第99話 実験(前編)
第99話 実験(前編)
兼ねてから色々と検証しようと思っていた折に、近所の家電販売店で安売りセールがあったのでAm○zonの値段と見比べて、保証サービスが良かったのでいくつか買った。ICレコーダー、デジカメ、ビデオカメラと三脚だ。何に使うのかといえば、怪奇の記録だ。
早速河川敷に行って、適当な怪奇(鼠のしっぽ?ミミズ?のようなモノ)を捕まえて、虫かごに入れ色々と実験した。
デジカメで撮影→映らなかった。
ICレコーダーで録音→鳴き声はとれなかったが、それが石にぶつかって、枝が倒れた音は入っていた。あと精度良くない。
ビデオカメラ→それ自体は映らないが、それが動いた痕跡は映っていた。土に這ったような跡が描かれていった。
特に何の変哲もない普通の虫かごだったからだろう、いつの間にかそれは虫かごの底をすり抜けて逃げ出していた。(だから本当に捕まえたかったら何らかの処理を施した容器に入れる必要がある。)
それから硬貨虫を記録して見た。
デジカメで撮影→映った
ICレコーダーで録音→つついても動かなかった
ビデオカメラ→映った
こちら側に姿を出していれば普通に撮影できる。今までの経験で分かっていたが、今一度検証するのは整理に繋がる。怪奇の性質によっては異なるものもあるだろうが、概ねこの認識で行こうと思っている。
これを試していたのは依頼に役立てようと思ったからだ。週末に藍風さんと依頼を行う予定もあった。
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金曜日の朝、家事をこなして勉強をして、昼食を食べてから寝た。それから荷造りをして藍風さんを中学校まで迎えに行った。別に毎日しているわけではないが、前乗りが必要な依頼の場合は行くこともある。入校許可証があれば結構緩い。そんな要領で来客者用の駐車場に車を停めて、少しの間待った。やがて、こちらに近づく足音が聞こえた。
コン、コン
助手席の窓をノックする音が聞こえる。藍風さんだ。
「お待たせしました」
制服に臙脂色のコートとワインレッドの手袋をしている。しかし靴はスニーカーで、学生らしさとしっかりした格好が混ざり合っているのに見事に調和している。車内には桃に似た優しい香りが広がる。
「いえ、大丈夫ですよ。では、行きますか」
いつもの様に車を走らせる。
「今日は大分寒いですね、朝、大丈夫でしたか」
「はい。手袋、ありがとうございます。温かいです」
いつぞや雪国で当たったものだ。
「どういたしまして」
丁度左折するところだ。藍風さんの方を見ると、じっと前を見ているのが視界に入る。沈黙が続く。ふと、藍風さんが口を開く。
「今日は、数学のテストが返ってきました。クラスで一番良い点数でした」
「あ、おめでとうございます」
前から思っていたが、藍風さんは頭が良い。どれ位かは分からないが、考えがしっかりしている。
「あ、ありがとうございます」
慣れた沈黙だ。無理に話すこともない。何か用があればいつ口を開いても不快にならない、そんな沈黙だ。
高速道路に入ってから、藍風さんは毛布を被ってうとうとし始めた。私は目的地に向かいながら今回の依頼のことを考えていた。
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P県の山間にある町、煤竹町の佐経橋に何か怪奇が出る。何か、と言うのは正体が分からないからだ。
近頃、夜、この橋を渡ると背筋が凍るような感覚がするという。それだけならただの気象現象や思い違いになるだろう。しかし、歩いていても、車に乗っていても感じるし、更に寒気を感じた人は高熱と幻覚にうなされたらしい。その幻覚というのは夜中、この橋に青い服を着た坊主頭の男性が立っていて、何かを呟いているというものだ。被害者に共通点はない。坊主頭の男性が佐経橋で何かあったという記録も残っていない。
それどころか、この坊主頭の男性が幻覚の通りに橋の半ばに現れるようになったという。それを見た夜勤帰りの男性がまた高熱を出し、その姉が職場伝いに協会の存在を知り、今回依頼をしてきた。今のところ一部の人たちはその噂を信じて迂回をしているが、大半は気にしていない。そういう人たちには何も見えないし、何も感じない事が多い。そもそも夜中に橋を渡る人自体が少ない。
しかし、段々影響力が大きくなっていくことは否めない。
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煤竹町に着いた頃にはもう既に暗くなっていた。藍風さんを軽くゆすって起こし、ホテルにチェックインして部屋に荷物を置いた。それから、夕食を食べに近場の飲食店まで行った。半分居酒屋のような場所しか見つからなかったが、そこで食べた日替わり定食(生姜焼きと豆腐、ポテトサラダと肉じゃがだった)は値段以上にボリュームもあり、美味しかった。絶対に美味しい酒の匂いが向かいの席から漂ってきて少しだけ辛かった。藍風さんは私と同じものを頼んだが、量を少なめにするか聞かれてそうしてもらっていた。
夕食後、そのまま山間の方へ車を走らせて、佐経橋へ向かった。Go○gleMapで下調べしていたとはいえ、夜の景色は物寂しげであった。