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第108話 バレンタインデー

第108話 バレンタインデー


 着替えて荷物もまとめ終わったため、タクシーを待っている間、今回の怪奇について桾崎さんに聞いてみた。


 「結局、正体は何だったのでしょうか。儀式の途中で見たりしましたか」

 

 「はい。見ました。あれは近くの低級な怪奇の集合体でした。中心に双頭尾頭の蛇がいて、まとめていたみたいでした。国語の教科書で似た話があったんですけど何でしたっけ…」


 「ああ、魚のあれですか」


 「あ、それです。アイドルさんをきっかけにして何となく集まっていた怪奇達が蛇を中心にしてまとまって、多目的室に隠れ、アイドルさんのたびにあの子たちの周りに悪事を働いていたみたいです。先生たちがやっている所を見つけられなかったのも、そのせいだと思います」

 多数が集まれば、弱いモノでも人に悪影響を与えるまでになるのか。


 「それは、どのくらい集まっていたのでしょうか。普通にしていてもそのようなことはあるのでしょうか」


 「ええと、とにかくたくさんでした。普通はあんなに集まらないと思います。だから、双頭尾頭の蛇とまとめて潰して、あの子たちに札を持たせれば、行き場を見失った残りは元の場所に戻っていくと思います」

 「ところで、どうやって上野さんはあの子たちを上手く騙せたんですか?」

 聞かれると思っていたし、質問がどうやって、でよかった。どうして、でなくてよかった。


 「それは、バイタルサインを見抜くことです。桾崎さんが知っているように、私は五感が優れています。だから、心臓の鼓動、呼吸、目や指の動き、それと心理学的なトリックを合わせれば、小学生ならなんとかできるものなんですよ」

 あとは体臭や、他にもあるが言わないでおく。


 「す、すごいです。僕にもできますか?」


 「頑張れば、できるようになると思いますよ。そのためには今の勉強をしっかりしておくことが大事だと思います」

 学校にいるからだろう、つい教える気分になってしまった。



 その後、到着したタクシーに乗ってT駅に戻った。電車の時刻を確認をすると多少の余裕があった。桾崎さんと別れて(向かう方向が違った)、それから時間を潰すのに本屋の前で何か買おうか物色していたときだった。つん、つん、と背中をつつかれる感触がした。振り向くと、上目がちの桾崎さんがいた。


 「ジュースと牛乳のお礼です。一足早いバレンタインです」

 小さい手に握られていたのは、コンビニで買ったであろうチョコレートだ。都市のコンビニではこんな高価な物も売っているのか。


 「あ、もうそんな時期ですね。ありがとうございます」


 「また、一緒に仕事させてください!あと、連絡してもいいですか?」


 「いいですよ。こちらこそ、よろしくお願いします」


 そこで少し立ち話をしていたが、すぐに電車に乗る時間が来た。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 バレンタインというと、前の会社では競争が行われていた。ある年、毎年チョコレートをあげて、貰って、返して、貰ってが面倒になった社員たちは自粛しようと暗黙の合意を行った。当日行われたのは、奴や取り巻きによる元上司への媚び、アピールだった。せめて駐車場で行えば良かったのに、わざわざ食堂で、堂々と秘密を謳いながらチョコレートを渡していた。別にどうでもよかったが、そこまでしたいのかと単純に思った。他の女性社員からも顰蹙を買っていた。自分たちが配らないのが角が立つからだろう。


 当時は分からなかったが、今となってはそういうことだったのかとはっきりしている。あ、この間取り巻きの両親が交通事故で死んだらしい。



 当日、支部にレポートの提出をしに行った。封印した怪奇や何か現物がないならメールに添付して送れば楽なのにと思っているが、資料を見せてもらえることもあるのでこれはこれでよい。支部の扉を開けると中にいたのはみーさんとツァップさんだけだった。


 「こんにちは。これ、レポートです」


 「どうもー。レポートは向こうの箱ねー」

 ジャージ姿のみーさんだ。ソファでくつろいでいる。


 「コンニチハ」

 小学生のような恰好が何故かに会うツァップさんだ。こちらも同じだ。


 「お2人は何をされていたのですか」


 「おねーさんたちは資料整理を終えて、少し休憩していますー」

 急に英語に切り替わったから完全に聞き取れなかったが、半分は分かった。

 「あ、これチョコ、どうぞー。手作りですよー」

 そして日本語に切り替わる。混乱してきた。チョコレートはやたら気合が入っている。お菓子の香りがよくしているから作るのが趣味なのだろう、多分。


 「ありがとうございます」


 「私も、プレゼントですよ」

 ニコニコしている。ツァップさんのはドイツのチョコレートだ。箱の字で分かる。(読めないが。)


 「Vielen Dank. (どうもありがとうございます)」

 これくらいのドイツ語なら話せる。


 「Bitte. (どういたしまして)」


 それから少し雑談をした(というか2人の趣味の話を聞いた)みーさんはポ○モンホームで対戦環境が変わること、ツァップさんは今期のプ○キュアの感想を話していた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 文松町に帰ってから、中学校に来校許可証の手続きをしに行った。事前に日取りは藍風さんから聞いていた。それは驚くくらい何も突っ込まれず終わった。それから手続きを終えた書類を藍風さんのところに持って行った。


 インターフォンを押すと玄関を開ける音がして、それから門が開いて藍風さんが顔を覗かせた。制服姿だったから家に帰って間もなかったのだろう。


 「藍風さん、これ、書類です」


 「ありがとうございます。あ、これ…」

 藍風さんがポケットから取り出したのは可愛らしくラッピングされたチョコレートクッキーだった。

 「普段のお礼です」

 両手の上に乗せながら、頬を少し赤くしてじっとこちらを見つめている。


 「ありがとうございます。美味しそうですね」

 藍風さんは1人暮らしだから、自炊もしているだろう。だから料理の腕は確かだと思う。だからそこまで緊張する必要はないと思う。形が崩れないようにかばんにそっとしまう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 家に帰ると硬貨虫がまた硬貨を生やしていた。王冠のマークが表に彫ってあるチョコレート色の物だった。当然食べられない。みんなから貰ったチョコレートはどれも美味しかった。義理でももらえるのは嬉しい。その分夕食を軽めに食べて、食後少し運動して、風呂で疲れを取ってから布団に入った。

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