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第11話 冷凍庫(前編)

第11話 冷凍庫(前編)


 先日協会と連絡を取り、後日支部の他のメンバーに会うことになった。その時にこの後どうするか考えていることについて聞いてみようと思う。既に人間関係が出来上がっている中に新しく一人で入るのは中々注意を要する。会社のようにずっと全体が一緒にいるわけではないだろうから緩めの関係なのだろうか、それとも命がけだから近しいのか、それぞれの立場や主義で対立しているのかもしれない。藍風さんは特殊すぎて正当な?能力者からは疎まれているようだし、みーさんはあんな感じだから、3番目なのかもしれない。


 大抵の例に漏れず、また藍風さんから依頼に協力してほしいと連絡があった。中学生なので普段は依頼をあまり受けられないが、依頼内容と3連休がタイミングよく重なったという。休日はいつも依頼を受けているのだろうか、遊びに行かないのだろうか。まあ平日の泊まり込みや夜間外出は無理だろうけれども。そんな訳で私は金曜日にG県羊川町にある駅から徒歩5分のアパート「グランツ羊川」203号室に向かった。



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 羊川駅は文松駅とG駅をつなぐ線とは別の線にある駅で、その駅がある羊川町は文松町から電車で約1時間、高速で約1.5時間かかるありふれた町である。そこにあるアパート「グランツ羊川」は2階建て各階3部屋のこれもありふれたアパートで大手住宅メーカーが管理している。この数カ月そのアパートの住人が相次いで引っ越し、新しく入居した住人もすぐに出て行ってしまい、しまいには誰も住まなくなってしまったという。この辺りでは新しく、駅からも近く、価格も抑えめなので優良物件である。不思議に思った業者が元住人達に詳しく聞くと不思議な事が起こり始めたと言われた。


 まず初めて事が起こった住人は休日の夜遅くに突然インターフォンが鳴ったのが聞こえた。モニターを見ると女性がインターフォンの前に立っていてその後ろに男性がいた。通話ボタンを押して要件を聞いても反応しない。直接聞こうと玄関に向かい、覗き穴を覗くと誰も見えない。玄関を開けるとやはり誰もいない。その住人は、誰かが引っ越して新しい人が来たとは聞いていないし、迷惑な時間に来た新聞や勧誘だと思って放っておいた。しかし毎週休日のいずれかの夜にその人達は訪問してきた。その住人は気味の悪さと心機一転もかねて引っ越してしまった。

 

 別の住人は同じようにインターフォンが鳴り、モニター越しにその男女が見えたが無視したという。それでも翌週またインターフォンが鳴り、怪しいと思いモニター越しにいる男女をしばらく見つめていると、女性と男性が話し合っているように見えた。モニターが切れたので、覗き穴を恐る恐る見ると誰もいなかった。これが毎週録画でもしているように繰り返されるので、実家に帰った。


 他の住人も似たり寄ったりで、最終的に引っ越してしまったが、一人だけ残り続けた住人がいた。その人はインターフォンの電源を切って放っておいたらしい。しばらくはそれらしい人達を見ることはなく、もう来なくなったと思っていたが、ある日電源を切っていたインターフォンが鳴ってしまった。あまりにも不審に思いモニターを見ると例の男女がいて、気味が悪く、寒くなり、気が付いたら朝になっていて、風邪をひいて幻覚でも見たのだろうと片付けた。しかしその翌週もインターフォンは鳴り、酒を飲んで気が大きくなっていた住人はモニターものぞき穴も見ずに玄関を開けてしまった。そこは見慣れた景色ではなく、霜が付いた箱の中だった。ぎょっとしていると、後ろから誰かに押されて閉じ込められ、翌日玄関で凍傷になって見つかった。今でも入院している。


 その入院している住人が住んでいたのが203号室である。ここはインフラがまだ契約されていて、住人も図太いことに事が済んだらまた住もうと思っている。貴重品は置いていないし客用の家具、食器等も一式用意したので調べてほしい、要するに休日の夜にいて、その怪奇に対応してほしいという依頼だ。



 私は帰りの都合上職場から直接車でアパートまで向かった。藍風さんは電車で向かったので先に着いていた。依頼者と先に話をしていたのだろう。203号室に着いた頃には19時前だった。すでに電気がついていてたので私は持っていた鍵で扉を開けた。


 「こんばんは。遅くなりました」


 「こんばんは。お疲れ様です」

 藍風さんは制服を着ていた。どうやら学校から直接向かったらしい。夕食は既に済ませていたらしく、パンの空袋と紙パックの紅茶がごみ袋にまとめてあった。学校の宿題をしていたようだった。部屋に入る前からも何かないか集中していたが、部屋に入っても何もなかった。


 「私は今のところ何も特別感じませんが、何かわかりましたか」


 「私も同じです。やっぱり休日の夜でないと出ないんだと思います。比較のために平日に調べられるだけはしようと思っています。上野さんは夕食がまだでしたら気にしないで食べてください」

 どうやら息抜きに宿題をしていたようだ。


 「それじゃあお言葉に甘えていただいています」

 私は途中で買ってきたコンビニの弁当と野菜ジュースを摂った。食べながら部屋の様子を観察する。元々の生活感はあまり感じなかった。しかし掃除は行き届いていてこのまま泊まれそうな気もした。風通しも周囲の環境もよく、駅から近いことから業者にとっても使えるようにしたい物件なのだろう。


 「上野さんは好きな食べ物はありますか」

 食後一通り済ませて、私も調べものに加わって数分経ったときにふと、藍風さんが聞いてきた。


 (うーん…)

 食の好みはないし、出されたものは食べる。自炊に使うのは安い食材を選ぶ。


 「だいたい何でも好きですが、洋食より和食ですね」


 「あ、私もです」

 後ろを向いていたのでどういう顔をしていたかは分からないが藍風さんは即答した。そんな雑談のような言葉を2,3言交わしながらしばらく部屋にいたが、それらしいものは発見できなかった。その日は高速に乗って文松町まで戻り、藍風さんを家に送って帰った。疲れたいたようだったので車中で寝ることを勧めたら乗ってすぐに寝た。寝返りもなく寝息も当然聞こえず、まるで人形のようであった。しかし、優しい桃のような香りが生きていることを思い出させた。途中警察に止められたらどう説明すればいいのが緊張していたのは秘密である。

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