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第116話 不思議な場所(後編)

第116話 不思議な場所(後編)


 ようやく壁の前に着いたときは本当に近くにいるのか自信がなく、ツァップさんと2人でぺたぺたと何か所にも触れて、それうしてやっと実感することができた。しかし札を持っていなかったため、今まで通りの手法で出口を作ることができなかった。


 「ここまで来たけれど、どうします?」

 休憩中には何となくどちらも話題に出さなかったし、歩いているときはそんな余裕もなかった話だ。


 「やはり、正規の方法を探すか、札以外の方法で穴を開けるかでしょう」


 「正しいやり方、思い浮かびますか?」


 「考えてはいましたが、残念ながら思い当たりません。ツァップさんはどうですか」


 「私もダメです」


 「そうなると、札以外ですか…」

 物理的に蹴り破るのは既に試していたがびくともしなかった。穴を開けたときに見えた壁の厚さからしても不可能だろう。


 「試しにですが…」

 ツァップさんがリュックサックから聖水の入った瓶を取り出し、その中身を壁にかけるも、何も反応しなかった。


 「上手くいきませんでしたか」

 内心期待していた。池を追い払った実績もあったからだ。


 「邪悪なモノでないから、やっぱり反応しないです」


 「手元にあるので使えるのは、後はこれくらいですが…」

 私は懐からライターを取り出して、軽く振った。


 「上野さんのアイディアに賛成です。やる価値はありそうです」


 ツァップさんもそう言ってくれるのならということで、荷物の中の燃えそうな、割りばし、要らない紙、その他もろもろを集めて壁の真下に置き、火を点ける。


 風もなく、空気も乾燥していたから、火はどんどん大きくなっていく。近くの草や枝をナイフで切って集め、追加する。煙たいが火の勢いは順調だ。怪奇であっても燃えるようだ。


 しかし、少しすると様子がおかしくなった。火の燃え方が不自然だ。急に小さくなったかと思えば、左側だけが勢いよく燃え上がり、瞬きをして次に見たときには全く違う姿になっている。壁に穴は開きつつあるが、見ていると不気味だ。


 それから、消火のことをあまり良く考えずに事に当たってしまった。少し考えて、近くの枝をやや太い辺りから切って、その葉で空気の流れを止めることにした。屈めば通れそうなくらいの穴が空いたところで、枝葉を重ねて、土をかけて火を消した。とどめに蹴りを入れて脆くなったところを崩した。後は冷えるまで待つだけだった。



 突然、空間がバラバラになった。雲が木から生えていた。空を見ると木の先が逆さに生えていた。それだけではなかった。壁から雑草が生えていて、石の半分が宙に浮いていた。やはり火を点けたのはまずかったのか、すぐにでも次の場所に移動しようかと考えたところで、遂に私達もバラバラになった。


 私の右腕は肘のあたりから宙に浮いていて、左足は近くの木から生えていた。代わりに腹から細い枝が生えていた。不思議と痛みもなく、体のバランスが崩れることもなかった。つまり、そう見えるだけであって実際は離れてはいなかった。断面は黒く塗りつぶされていて、普段と違う角度で見る自分の体に新鮮さを感じた。どうやってその部分を認識して他の場所で再現しているのだろうかとも思った。


 ツァップさんは下半身が横向きに宙に浮いていた。白い布がストッキング越しに見えてしまっていた。リュックサックは地面から生えていた。妙なことに私達が歩くと、そこらから生えていた足や手も同期して動いた。一歩踏み出すごとに外れる部位も、生える場所も変わっていった。昔のRPGで画面をバグらせると一歩ごとにマップチップが滅茶苦茶になるが、それに似ていると思った。途中で顔以外がなくなってその下に草が生えている姿になったときは、ツァップさんにニコニコと笑われた。どんなときでも明るいのはこうした状況では助けになった。私達は穴をくぐって次の場所に入った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 そこは今までと見た目は似ていたが、道のあちこちに古い道具が落ちていた。始めに漂っていた空間にあったものと似ていた。


 「上野さん、この部屋から出られるかもしれません。地上の気配がします」

 今まで以上に笑顔になっている。


 「それは嬉しい話です」


 「後は出口を見つけるだけです!」


 だからといってやることは変わらなかった。曲がりくねった道を、死角に注意してゆっくりと前に進んでいった。箪笥や鏡台、本の山や木の船など、様々なものが死角を増やしていたから一層歩みは遅くなっていた。いくつかは付喪神になりかけていたようで、影が二重に見えていた。しかし、動き出すこともなく、静かにそこにあるだけだった。


 途中で丁度良い古びた机と椅子2脚があったためそこで休憩した。ずっと地面にシートを敷いて座っていたから、しばらくぶりにそれなりに気持ちを落ち着かせて休むことができた。物があるのとないのでは憩いの質も違うものだと思った。この時点で水は残りペットボトル1本ずつになった。

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