったままの場所があった。丁度陰になっている窪みがあったらしく、タイヤをとられかけて肝を冷やした。


 藍風さんの家の前に着いてからインターフォンを押すと、いつもの格好の藍風さんが門から出てきた。片手にコートを引っ掛けて、少し寒そうにしていた。


 「こんにちは」

 助手席側のドアが開いて、コートと荷物が後部座席に置かれると、ふわりとシダーのような香りが車中に広がった。


 「こんにちは。よろしくお願いします」


 「こちらこそよろしくお願いします」

 藍風さんは律儀に挨拶を返してくれる。ちらりと見ると柔らかそうな頬に自然な色味が差している。


 「藍風さん、最近は寒くなりましたね」


 「はい。雪が降ると自転車に乗れないから、学校まで歩いて行かないといけなくて」


 「それだといつもよりも早く家を出ることになるのでしょうか。一層寒そうですね」


 「そうなんです。寒くて」

 その割には声が少し明るくなっている。


 その後も高速道路に入るまでの間雑談をしていた。ただ、雪道のせいでいつもより口数は少なかった。藍風さんは学校の期末試験が終わって、返ってきた科目の点数が自分の中では良かったらしい。「おめでとうございます」と言ったら少し照れていた。ミラーにばっちり映っていた。


 高速道路に入ってからは車中は静かだった。雪が融けていた分走りやすかったが、それでも慣れない道でスピードを出すのは集中していないと危ない。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 今回の依頼内容は、要するに下調べだ。


 O県兎日町にある大き目の公園の一画である日、案内パネルに奇妙な穴が空いていた。それは複数の丸に近い形でくりぬかれていて、そのいくつかは重なっていた。この時は悪質ないたずらと判断された。


 その次は芝生の上に、半球が重なった窪みがいくつもできていた。スプーンでくりぬいたら似たような形になるらしい。これもただのいたずらで、器用な子供の仕業だろうと判断された。


 それからしばらくして、その近くの石像の表面にほぼ半円状の窪みがいくつも現れた。石を削るような大きな音がしたわけでもないし、化学反応で滑らかに溶かすのは難しいため、関係者は不思議がった。


 更には滑り台に半円状の穴が空いたり、ベンチにもできたり、歩道や公衆便所の壁にも半球状の窪みができたりしたことで、この一連の出来事は異常だとようやく判断された。協会には色々な所からの伝手があって、今回は役場から依頼が来た。


 監視カメラの映像ではいくつもの穴、あるいは窪みが同時に現れて大きくなっていったらしい。また、これまでのところ動物や人には穴や窪みはできていないため、公園を封鎖することはなく、被害があった場所は補修、あるいは何かで覆って隠しているだけという。


 私達がするのはこの怪奇の正体を突き止めるところまでだ。現象なのか、何かがいるのか、などだ。後はもっと専門の協会員が対応することになっている。下手に手を出して自分たちまで穴だらけにされたらたまらないというのが2人の意見だ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 途中の道の駅で少し遅めの昼食を食べた。そばと天ぷらのセット(天ぷらそばではない)を2人とも頼んだ。そばは月見にした。どちらも結構おいしかった。先に食べ終わって、ふと藍風さんの方を見ると、唇が油で光っていて血色の良さをより目立たせていた。視線に気づいた藍風さんは恥ずかしそうにそれをを拭った。悪いことをしたと思う。



 下道に下りると雪は積もっていなかった。兎日町の辺りはそもそも降っていなかったようだった。先にホテルにチェックインを済ませて、荷物を置いてから公園に向かった。車に穴や窪みができたらたまらないので、少し遠くの駐車場に車を停めて、歩いて行った。



 公園は地図で見ていたようにそれなりの大きさであった。遊具、走路、樹木や植え込み、芝生に小さい噴水もあった。子供連れの家族やお年寄りが方々で体を動かしていて、その横にあるコートでは若い男女がテニスをしているのが見えた。何の変哲もない、普通の公園だった。

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