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第105話 流行り(中編)

第105話 流行り(中編)


 始めに流行したのは殆どの人がよく知っているこっくりさんだった。五十音と「はい」、「いいえ」、それから鳥居の絵が書いてある紙に10円玉を置いて、全員の指をその上に置いて…だ。今、この小学校で流行っているのは「アイドルさま」という名前だが、名前が違っても中身は変わらないらしい。


 最初にやり始めた児童は分からないが、最も流行っているのは5年2組の女子の間だ。放課後、使われていない教室で隠れながらやっているのを何人もが見かけている。先生は現場を見たわけではないから直接注意はしていないが、全体に向けて止めるようには言っている。行われているはずの教室が分かるのに、何故か先生には見つけられないらしい。


 学校としては怪我や体調不良は偶然ということになっているから、本格的な対策は取られていない。(と言うことは依頼者は校長に話を通すことができる人物ではあるわけだ。)



 連絡用に使われていたであろう黒板に要点をまとめながら桾崎さんと話していく。ついでに桾崎さんが小学5年生ということも分かった。


 「今のところ分かっているのはこのくらいです」

 説明を終えた桾崎さんは少しほっとしているようだ。子供なのにしっかりしているから、つい仕事の感覚で話していたかもしれない。今後は気を付けよう。


 「ありがとうございます。そろそろ高学年の授業も終わるころのようです」

 校長から貰った最近の予定が書かれた資料を桾崎さんに見せていると丁度チャイムが鳴って、それからガタガタと椅子や机を引く音が聞こえた。


 「上野さん、さっきも言ったんですけど、僕は転校する予定の振りをして学校の中を見ます」


 「私は電気の点検の格好で校内を調べていきます。今から2時間もあれば十分でしょうか。またここで合流でよいですか」

 話しながら持って来た荷物を漁ろうとすると、少し焦った声がそれを制止した。


 「待ってください。2人で回ってもいいですか?怪奇にあった時も、その、危なくないですから」


 「そうですね。同行は難しいですが、同じ階を移動していきますか」

 彼女の方を向いて返事をすると、表情が安心したものになっていくのが分かった。よほど心配されているようだ。荷物の方に戻って、それらしいつなぎを取り出すと桾崎さんも自分の荷物を漁りだした。


 「僕も男の子の格好をします。その方が身バレを防げますから」


 「だったら先に着替えてください。私は外で待っています」

 用務員室から出て廊下に立つ。時計を見て、何か用事のあるふりをしていると、中からごそごそと物音が聞こえ出した。



 少ししてから桾崎さんが部屋から出てきた。確かにパッと見男の子に見える格好だった。私は入れ替わりで部屋に入って着替えと小道具(工具や脚立を入れた折り畳みカート)の準備を済ませた。桾崎さんの服は丁寧に畳んで荷物の上に置いてあった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 学校という建物は面白い。日常のはずなのに、場所や時間が違えば非日常が出てくる。学校が違っても、設備は似ているのに完全に同じではない。文松中学校に入った時も思ったが、何故か懐かしいような感じがする中に新規性があって不思議だ。


 そんなことを思いつつ天井の蛍光灯の何かを調べている振りをしながら(チェックシートとバインダーも用意した)、校内を回っていった。件の多目的室は3階にあるが、どこに原因があるかわからないから全体を見て回った。他の人のように怪奇の気配を探ることはできないから、奥に隠れていたら見つけることは難しい。ただ、嗅覚と聴覚でカバーできる範囲もある。非常に鋭敏だ。


 桾崎さんは同じ階を反対側から調べていた。途中ですれ違う時にお互いに情報を確認しあった。度々、児童から興味深そうに眺められたり、あいさつをされたりした。その時は外面で乗り切った。学校という建物は好きかもしれないが、子供や教師が好きなわけではない。


 そうやって辺りの教室、廊下、水場や特殊教室を偵察して行った(鍵束を借りていた)が、見かけたのはどこにでもいるようなモノだった。1つ、回り続ける大型の瓦のような怪奇が調理室にあったが、桾崎さんが九字を切って消滅させた。依頼とは関係ないだろうが、あまり良くないモノと言っていた。



 5年2組のある3階に上ると、明らかに怪奇の獣の匂いが強くなった。桾崎さんも気配を強く感じるようになったらしくすぐに電話がかかってきた。5年2組と、同じ階にある多目的室は臭いが濃く残っていた。気配の残りも強く感じられるらしかった。十中八九この怪奇が原因ということで、翌日張り込むことにした(夜間の校内探索は許可が下りなかった)。


 桾崎さんと合流して下の階に下りる前にお手洗いに行ったが、そこで手を洗っていたときに、桾崎さんが飛び込んできて個室に入っていった。何かトラブルでもあったのかと心配になったが、「誰か来ないか見ていてください…」と声が漏れ聞こえたので入り口で見ていた。やがて手を洗う音が聞こえて、桾崎さんが少し恥ずかしそうに出てきた。用務員室までは無言だった。


 こちらから聞くことでもなかったが、本人が語るには、自分もお手洗いに行こうとしたときに、タイミング悪く女子がトイレに入るところだった、男子の格好をしているから、怪しまれると思って、でも一旦気持ちが傾いたから体がそうなって、思考がショートしたとのことだった。どうフォローしてよいか分からなかったから、大丈夫ですよと言っておくにとどめた。

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