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第119話 丁字路

第119話 丁字路


 朝起きたときに顔が寒いと思ったら、外がいつもより明るかった。布団から手を伸ばしてカーテンを下から捲ると、予想通りというか、雪が降っていた。寒さのせいで布団から出る気が起きず、あと数分と思いながら枕元のスマホを触った。寝ている間に来ていたみーさんからのSMSに返事をして(ゲームの話だった)、その後もだらだらと過ごしてしまった。


 遅めの朝食の後、少し遠くのスーパーマーケットまで買い物に行った。特売だったからだ。自転車に乗りたかったが雪道では危険だろうから、やむを得ず車で向かった。途中、案の定、丁字路でスリップ事故があった。状況から見るに、右折時にカーブできずに対向車線に突っ込んだようだった。


 そのことは別にどうでも良いが、その道の近くの空き地に事故とは関係なく(位置的に明らか)狸の死体が2体転がっていた。轢かれてから少し歩いて力尽きたようだった。


 特売は車を使うのに見合ったものだった。むしろ車で行ったのは却って良かった。保存食や米、冷凍食品を買い込むことができた。野菜や肉、魚は安かったが鮮度なのか、照明のせいなのか、あまりおいしそうに見えなかった。値段も近くとそう変わらなかったのでそこで買うのはやめた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 一旦家に戻ってからは、日課の家事と勉強をして、昼食を食べてから野菜と魚を買いに近くのスーパーマーケットまで行った。こちらは歩いて行ける距離だったから傘をさして雪の積もった歩道を歩いて行った。こちらで買った方がフレッシュだ。


 帰り道の途中、隅の方に動かなくなっていた怪奇の塊を見かけた。松ぼっくりから毛が生えたようなモノ、丸い赤いモノ、犬のようなモノなどが固まっていた。何となく、死んでいると思った。寒さでそうなったのだろうか、風か何かで隅に寄せ集まったのだろうと思った。死んだ怪奇、つまり幽霊の類はしょっちゅう見るが、怪奇が死んだのは珍しい。物理的でない方法でもそうなるのかと少し感心した。いずれこちら側から姿を消すのか、他の怪奇が食べるかして消えていくのだろう。


 その塊から眼を逸らすと、その横にある塀の上を人ほどもある、巨大な狸の怪奇が器用に走り去っていった。不自然な足跡が雪の上に残っていたが、誰も気に留めていなかったようだった(そもそも通行人はほとんどいなかった)。


 (気になる…)

 朝の遅れの分、巻いて家事勉強をこなしていたから時間に若干余裕がある。足跡を追っていく。


 (ここか)

 そこそこ歩いたが狸の怪奇に追いついた。それは事故があった丁字路に佇んでいる。狸の死体は大半が雪に埋まってしまっているせいで姿が見えず、処理されていないようだ。そこにあると知らなければ分からないだろう。


 特に何もないと思って家に帰ろうとしたとき、狸の怪奇が動き出した。死体の方に歩いて行くと、まずスンスンと鼻を近づけて、それから耳を近づけている。


 (何をしているのだろうか)

 その動作の意味はこの行動を招くためだったのだろう。死体の方から「クゥーン、クゥーン」と鳴き声が聞こえ始めた。


 突如、僅かに見えている死体の影が、ぼうっとぼやけた。狸の怪奇が何かを咥えて引っ張り出している。そのままずり、ずりと後退して、出てきたのは―


 (狸の怪奇だ、幽霊か)

 幽霊の生まれ方を見ることができるとは。良い物も見ることができたし、向こうもこちらに気付いていない。そろそろ離れよう。狸の幽霊は、巨大な狸の怪奇に何か話しているようだ。鳴き声の応酬が聞こえる。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 夕食はしょうがを利かせた温かい中華風スープを作った。それでも寒かったためやることを済ませてからすぐ布団に入った。布団の中も冷たく、上にもう一枚羽織って潜り込んだ。



 それから少しの間、狸の怪奇が丁字路に座っている姿をよく見かけた。狸の幽霊から何を聞き出していたのか、しばらくして分かった。たまたま遠くから見ていた時に(田んぼを挟んで私の視力で見ると数本道を挟んで見える位置があった、例の電信柱のところ)、狸の怪奇が何かに気付いたような表情になった。すぐその後に、そこを通り過ぎようとした大型トラックのハンドルが急に曲がって、空き地に突っ込んで行った。私のいたところまで聞こえるくらいの大きな音が響いて、少ししてから煙が立っていた。


 その日のニュースで、運転手が重傷を負ったという記事があった。目撃者の証言では丁字路に差し掛かったところで不自然に急カーブを切ったらしかった。狸の怪奇がどこまでするのかは知らないが、これ以降その姿を見ることはなかった。今のところ運転手の容態について新しい情報はない。何事にも礼節を持って接しようと改めて思った。

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