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第10話 探している人

第10話 探している人


 最近は寒くなり、暗くなるのが早くなってきた。それに合わせてか怪奇の量が増えてきている気がする。種類も変わってきているのだろうか。今のところ大半が似たようなモノに見える。協会からの依頼は相変わらず受けられないので(無理に受ける必要があるわけではないが)、一般的な退魔法を覚えようと思う。今度協会に行って資料を見よう。協会の仕事で生計がたてられればと思う。その分リスクも背負うことになるだろうが、なんだかんだ怪奇というものは面白い。ただ、知識がほとんどないのは致命的だろう。特に身を守る術を覚えなければならない。


 なぜ今一度そう考えたのかというと、ある怪奇から絡まれたからである。その怪奇は善良?なモノだったので幸い何もなかったが、これが悪意のあるモノで誰にも助けを求められなかったら死んでいただろう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 先日近所のスーパーマーケットで夕食の買い物をした後、家に帰ろうと通路に出たときに貰った粗品のタオルを落としてしまった。


 「これ、落としましたよ」

 後ろを振り向くとスーツを着た好青年がわざわざ拾ったタオルを差し出してくれていた。今時こんな親切な人がいたのかと思い、油断してつい受け取ってしまった。


 「ありがとうございます」


 「あ、僕が見聞きできますか」


 それを聞いて背筋に冷たいものが走った。うかつだった。ハロウィンの時にも人そっくりに見える怪奇を見てきたというのに。慌てて目を細めると後ろの背景にあるレジはぼやけていたのにその男ははっきりと見えたままだった。怪奇だった。別に害を及ぼすものだけではないが、自分から関わるのは危険だと思っている。私はその怪奇を素通りして帰路についた。粗品位なら惜しくもない。

 しかし、それは後ろを付いてきてしきりにこちらの注意を引こうとしていた。もうどうしようもなかった。家にまで来られたらもうと思うと、仕方なくそれの相手をすることにした。不注意だったと思う。ただ、それと話しているのを他の人に見られたら危ない独り言を言っているようにみえてしまう。どうしたものかと思ったが、自動販売機の近くにベンチがあるのが丁度目に入ったのでそこに腰掛けてスマホを耳に当て、電話しているふりをすることにした。


 「何がしたいんですか」

 私は努めて冷静に話した。内心は緊張で吐きそうだった。電話しているふりをしていても目はそれから離さなかった。


 「ああ、やっと僕に返事してくれましたね。僕は岩原啓一と言います」

 名前があるのか。よくわからなかった。


 「どうも」

 わけのわからないモノに名前を知られるのが確実に良くないのは素人でもわかる。


 「それで、僕もわからないんですけど、気が付いたらここにいたんですよ。というのもですね、僕、そもそもこの世界の人間でないんです。いつの間にかこっちに来ていて、誰にも見えないみたいなんです。悪いと思っているんですけど、コンビニやスーパーの弁当をこっそり貰って家具屋のベッドで寝て何とかしているんですけど―」

 この世界の人間でないというのは意味が分からない。異世界の存在なのか。変わり者が幽霊になったものなのか。幽霊は食事できるのか?


 「それで、何がしたいんですか。帰りたいとかですか」


 「そうなんですよ。元いた世界っていうんですかね。そもそも僕がいたところは突然止まったんです」


 「止まった?」


 「そうです。元いた世界は殆どここと変わらないんです。国の名前とか。僕、政治家とかは興味なかったのでそういう人も同じかわからないんですけど。それで、突然僕のいた世界は止まったんです。15人を残して他の人は消えて。それも何故15人が残ったのか知らないし、止まった時には知っていたんです」


 「どうしてですかね」

 それの話につい興味を持ってしまった。


 「うーん。分からないんです。でも、自分が残ったことはもしかしたらって思うことがあるんです。僕は前は造金職に就いていたんですけど、同僚と出張した時にそいつが部屋を変えてほしいって言い出してですね。それで翌朝起きたら岩が降ってきて、世界が止まっていたんです。だから同僚と部屋を変えなければあいつが変わりに残っていたのかもって思うんです」

 

 「その造金職ってのは何ですかね」

 そんなに悪いやつではないのかもしれない。話を聞いていて面白くなってきた。話はうまくないが。


 「こっちの世界とはそういえば貨幣が違いますね。つくるにかねで造金です。あっちでは硬貨虫ってのがいて、それの模様を操作して貨幣を作っているんですけど」

 そういいながら岩原はポケットから固い饅頭のような形の鈍色のものを取り出した。


 「ああ、やっぱり弱っていますね。これが硬貨虫なんですけど、これに餌として適切な金属を与えて、コントロールすることで硬貨が尻尾のように連なってできるんですよ。適当な餌を与えてもコイン自体はできるんですけどね」

 岩原はポケットに虫をしまった。


 「岩原さんがなぜか来てしまったのはわかったような気がするんですが、そっちの世界はそうなったなら、こっちで暮らせばいいんじゃないですか。他の人からあれなのがネックですけど」


 「それも考えたんですけどね、やっぱりあっちの世界の14人にも会ってみたいし、何とかできるなら止まった世界を元に戻して同僚ともう一度会いたいんです」


 「そうですか。悪いけど私はお役に立てそうにないです」

 

 「いえ、こっちに来てからずっと一人だったので、話せただけでありがたかったですよ」


 これ以上話していても何も解決しないだろう。岩原にまた会うことができて何かわかったら教えると伝えて、別れを告げた。岩原は何かの縁ということで硬貨虫をくれた。こちらも何か渡そうと思ったが、良さそうなものはなかった。岩原は気を利かせたのか、粗品のタオルが欲しいと言ったため、それを渡した。花柄のタオルは自分には合わない。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 夕食の後、貰った硬貨虫を眺めたが時々動くだけの饅頭に見える。普通の人には見えないようだが。護符にも反応しないので、怪奇なのか何なのか。岩原の世界ではただの虫だからか。せっかくだからタッパに入れて金属クリップをあげた。協会にはとりあえず連絡した。


 後日、硬貨虫は観察も兼ねて家で飼育してよいことになった。藍風さんは岩原と話したことや硬貨虫を貰ったことを少し怒っていた。岩原はあれから見かけていない。硬貨虫は尾が生えてきた。見たこともない硬貨だ。長くなってきたら切ってやろう。


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