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Angel symphony  作者: 幸月友
3/13

白い翼の天使-3

 二度も頭を強打した俺は、横になったまま彼女を見る。またがったままの彼女に、避ける気配は一切なかった。



「……頭、悪くない?」



「それは、大丈夫?と捉えていいのでしょうか?」



 彼女は俺の上で無言のまま人形のようにコクリと頷く。



「頑丈だから大丈夫!無問題だ!」



「……そう」



 本当に心配して聞いてきたのか不安になるぐらい無感情な返事だった為、思わず聞き返してしまう。



「心配してくれてるの?」



「……うん」



 やっぱり、無感情な返事に聞こえる。感情表現が苦手な人なのだろうか?そんな感想を抱いてしまっていた。



「……あなたは、何しに来たの?」



 少しは興味を持ってくれたのか、彼女から初めてまともな質問される。



「そりゃ、あんな所に立っていたら自殺するんじゃないかと思って、走ってきたんだよ!」



「……誰が?」



「キミがだよ!」



「……そう」



 まるで他人事だ。



 話せば話すほど不思議な彼女。そんな彼女が、さっきから俺の左手を見ている。自分でも左手を見てみると中指から血が出ている。



「あぁ、ここに来る時に階段でコケたからかな?」



「……痛い?」



「今まで気付かなかったけど、気付くと痛いかな?ちょっとだけどな」



 すると彼女は、俺の左手を手に取り中指を口にくわえた。



「ち、ちょっ!?」



 その行動に焦った俺は、瞬時に左手を引いてしまった。



「……こうすれば治る」



「な、治んないと思うよ。多分……」



 突拍子のない彼女の行動に心臓は破裂しそうなぐらいドキドキしていた。そのドキドキは指を咥えられたからだけではない。



「とにかく、よけてくれないかな?」



「……どうして?」



 真っ当な事を言ったつもりが、まさかの疑問で返されてしまう。



「いや、どうしてって言われても……ねぇ」



「……ねぇ?」



「ねぇ?じゃなくて!やっぱりマズいから!」



 特に下半身が。



「……どうして?」



 下半身の魔王様がお目覚めになりそうです!なんて言えない。



「こ、こんな所でこんな態勢はマズいでしょう!」



「……そうなの?」



「そうなんです!」



 惜しい気持ちは十分にある。あるけど……と葛藤していると、彼女が予想外な事を言い出した。



「……嫌」


「えっ?」



 まさかの否定に俺の思考回路はついていかない。完全にテンパった俺を無視するように彼女は自分の身体を倒し、俺に覆い被さってきた。



「うぉっ!?な、な、な」



「……こうすると温かい」



 春とはいえ、北海道ではまだ寒い時期だ。それなのに外にいたら身体が冷えるのは当然だった。



 彼女に覆い被さられた俺は、恥ずかしいのか何なのか寒さを感じるどころか、逆に熱くなっている。特に顔が。



「……温かい」



 彼女は目を瞑りながら、俺の胸に顔を寄せている。俺は無意識に怪我のしていない右手で彼女の頭を撫でていた。



「……凄い」



「えっ?なにが?」



 俺の下半身が反応しているのか?確かに、さっきから下半身の辺りに彼女の柔らかいお尻が乗っかっていて大変な状況だが……意識を下半身に集中するが、暴れん坊将軍は寝たままだ。



「……凄い、心臓の音」



「あっ……心臓ね……よかった……」



「……何がよかったの?」



 彼女の顔が、こっちを向く。



「べ、別にこちらの話です」



「……?」



 色々な意味で羞恥プレイのようだ。



(それにしても、気持ちいいな……リア充共は、こんな経験してるのか。死ねリア充!)と、ひがみ以外の何でもない事を考えながら、彼女の体温を感じていた……のだが、ちょうど肋骨下辺りに感じる一際柔らかい感触に気付いてしまっては、ひがんでる場合ではない。



(当たってます!お嬢さん当たってます!)



 隙間が無いぐらいに密着しているのだから当たり前の事。



(ヤバい!寝た子を起こすなーっ!)



 またもや、全神経は下半身の暴走を抑えるためにフル稼働だ。



(アカン!名残惜しい気もするが、やっぱり離れてもらわないと、俺は犯罪の道を突き進んでしまう)



 俺に耐える選択肢はないらしい。左手を使うと服に血が付いてしまうと思い、右手一本で彼女の肩を押しなんとか距離を取ったのだった。



「……寒い」



「それだけかい!」



 無表情だけど、どことなく寂しそうな雰囲気を感じる。どこで感じたのか明確な理由は無い。

 直感としかいいようがなかった。



(ふーむ……分かりにくい子だ……ん?)



 彼女の表情を探るように顔を見ていると、他の人と違う決定的なものを見つけてしまう。純白の髪だけではない。



「目……どうしたの?」



 彼女の目は、右は黒で左が青かったのだ。



「……どうもしないわ」



 やはり、無表情だがさっき以上の寂しさを感じる。



(地雷踏んだか?)



 しかし、ここで話をそらしても気を遣われたと思われてしまう。地雷源を装備無しで歩く事を選択したのであった。



「病気か?」



 彼女は首を横に振る。



「……違うわ」



「カラコン?」



「……違う」



 見事に地雷を踏みまくっているようだ。



「……ただのオッドアイ」



「オッドアイ?あぁ、確か虹彩異色症とかいう遺伝性のものだったか?」



「……知らない」



「そっすか……」



「……もしかして頭いいの?」



「そ、そう?別にこれぐらい常識だろ……ははっ……」



 たまたま、最近クリアしたゲームのキャラがオッドアイで、気になって調べたとは言えない。



 虹彩異色症なんて難しい言葉をだしたせいか、彼女は無表情ながら興味を示してくれたみたいだ。何となくだが雰囲気でそう感じる。



(さっきの寂しそうな感じよりいいな)



 こう考えてみると、表情の変化が無く感情の変化があるあたり、ネコのように思えてきた。だから、くっつきたがるのか?だとしたら何と危うい女の子なんだ彼女の過去、そして未来に不安を感じてしまう。



 だが今は過去や未来について考えるより、その大きな瞳のオッドアイに興味を引かれてしまったのである。



 遺伝性のオッドアイなら、目に異常があるわけではない。あくまでもDNAの問題だ。



「もしかして、瞳だけじゃなくて白い肌や髪も遺伝性?」



「…………そうよ」



 今まで以上に間のある返事をし、彼女は顔をそらしてしまった。それと同時に、彼女から大きな悲しみを感じてしまう。



(やっぱり、気にしてるのか?)



 それは当然であろう。



 多くの人は周りと違うものを嫌悪してしまう傾向がある。普通に美徳を感じる習性。日本人なら余計にだ。



 でも、俺は違った。



「綺麗な色で良かったな」



「……え?」



「あぁ、目も髪も綺麗だ」



 初対面の女性に綺麗とか言うなんて軽いヤツと思われたかもしれない。それでも俺は彼女に対してフォローを入れたわけじゃなく、純粋に綺麗だと思ったから言ったのだ。



「……気持ち悪い?」



「おいおい、俺の言葉を聞いてなかったのか?」



「……聞いてたわ」



「なら、俺は何て言った?」



「……ナンパ?」



「ち、違う!ナンパみたいな臭いセリフだったかもしれないが、決してナンパじゃない!」



「……そう」



 どうやら納得してくれたみたいだ。



「……綺麗なの?」



「聞いてたじゃねぇか!聞き直さないでくれ!」



「……どうして?」



「恥ずかしい!恥ずかしいから!」



 もう外の寒さなんかに構ってられないぐらい、身体中が恥ずかしさで熱くなっていた。彼女の機嫌は直ったのだろうか?そらしていた顔を再度向けてくれた。



(やっぱり、こうやって見ると綺麗だよな)



 馬乗りされローアングルから見ての感想だ。非常に特殊な状況だと思うが、この近距離で改めて彼女を見てみた。



 端正な顔立ちに遺伝性とはいえ綺麗な髪や目。着ている服はウチの学園の制服じゃなく、どこか違う学校の制服のようだ。見たことのない制服だから、この辺の学校ではないだろう。



 では、なぜここにいる?



 それ以前に俺は彼女の名前すら知らない。



 まあ、彼女も俺の名前を知らないだろうからおあいこだが。冷静になればなるほど、彼女には疑問点が沢山あった。



(とりあえずは名前を聞いておくか?)



 そう思い、声をかけようとした瞬間、先に彼女が話しだした。



「……名前?」



「えっ?」



「……あなたの名前?」



 どうやら、彼女も同じ事を考えていたらしい。



「俺は、一ノ瀬 空 この学園の2年生だ」



「……一ノ瀬……空」



 これで、俺は名乗った。次は彼女の名前をと思ったが、彼女は話を続ける。



「……空……良い名前ね」



「そうか?変な名前だよな」



「……ううん」



「そっか、ありがとう」



 名前を誉められたのは初めてだった。



「……青空の空だね」



「なっ……恥ずかしい言い方だな」



「……どうして?」



「そんな風に言われた事ないから」



「……そう」



 彼女は覚える時に口ずさむタイプなのか、大空を見ながら小さな声で何度も名前を連呼している。名前を覚えたのか、連呼が止まり再び俺の顔を見た。



「……空」



 優しい声で名前を言いながら、倒れ込むように俺に身体を預けてきた。



「ま、またー!?」



 そう言いながらも体は正直で抵抗出来ずにいたが、社会的体裁は抵抗する。



「ねぇ、寒いなら校内に入らないか?」



「……そうね」



「よし、じゃあ起きて……」

「……嫌」



 最後まで言い終わる前に否定が入った。彼女の会話の間を考えると、もっと先に否定しようとしてたに違いない。



 それにしても、否定されると困ってしまう。無理に押し退ける方法もあるが、何かの理由があってこの態勢を望んでいるとしたら可哀想だ。



 しかし、このままじゃ埒があかない。それに、授業終了のチャイムが鳴ってから結構な時間が経っていた。そろそろ、帰りのホームルームも終わりだろう。もしかしたら、屋上に人が来るかもしれない。



 こんな所見られたら……



(終わる!俺の彼女を作ってハッピー学園生活計画が終わってしまう!どころか、発情アニマルとして名を残しかねん!)



 そんな事を考えながら、目撃者がいないか横になったまま辺りを見回していたのであった。


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