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第110話 不思議な蔵(前編)

第110話 不思議な蔵(前編)


 同じものを見ていても、人によって見え方が違う。というのは事実であるが、それを建前にして屁理屈や言い訳をするものではないと思う。



 朝食はコーヒーを切らしていたことを忘れていて、何となく物足りない感じがした。結局コンビニまでひとっ走りして缶コーヒーを買った。駐車場でちびちびと飲んでいると、猛禽類が空を飛んでいくのが見えた。この辺りでは珍しい。


 それから家事を済ませて、依頼のためにG駅に向かった。さらにそこからバスに乗って、外れの方の杉紙地区に行った。バス停から下りて歩くこと数分、目的の家が見えた。話に聞いていた通り、かなり大きい旧家であった。



 今回の依頼は大したことではなかった。この家の蔵の整理清掃だ。怪奇が出る可能性があるからと協会を通した依頼にはなっているが、かなりの肉体労働で、その割には能力を使うようなものではない。報酬もあまりない。だから引き受け手もいなかったらしい。再依頼をしたところに、私のようなものがたまたま応募したわけだった。


 「コンニチハ!」

 どうやら一足先に来ていたらしい。ツァップさんだ。私がこの依頼をするとSMSの7supで話したら、どうやら日本の古い物に興味を持ったらしく、依頼者も特に気にしないということで一緒にすることになった。


 「こんにちは、今日はよろしくお願いします」


 「はい!」

 ごく普通の灰色のつなぎを着て、頭にタオルを巻いている。それからゴーグルをタオルの上にかけて、マスクとハンカチを首から下げている。足元は安全靴だ。がっつりした装備なのに、何故か着こなしている。膨らんでいるポケットには軍手が入っているのだろうか。


 私も依頼主の大森さんに会いに行った。きさくな老人で、妻を亡くしてから一人暮らしをしている彼は、こちらを来客であるかのように歓迎してくれた。英語は話せないらしい。どうやってツァップさんとコミュニケーションを取ったのか尋ねたら、スマホの音声翻訳機能を使っていたと言われた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 私も着替え終わってから(大森さんの家の一室を貸してもらった)、大森さんと2人で蔵の物出しを始めた。蔵の中は埃っぽく、かび臭さも感じた。事前に開けてあった窓から差す光がキラキラと輝いていた。確かに普段見かけることのないような怪奇が多くあった。ゴーグルをしていたから見えにくかったし、ヘルメットをしていたから頭が重かった。


 私達が物を台車に乗せて出して、地面に敷かれたござの上に置いていくと、ツァップさんが埃を叩き落としていく。それが大半だった。昔の農具(だと思う)や段ボールに入った古本、陶器、その他もろもろを出していっては段々広くなる蔵の中に、怪奇は行き場をなくしていき、隅の方に残っている小さな闇の中に消えていった。


 途中、大森さんが所用で離れて少し休憩になったときに、ツァップさんから、その時埃を落としていた農具について尋ねられた。しかし、まずそれが何か正確に分からなかったし、分かっても英語で完全には説明できなかった。その様子を見ていた大森さんが近づいてきて、ジェスチャー交じりの日本語で説明してくれた。私が通訳しなくてもどうやら伝わっていたようだった。身振り手振りは大事だと改めて思った。



 途中で昼食休憩を取った。私はコンビニ弁当、ツァップさんは携帯食料を食べてようとしたら、これもありがたいことにごはん、みそ汁、暖かい煮物を大森さんから貰った。大森さんは自分の昼食もわざわざ外に持ってきて、3人で話しながら食べた。少し寒かったが、ピクニックのようだった。大方、人と話したかったのだろう。このときに大森さんもかつて協会に所属していたというのを聞いた。


 蔵の物を出し終えてからは脚立を使って上の方から埃を落としていった。埃と一緒に小さな怪奇がボロボロと落ちていった。最後に埃と小さな怪奇を外に掃いて、壁と床をモップで拭いた。


 蔵の中が綺麗になった後は、ツァップさんと2人で蔵の中身の汚れを落としていった。大森さんは中身を新しい箱に整理しては台車で蔵の中に運んでいった。最後に、3人で残りの中身を戻した。マスクと布越しだったが途中で話しながら作業をして、和気藹々としていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 大森さんがシャワーを貸してくれたので、ツァップさんに先を譲った。そのあと汗と埃を流して(準備のいいことにアメニティーを持ってきていたようだった)、今回の報酬とは別に駄賃をもらった。無理にでも受け取らせようとしていた。ありがたく頂戴した。駅まで送っていくとも言われたが、疲れているのにそこまでしてもらうのも悪かったから、何度もお礼を言ってから玄関を出た。


 バス停に行くのに門行まで向かう途中、蔵の前を通ると、1体の障子戸の怪奇が私達の後ろを通って、蔵の中に入っていった。そう言えばあれだけ古い物があったのに付喪神がいなかった、そんなことを考えていると蔵の扉が突然開き、2人ともそこから現れた闇に飲み込まれていった。とっさにツァップさんの手を掴んで走り出したが、無駄だった。

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