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第106話 流行り(後編)

第106話 流行り(後編)


 用務員室に荷物の一部を預けて、校長と少し話をしてから私達は学校近くのホテルにチェックインをしに行った。協会を通して手続きをしてあったから、女子小学生を連れてきても通報はされるリスクはなかった。


 夕食は少し高級なファーストフード店でハンバーガーとセット物を食べた。桾崎さんの希望(普段食べる機会がないらしい)というのと近場に選択肢がなかったからだ。小さい子を夜連れまわすのは何か危ない香りを感じたが、よく考えればしょっちゅう藍風さんと出歩いているし、桾崎さんも仕事や修行で慣れているから考えすぎだったと思う。ファーストフードだけでは栄養が不足するから、帰りにスーパーマーケットで野菜ジュースと牛乳を買った(桾崎さんにも勧めたら素直に受け取ってくれた)。



 翌日の朝食はごく普通の味だった。バリエーションも悪くなかった。桾崎さんは、SMSで連絡を取っていたのにわざわざ部屋の前まで迎えに来てくれた。食後、少し時間を空けてから小学校に向かった。今回は解決が確実に目に見えているわけではなかったから翌日分の宿泊についても尋ねたところ、恐らく空いているから予約は不要と言われた。依頼の期間が限定されているならよいのだが、チェックイン、チェックアウトの判断は難しい。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 小学校ではすでに授業が始まっていた。昨日と同じ格好に着替えて、まず始めに5年2組を窓の外から見た。確かに欠席が目立っていた。桾崎さんはもう堂々と私に同行していた(設定はどこかに消えたようだ)。


 「上野さん、あの子たちから気配が強く感じます。窓際の一番後ろの席、真ん中の列の一番前と後ろから2番目の子です」

 桾崎さんが背伸びをして覗きながら囁く。私も臭いが強くなっているのは分かったが、どの子から臭うかまでは分かりにくいし、見た目でもわからない。言われた児童も至って普通に見える。1人ずつ並んでいて順番に臭いを嗅げば分かるかもしれないが、今はそうする必要はないし、犬のようであまりやりたくない。


 「私には分かりませんが、後で校長に頼んで呼んでもらいましょうか。名前は聞いていたものと同じでしょう」


 「はい。そうしたいです」


 「後は、特に何もなければ多目的室を見に行きますか。今日は使わないようにしてもらっていますから」

 校長には電気設備のトラブルということにしてもらっている。だからこの格好で出入りしていても何も不自然ではない。


 「はい!」

 桾崎さんは小声で気合を入れたが、険しい表情では全くなく、少しだけ笑顔になっている。



 多目的室の扉を開けると、昨日と変わらない臭いが濃く広がるのを感じる。黒板と掃除用具入れがあって、それから長机と椅子が隅にまとめて置かれている。もうじき休み時間になるから、私達はいったん休憩しつつ、中に誰かが入ってこないように見張ることにした。外には脚立を入り口の前に置いて、中では扉の前に立っていればそれらしくなる。


 「こっくりさん、ああ、アイドルさんでしたか、それに使った物が見つかればまだ何か分かりそうですが…」

 ただ無言でいるのも少し退屈だから、何か話題をと思って何となく口に出してみる。

 

 「僕の小学校で流行ったやり方は、終わったら紙を燃やして、10円玉を神社に埋めていました。火を使ったことがばれてものすごく叱られて、それから誰もやらなくなりましたけど」


 「私の時代も似たようなものですね、神社に埋めていました。そうなると、ここにある可能性は少なそうですか」

 そう言ってから話を続けようとしたとき、チャイムが鳴った。休憩時間が終わったようだ。



 その後、桾崎さんは気配を、私は五感を頼りに怪奇の影を探していった。部屋の隅から物の奥、天井まで調べて、2人の意見がある一か所で一致した。長机の1つの裏側だ。木の節のように見える。桾崎さんはそこに札(私や藍風さんが普段使っているのとは違った)を貼りつけると、小声で呪文を唱えた。札は一瞬ぼうっと光ると元に戻った。


 「これで、怪奇の出入口を塞ぎました。こちら側にすぐ出てくることができなくなります」

 桾崎さんは興味深そうに見ている私に、普段教えられる立場の自分が教えるのが楽しいらしく、積極的に教えてくれた。


 「では仕事は終わりでしょうか」


 「でも、またアイドルさんをあの子たちがやったら、また出入口はできてしまうんです。なのであの子たちと怪奇のつながりを絶とうと思います」


 「なるほど、そうなのですか。放課後、呼んでもらいましょう。桾崎さんは色々できて流石ですね」


 「はい!ありがとうございます!でも、そんなにすごくないんですよ」

 嬉しそうに照れているのが分かりやすい。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 取り立ててすることもなくなった私達は用務員室に戻り、昼食を食べた。給食のいい匂いが部屋まで漂ってきていたが、食べたのはコンビニの唐揚げ弁当と、カップみそ汁だった。電子レンジとお湯は職員室で借りた。業者の振りをして堂々としていれば、特に誰からも怪しまれていなかったと思う。2人前でも、多分。

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