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第114話 不自然な場所(前編)

第114話 不自然な場所(前編)


 次の空間は、入ってすぐに異常であることがはっきりする場所だった。配色が、不自然であった。空は黄色く輝いており、雲の色は薄紫、生えている植物は葉が白や赤、水色で幹は青にピンク、地面の石は緑色やオレンジ色、道は赤紫、とにかく幼稚園児がお遊戯で塗ったような、統一性のない滅茶苦茶な彩りだった。見ているだけで頭が痛くなった。


 「ファンシーだけど、見ると疲れます」

 ツァップさんも同意見だった。


 「本当に、その通りです」


 道は入ってすぐ右に大きく折れ曲がると、またもや左右に細かく蛇行していった。道の先にそれらしい臭いを感じなかったし、ツァップさんも怪奇の気配は感じていなかった。


 色彩は角を曲がる度にカラフルさを増した。その規則性もなかった。終いには、一つ一つの物が複数の色を持つようになった。空や雲を見ればオーロラの様でまだきれいに感じたが、葉の一枚や小石の一つまで何色にも分かれて、嫌がらせで誰かが塗ったのではないかと思うくらいだった。


 あまりにも目が疲れたので途中で休憩して、交代で目をつぶった。その間にも物の色が塗り替わっていった。どこを見ても混沌としていた。きれいに見えるのは今までの世界から来ていたツァップさんと物だけだった。再び歩いてすぐのことだった。


 「少し、疲れました。頭が痛いです」

 ツァップさんがついに額を押さえた。私も目の奥が痛み始めている。


 (どうにかできないだろうか…)

 先ほど聴覚を制御したように、視覚を制御すれば周りが見えにくくなる。そのような中で歩くことはできるだろうか。以前少し試したときはできたが、それは家の中でのできごとだった。ここでするのはリスキーだ。ツァップさんは私が思案しているのを見ている。私はカラフルではないから目に優しいのだろう。


 (何か…策は)

 必死で考える。1つ試していないことがあった。学校の知識は役に立つ。できるのかは不明だがやる価値はある。イメージして、集中して、視覚の一部を制御する。目の周りの筋肉がぴくぴくと動く。感覚を掴むのに時間がかかると思ったが、それに反してすんなりとできた。景色が白黒に映っている。


 「ツァップさん、色を見ないように視覚を制御できました。だから私が先導します。手を出してください」


 「そうですね、お願いします」

 ツァップさんは目を閉じると左手を前に出した。爪がきれいに整えられている。顔を見ると肌の白さと睫毛の長さが一層目立つ。その手を右手で掴んで、ゆっくりと足を進める。温かい。


 白黒に見えるようになってかなり緩和されたとはいえ、模様が次々に変わっていくのは見ていて不快だった。それでもどちらかがやらなくてはならないなら、私が適任だろうと思った。


 ツァップさんを引っ張りながらであったため歩みは遅くなった。次第に色は細かくなりすぎて、物の表面に複雑な模様がアメーバのように伸び縮みを繰り返しているように見え始めた。これを普通に見ていたら気が狂うと思った。声でコミュニケーションを取りながら、少しづつ、少しづつ、進んでいった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 道の終わりに辿り着いたときにはだいぶ目が疲れていた。同じように札を使って壁に穴を開け、色の暴力から逃げるように先に進んだ。そこは、色彩には問題はなかった。問題だったのは材質だった。上を見て恐る恐る視覚を元に戻すと空は木の葉でてきていて、雲は魚のうろこだった。横を見れば木の葉は石でできていて、木の幹は泥、草は濁った水だった。下はというと、道は動物の毛皮だった。


「ツァップさん、ここは見ても目が痛くならないと思います。ただ、ファンシーではありますが」

 そう伝えてから繋いでいた手を離す。指が少し絡まったような気がした。


 「そうですか?」

 ツァップさんの目が開いて、数回瞬きをした。

 「確かに、そうですね。気味が悪いです」

 「一体、この世界は何がしたいのでしょうか。あの蔵に吸い込まれてから訳の分からないことばかりです」


 「怪奇は、訳が分からないモノです。だけど、ここくらいの不思議さは中々ないです」


 私達は再び曲がりくねった一本道を進んで行った。それらしい怪奇の元がいない(ない)のが奇妙であった。気配も臭いも、他のそれらしいものもなかった。それでも何度もうねっている道に、警戒をし続けていた。途中で休憩した時に地面に座ったが、生暖かさと毛の感触が不快だった。


 前の場所と同じように、こちらも進むにつれてばらばらになっていった。木の葉は氷でできた物に煤でできた物、木の幹には煉瓦でできた物に綿でできた物、どうやって成り立っているのか全く分からないが、その場に存在していた。



 またも突き当りに差し掛かったため、札で穴を開けようとして気づいた。もう残りが2枚だけだった。ほかに手段もなく、1枚を使った。

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