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第100話 実験(中編)

第100話 実験(中編)


 佐経橋の両端と中央には街灯が薄暗く光っていた。幅は車1.5台分くらいで、長さは100mくらいだった。例によって近くの空き地に車を停めて、車から降りて近づいてみた。外に出ると寒気こそしなかったが相応の寒さを感じた。


 「上野さん、何もいませんよね」

 藍風さんが懐中電灯を橋のあちこちに照らしながら確認している。


 「そうですね。今のところ何も出ていないようです」

 橋のすぐ近くまで差し掛かれば視界に全て収まる。


 「近くには弱い怪奇がいますから、どこかに隠れている様子でもないです」

 今度は橋の脇、土手やそこに生えている木々を照らしている。


 「なら、今のうちに先ほど話した仕掛けをしておきます。何か来ないか見ていてもらえますか」


 「はい。気を付けてくださいね」

 懐中電灯の光は私の足元を照らしている。


 橋の中ほどまで進む。川の流れる音、川から上がる風の音が大きくなる。しかし一層静かになったように感じる。そこの欄干の裏にひも付きの袋を結び付け、ICレコーダーのスイッチを入れて設置する。それから街灯の柱にビデオカメラを仕掛ける。どちらにも防水対策にビニール袋をかぶせて、野鳥観察中と立札をつけておけばすぐに撤去はされないだろう。本当は申請が必要だろうけれども。


 (画角は…うん、良い感じだ)

 準備は終わった。どのようなものが記録できるか楽しみだ。藍風さんの元に戻り、2人で揃って車に乗る。それから、弱めに暖房をかけて、シートを倒し、2人とも毛布を被る。あとは、数十分おきに観察だ。


 「誰も、来ませんね」

 藍風さんの言う通り、人通りはほとんどない。偶に空き地の脇の道路を車が通り過ぎていくだけだ。


 「静かですね。空気も澄んでいて、星がきれいに見えます」


 「上野さんは田舎と都会、どちらが好きですか」


 「どちらも、好きですよ。どちらも良い所があります。強いて言えば、閉鎖的でなく、進歩している所が好きです。…。藍風さんには話しましたが、色々な場所に行った結果、そう思うようになったのです」


 「そうなんですか…。今、進路を考えているのですが、その、何か決め手にならないかと思いまして…」

 それくらいの時期だとは知っていたが、悩んでいたとは知らなかった。


 「何か、私で良かったら話をするくらいならできます、一応年上ではありますので」


 「ありがとうございます」


 藍風さんの進路はどうなるのか、それ次第では私も考える必要があるのかもしれない。あの日、山で会って誘いを受けてから一緒に仕事をしているが、藍風さんが遠方に越したらついて行くのか?金銭的な話ではないと思う。いつまでなのだろうか。周りの景色に影響されてか少し寂しく感じる。毛布を深めに被る。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 それから何度か外に出て、佐経橋とその周りを確認したが噂の怪奇は見当たらなかった。ICレコーダーとビデオカメラはそのままにして、一旦ホテルに戻り眠ることにした。


 シャワーを浴びて、体を十分温めてからベッドに入った。仮眠を取っていたが疲れていたことには変わらなかった。すぐに眠りに就いた。



 翌朝、ホテルの朝食(普通だった)を藍風さんと食べてから、橋に仕掛けた物を回収しに行った。佐経橋周辺は日が当たっていればのどかさを感じるような場所だった。猛禽類の鳴き声がして、対岸の畑で何か作業をしている老婆と自転車をこいでいる青年がいた他は誰もいなかった。回収を終えてホテルに戻り、私の部屋で持って来たノートPCを使って早速動画を再生した。椅子が1脚しかなかったから藍風さんに譲って私はベッドに腰掛けた。後ろから見ると一層小柄だ。


 映像を5倍速で流していったが、時々車が物凄いスピードで通り過ぎる他は特に何も映っていないようだった。音声の方は川の音と風の音が混ざり合って訳が分からなかったからすぐにミュートにした。


 次にICレコーダーの音声を波形表示して、何か異音がしていなかったかを確かめた。いくつか他よりも波が大きくなっている時間をメモして、その前後の動画を確認すると殆どは車が通った音だった。しかし、1つだけ、映像には変化がないのに、異音がしていた場面があった。


 ICレコーダーで録音したその場面の音を聞いてみたが、音は籠って混ざっていてはっきりとは聞き取れなかった。動画の音も同様だった。しかし、何度か聞き直して、藍風さんと話して、恐らくこう言っていたのだと思われた。


 『殺された。???。??たった。?てやる。殺された。?てやる。?てやる』

 (ほぼ繰り返し)


 坊主頭の男性の怪奇はカメラのアングルの外に出現したらしい。その時、人が遠くから見ていたのかもしれないが、真実は分からない。音の方向を確かめることはできなかった。

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