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Angel symphony  作者: 幸月友
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はい、嫁です-1

 屋上を出た俺は、真っ直ぐ教室へは戻らなかった。戻れなかったが正解だろう。授業を抜け出したうえに、ホームルームが終わってから戻ってくるなんて気まずい。



 しかも、あのスキャンダルアナウンサーがとんでもない事をしでかしてるのは容易に想像出来る。今日は、クラスメイトには会わずに帰りたいのが正直な気持ちだ。直接帰ろうかとも思ったが、鞄や携帯などが教室にある以上、戻らないという選択肢は取れない。



(どこか、時間を潰すとこないかな?)



 そう思いながら牛歩戦術のように歩いていたところ、ある部屋の前で足が止まってしまう。



「誰かいるかな?」



 そこは生徒会室の看板が掲げられている部屋。



 ホームルームが終わって間もない時間で、誰も居ない可能性が高かったがとりあえずノックしてみた。



「……ふぁーい、開いてますよー」



 部屋の中から女性の声が聞こえ、無人ではない事に安心する。



「では、失礼しまっす」



 ドアを開けると女性が1人イスに座ってせんべいを口にしていた。



「あーっ、空くんだーいらっしゃーい」



「ども、おじゃまします。瑞希会長」



 永瀬(ながせ) 瑞希(みずき)



 この学園の3年生で生徒会長


 一見、小学生に間違われてもおかしくない容姿だが、本物の生徒会長さんだ。



「瑞希会長、早いっすねここに来るの」



「ふぇっ?ち、違うよ!べ、別にお菓子を食べたくて早く来たんじゃないからね!」



「自爆を通り越して、説明になっていますよ瑞希会長」



 オロオロしながらも、せんべいは離さない会長の頭を撫でる。



「ふにゃー……」



(この人3年だよな……生徒会長だよな……だが、可愛いから許す!)



 可愛いければOKだった。



 頭を撫でられ、ゴロゴロ言いながら瑞希会長はニコニコしている。150cmにも満たない身長に、ツインテール。それにおしとやかな胸。アニメの声優さんですか?と言いたくなるぐらいの声に甘えた話し方。これぞ、定番ロリっ娘だろう。



 そんな、ロリっ娘生徒会長の頭を撫でている俺は、生徒会役員ではない。副会長が俺の親友で、よく生徒会の仕事を手伝っている内に仲良くなったのだ。



「空くんも早いけど、どうしたの?」



「いやー実は、授業抜け出して教室に戻り難いんですよ」



「めっだよ!抜け出したらダーメ!」



「すみません。以後、気をつけます」



「わかればよろしい!素直な空くんにはせんべいを贈呈しよう」



「あざっす」



 受け取ったせんべいをそのまま口にした。



「でもでも、空くんって不良さんだった?」



「優秀な生徒ではないと自覚しておりますが、そこまで不良さんではないと思っております」



 瑞希会長の斜め前の席に腰を下ろしながら言った。



「ぴかーん!訳ありとみた!」



「訳ありっすね」



「なになに、お姉様に言ってごらん」



 お姉様……妹の間違いじゃないか?そんな不躾な事はあえて言わないが、質問に対し話そうかどうかは躊躇してしまう。



 でも、学園内に他校の生徒らしき人が入っていた事や、こともあろうか屋上のフェンスの外にいた事は伝えないといけないだろう。



 どんなにロリっ娘でも、この人は生徒会長だからだ。



「実はですね……」



 屋上での出来事をかいつまんで説明した。当然、彼女との密着タイムには触れていない。そんな事を話して瑞希会長に不潔などと思われてしまったら、もう生きていけない。



「……と言う訳なんですよ」



「……そっか……屋上開いてたんだー……」



 瑞希会長は俺から目を背ける。しかも、食い付いた所が他校の生徒ではなく屋上……



「瑞希会長……まさか……」



「ち、違うよ!今日、屋上のフェンス修理が入るから、他に壊れてる所ないか見てって言われて帰りに鍵掛け忘れたりなんてしてないよ!してないよ!」



「瑞希会長ー!」



「ふにゃ!?ご、ごめんなさーい」



 瑞希会長は涙目になっていた。



「どうりで、授業中に屋上が開いてる訳ですね。瑞希会長……めっ!」



「えへへっ、めっされちゃった」



 瑞希会長は自分の頭を軽く叩く。その姿にキュンときたのは誰にも言えない。決して俺はロリでは無いからだ!



「他校の生徒ってどこの生徒だったの?空くん」



「いやーそれが見た事の無い制服で……白いワンピース型制服でスカートや袖に青いラインが入ってるんですよ。胸元のリボンも青でした」



 うちの学園の制服は、セーラー服タイプの上にチェックのスカートだ。シンプルだが人気はあるらしい。



「瑞希会長、どこのか知ってます?」



「ふにゅー……この辺でそんな制服あったかなー?」



「瑞希会長もわからないっすか」



「ごめんねー……でも、龍くんならわかるかもだよ」



「おぅ!確かに龍なら!」



 制服を知る可能性がある人物を思い出した時、生徒会室のドアがノックされ1人の男性が挨拶と共に入ってきた。



「失礼します……おや?空。どうしたんですか、こんなところで?」



「こんなところとは、失礼なヤツだな。俺は瑞希会長とらぶんらぶんな時を……」



「龍くーん。空くんはね教室に戻りにくくてここにいるんだよー」



 身も蓋もない。



 生徒会室に入ってきた男は


 澤村(さわむら) (りゅう)


 生徒会副会長で同じクラスの親友だ。超が付くほどのイケメン+眼鏡が知的なイメージを植え付ける。物腰の優しい話し方も人気だ。名前とは間逆の容姿に甘い声。


 だが、俺は知っている。


 こいつは変態だ!


 そして、ドSだ!



 表向きはマニアックな事まで良く知っている知識人的に見られているが、変態トークをさせたら2時間以上余裕で語れる男なのだ。



 しかし、その姿はごく一部の人しか知らない。



「ねえ、空くん。龍くんに聞かないでいいの?」

 


「あっ、そうですね……あ、後にします」



 こんな所で制服の話をして、詮索されてはややこしくなる。ここは、事情を説明してから聞くのが吉だろう。



 そんな俺の考えは、一瞬で霧のように消える。



「ねえねえ、この辺で白いワンピース型制服の学校って知ってるー?」



「ぶはっ!?瑞希会長?」



「白いワンピース型制服ですか?……すみません、存じてないですね」



「そ、そうか、ならいいんだ」



 龍でも知らないとなると、この辺の学校ではないだろう。



「どうしたんですか急に……あぁ、空が屋上で押し倒していた女性の事ですか」



「うおぉぉぉぉぉっ!な、なんでそれを!?」

(しかも、押し倒した事になってる?)



「それはもう、言わずもしれた事ですよね」


「ミコトーーーーー!!!」



「うぉぉ……終わった……俺の学園生活が終止符を打った……」



 立っている事が出来ず、土下座の態勢で泣き崩れている。



「大丈夫よー空くん」


「大丈夫ですよ」



 2人の優しさが心に染みる。



「空くんがどんなに変態さんでも、瑞希会長は生徒会長さんだからね」



「そうですよ空。今更、変態だと知れたところで問題は有りません」



「傷口に塩を塗るなーっ!それにお前には変態と言われたくない!」



「ちなみに塩とは潮ですか?」



「……それなら可だな」



 卑猥な会話になったところで、瑞希会長が龍のそばにトコトコ寄っていき、無邪気な笑顔で恐ろしい質問を投げ掛ける。



「ねえ、龍くん。潮ってなーに?」



「おやおや会長。それは、とても神秘なもので、男の願望であり……」



「ま、待て、龍!それはマズい!小学生には刺激が強すぎる!」



 思わず外見だけで小学生呼ばわりをしてしまったが、実際は俺らより年上だ。



「むぅー……小学生とは失礼だなー」



 頬をぷくーっと膨らまし、むくれる瑞希会長。

 なんだ、このお菓子をお預けされた子供は?と思わせる心が和む光景だった。



「ふーんだ。とにかく、空くんが変態さんだっていうのが分かったよ」



「あれ?俺だけ?」



 過激な事を言ったのは全て龍なのに、なぜ俺だけなのか?



 だが、こんな事は日常茶飯事だ。龍の優しい笑顔や柔らかな話し方は、どんなに卑猥な変態トークでも不快な印象を与えないらしい。一緒に話している俺が、その被害を全てくらってしまうのだった。



(この変態イケメン野郎!うらやましいなコラ!)



 親友に嫉妬してしまう。



「それでー空くん。その押し倒した女の子は?」



「押し倒した確定ですか!?なんか放課後って分かったら、勝手に屋上から出て行きましたよ」



「名前は聞いたんですか?」



「聞きそびれた」



「詰めが甘いよ発情アニマル」



「そんな酷いこと言ったらダメですよ瑞希会長。発情チキンですから仕方ありません」



「何気にお前の方が酷いぞ!」



「そっかー制服だけが手掛かりなんだー」



「手掛かりってか、気になっただけですよ瑞希会長」



「ちなみにどんな子だったのですか?」



 龍に聞かれて、屋上の彼女を思い返してみる。



「……白い翼を持った天使みたいだった……ちょっと電波チックだったけど」



 最初に思った印象を口にしてみた。



 それを聞いた瑞希会長と龍は、俺から目をそらし2人でヒソヒソ話している。



「ぷっ……聞いたー龍くん。白い翼の天使だって……ぷぷっ」


「くくっ……笑ったら失礼ですよ瑞希会長。くくくっ……あれですよ、空は病気なんです。かの有名な中二病ってやつですよ」



 2人は肩を震わせながら笑いを堪えていた。



「あぁーそうだよ!どうせ中二病だよ!せめてこっちを見て声に出して笑ってくれ!その方が傷が浅いから!」



「結局、その……白い翼の……天使……くくっ……誰だったんですかね?」



「知るか!」



「あはははっ、いやー見てみたかったねー……ぷぷっ」



「瑞希会長、笑いすぎ!」



 ただ思ったことを口にしただけなのだが、予想以上の反応に自分が本物の中二病ではないかと錯覚してしまう。



「流石は空ですね。想定外の笑いをありがとうございます」



「別に笑いを狙ったんじゃねぇ!」



「でも、瑞希会長。その女性の姿なら近いうちに見れると思いますよ」



「えっ?本当ー楽しみー」



「ど、どうしてだよ龍?」



 下手したら二度と見ることが出来ないような存在の彼女を、見ることが出来ると言った龍の真意は一体?



「えぇ、さっきミコトさんが号外作成でノパソいじってましたからね。写真も載せるらしいですよ」



「あの野郎ーーーっ!?」



 叫び声と同時に生徒会室を飛び出し、自分の教室へとマッハで駆け出す。


「あわわっ、空くーん!廊下は走っちゃらめーーーっ……」



 走っている俺の頭には、瑞希会長の「らめーーーっ」だけが鳴り響いていた。

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