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Angel symphony  作者: 幸月友
6/13

はい、嫁です-2

 すれ違う人を見事にかわしながらマッハで教室に戻り、ドアを絶叫と共に開けた。



「ミコトーーー!」



「きゃっ!?」



 だが、そこに目的の人物の姿は無く、クラスメイトの女性が1人だけ席に座っている。突然、絶叫と共に勢いよくドアが開いたものだから、驚きで真っ青な顔をしていた。



「わ、わりぃ!委員長」



「び、びっくりしました。どうしたのですか慌てて?」



「どうしたもこうしたも……説明してる暇はねぇ!ミコトはどこだー!」



 教室をキョロキョロ見渡すが、隠れている気配はない。やはり、ここには居ないようだ。



「北条さん?先程、急いで教室を出て行きましたが……」



「くそっ!逃がしたか!?」



 焦って教室を出ようとした瞬間、委員長に呼び止められる。



「ちょっと一ノ瀬くん!こっちに来て下さい!」



「とても急いでいるのですが……後にしてもらえないでしょうか?」



「ダメです!」



 席から立ち上がって腕組みをしている委員長から威圧感を感じた。普段は大人しい委員長なのに、こんな威圧感を出されてしまえば、逆らう事が出来ない。



「……はい」



 委員長の前に行き、誰に言われる事なく目の前で正座した。



 黒崎(くろさき) 朝日(あさひ)


 同じクラスの委員長


 成績優秀、真面目で学級委員長の鏡とも言える人物だ。背中にかかる黒髪ロングの先に大きめのリボンがトレードマーク清楚でお嬢様的な存在だ。



 どうにも俺は、この委員長に目を付けられているらしい。不良と呼ばれるようなヤツが居ないこの学園では、俺のような調子に乗ったヤツはどうしても悪目立ちしてしまう。委員長としては、目を離せないのだろう。



 今日も授業抜け出している事だし、これから説教をされるのは自明の理だ。それを互いに理解しているせいか、急に目の前で正座をしても委員長は動揺の欠片すら見せなかった。



「授業を抜け出した訳を教えて頂けないでしようか?」



 穏やかな話し方に迫力がある。



「トイレでございます」



 バカにしているわけではないが、思わず丁寧な口調で返事をしてしまう。



「長いトイレでしたね」



「はい、トイレは友達と言いましょうか……」



「つまり、今までトイレにいた……と?」



 委員長の顔が、正座している俺に近づく。ヤバい!ここで俺が立ち上がったら、大事故になる!そう思い、顔をそらした。



「嘘ですね。顔をそらしました」



「いや!そらすでしょ普通!」



「どうしてですか?」



「どうしてって言われても」



 どうも、この委員長の距離感はおかしい所がある。そんなにスキンシップ大好きっ娘でもないし、男にベタベタするタイプでもないはずだが、やけに接近戦を挑んでくるのだ。



 しかも、それは俺だけのような気がする。



 委員長とは中学も同じ学校だったから、それだけ気を許しているならやぶさかではない。



「訳ありなんですか?」



「訳ありっす!」



「でも、授業を抜け出すのはいけない事ですよ」



「十分承知してるが……すまなかった」



 正座の態勢から土下座する。



「そ、そこまでしないでも」



 こんな事で土下座されると思っていなかった委員長は焦りだす。



(すまん、委員長!謝罪の土下座と言うより、ミコトを追う為に解放してくれの土下座だ!)



 どっちにしろ、プライドは皆無だった。



「もう……反省してるならいいですよ。今はお急ぎのようですから聞きませんが、今度お聞かせ下さい」



「サンキュー委員長!」



 お許しが出た所で、顔を上げると委員長の細い脚が視界に入る。



(おぅ!ナイス黒タイツ!)



 そのまま顔を上げるが、惜しいことにスカートの中までは確認でなかった。正座の態勢のまま委員長を下から上まで視姦してしまう。その視線と気配に気付いた委員長は、一歩後ろに下がり両腕で身を隠した。



「な、何を見ているのですか!?」



「相変わらず細いなーって。ちゃんとメシ食ってるのか?」



「た、食べてますわよ!それに細いって……む、胸がですか?」



 まさか、ピンポイントで質問されるとは思わなかった。



「いやいや!確かに……いや!そんな事は無い!絶対!」



(はい、嘘をつきました。胸も細いです)



「や、やっぱり男の人って大きい方がいいんでしょうか?北条さんみたいに」



 ミコトは自称Fカップらしい。本人がそう言っていた。



「そ、そんな事無いって!俺はあまり大きくない方がいいし。人それぞれだよ」



(はい、嘘をつきました。俺は巨乳派です)



「そうですか……よかった……」



(何がよかったんだ?)



 こんな所で、おっぱい談議をしている場合ではない。この貴重な時間にミコトの計画は着実に進んでいるのだ。



「じゃあ委員長、この話は明日にでも」



「む、胸の話ですか?」



 自分で言っておきながら、委員長は顔を赤くしている。



「それも魅力的なお話ですが……」



 清楚な美少女とおっぱい談議が出来る機会など二度とないだろう。だが、おっぱい談議<スキャンダルの不等号式には勝てない。



 こっちに関しては、未来に関わる問題だからだ。



「俺の事で仕事増やして悪かったな。この借りはどこかで返すから」



「お説教がお仕事って言うのも、変な話ですけどわかりました。楽しみにしていますね」



 そう言いながら、柔らかな笑顔で俺をみる委員長。



「スキャンダルには気を付けて下さいね」

 


(……うん、何も聞こえないよ僕は)



 立ち上がろうとした瞬間に言われた言葉に、涙が出るのをこらえた。委員長には悪いかったが、話を途中で切り上げ自分の鞄を持ち教室からでようとした。



 ドアを開け、足を一歩踏み出したところで、奇声と共に凄まじい衝撃が腹部を襲う。



「うっりゃーーーっ!!」



「ぐぼーーーっ!?」



 カウンターの要領で飛び蹴りが腹部に突き刺さった。その勢いで、盛大に後ろへ吹っ飛んでしまう。



「い、一ノ瀬くん!?大丈夫ですか?」



「い……医者を呼んでくれ」



 心配そうな顔で委員長が小走りに近寄ってくる。俺に飛び蹴りをくらわせたのは、女の子だった。



「ざまぁ!」



 柔道着を着た女の子は、ドヤ顔で立っていた。



「こ、この、ドッペルゲンガーが!」



「ゆ、夕日!やりすぎですよ!」



「何言ってるの朝日!こいつがこれぐらいで死ぬタマじゃないよ」



 この柔道着少女の顔は委員長そっくりだった。それもそのはず、この2人は一卵性の双子だ。



「殺す気か!?」



「殺す気はない!死なす気!」



「……同じだ!」



 黒崎(くろさき) 夕日(ゆうひ)


 双子なだけあり、朝日とは身長や顔の作りが凄く似ている。違いはショートカットなのと、スタイルが夕日の方がいいぐらいか?ショートカットにワンポイントで結んでいる髪をなびかせながら、スポーツをしている印象。真面目な学者タイプの朝日に対し、健康系スポーツ少女が夕日だ。柔道部に所属し、昨年は1年生ながら全国大会に出場している。



「貴様は、いちいちドッペルゲンガーとかうるさいんだよ!」



「やかましい!暴力女!」



「きぃーーっ!暴力女とは何よ!」



 激情した夕日は、座ったまま身を起こしていた俺に飛び膝をみまう。



「げふっ!?」



「死ね!死ね!変態死ねーっ!」



「ま、待て!マジ死ぬ!」



 飛び膝だけでは飽きたらず、何度も俺を踏みつけていた。



「や、止めろ夕日!新しい快感に目覚めてしまう!」



「いっやーーーっ!?やっぱり死ね!このクソ虫が!」



 全体重が掛かったらフットスタンプが、顔面目掛けて降ろされるが間一髪、顔を横にずらし避ける事が出来た。本気で殺そうとしていたのが、かわした足から床に伝わる振動でわかった。



「ちっ!仕損じたか」



「仕損じたじゃねぇよ!本当にお前は柔道部か?飛道具多すぎじゃね?」



「ふん!瞬殺するにはこっちの方が便利だからな」



「瞬殺目的かよ!?」



 俺が殺害されそうになっているさなか、委員長はただオロオロとしていた。



「ゆ、夕日?今、部活中でしょ?どうしたの?」



「何となく朝日がいやらしい目で見られてる気がして、飛んできたのさ」



「凄ぇなドッペルゲンガー、お前はテレパシーでも使えるのか?」



「双子をなめるなよ、このクズ虫が!」



 夕日とも中学は同じだ。



 そして、敵対心?みたいな感じで委員長同様に目を付けられている。



「それに……凄ぇって事は正解か?」



「そ、それは……」



 夕日が拳を鳴らしながら近寄ってくる。既に立ち上がっていた俺は、夕日をこれ以上近寄らせないように腕を前に出して距離を取った。



「だ、大丈夫だよ夕日!ちょっとしか見られていませんから」



「ちょっと……だと」



(……委員長、フォローになっておりません)



「待て!落ち着け夕日!俺はローアングルで視姦などはしていない!」



「ほぅ……ローアングルとな……」



「ち、違っ!?」



 夕日の殺気に気が動転している。



「で、朝日の脚を見た……と」



「うむ、相変わらずの美脚だ!」



「死なす!」



 死刑執行開始の合図だった。獣のような俊敏さでダッシュした夕日は、前に出していた俺の腕を掴むと、そのまま飛びつき首に自分の膝裏を当て、俺の腕を開くように自分の方へ引っ張った。



「と、飛び関節だと!?」



 ロックされた腕と突っ込んできた夕日の勢いで倒れてしまう。倒れた瞬間、夕日は俺の腕を捻り胸元で固定する。



「いっ、痛ーっ!!」



 腕ひしぎ逆十字固めの完成だ。



「ふっ……全国大会用の裏技をここで披露してしまうとはな」



「俺で試すな!」



「朝日を視姦した罪だ!このミジンコが!」



「あーーーーっ!」



 夕日が俺の腕をさらに反らす。



「は、早くタップしてください一ノ瀬くん」



 委員長の言う通り、ギブアップしようと極められていない方の腕で軽く夕日の脚を叩く。



「なんだよ、もうギブか?根性ねぇな」



「逆関節極られて根性も何も無いがな!」



「これが、全国大会決勝ならどうするんだ?」



「ここは、全国大会でも決勝でもない!ただの放課後の教室だ!」



 夕日はなかなか解放してくれなかった。だんだん意識が腕に痛みとして集中してくる。だが、痛みの中に違う感触があるのに気付いてしまった。



(この腕を挟んでいる感触は……間違い無い!)



 逆十字をくらいながらもニヤけてしまう。



「何ニヤけてんだよ?Mに目覚めたか?」



 夕日は不気味さを感じながら、ふと自分の胸元を見た。身体に密着させて固定した腕は、見事に夕日の胸の谷間に埋もれている。



「うっぎゃーーー!?」



 自分の胸に腕を挟んだ事に気付いた夕日は、逆十字から腕を解放してくれた。退き、夕日は俺から距離を取る。



「こ、この変態アニマル!朝日を視姦して、今度はあたしの胸に欲情か!?」



「夕日の胸に欲情したのですか一ノ瀬くん?」



「そこが問題なんですか委員長?」



 とりあえず、片腕は犠牲にしたが貰ったアメは美味しい。



「とにかく、この暴力ゴリラに説明してあげて委員長!」



「誰が暴力ゴリラだって!?」



「夕日!おやめなさい!」



 夕日を委員長が後ろから羽交い締めにして突進を止めてくれた。が、夕日は委員長を引きずりながら前に進んでいる。



「い、一ノ瀬くん!早く逃げて下さい!これ以上、夕日を止めれそうにありません!」



「す、すまん委員長!委員長の犠牲は無駄にしない!」



「いえ、犠牲にはなっておりませんが」



 ここでボケを理解してもらうのには、委員長は真面目過ぎた。



 引きずられながらも、必死に夕日を抑えてくれている委員長を横目に鞄を抱え、ダッシュで教室から逃げ出す。



「麗しの委員長ありがとうー!そして、暴力猪よざまぁ!」



「きぃーーっ!死なすーっ!必ず死なすーっ!」


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