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Angel symphony  作者: 幸月友
2/13

白い翼の天使-2

 澄み渡るような綺麗な声。



 女性の声が聞こえる。



 そう、彼女は歌っていたのだった。



 ーーーーーーー

 ーーーー

 ーーー

 ーー

 ー


 〈触れる鼓動のSymphony〉


 〈重ねる明日を染めていくの〉


 〈純白に染まった この世界で〉


 〈光輝きたい あなたと一緒に〉


 〈奏でるMelody 未来を紡ごう〉


 ー

 ーー

 ーーー

 ーーーー

 ーーーーーーー



 思わず聴き入ってしまう。心奪われるとはこの事だろうか?こんな状況でありながら身動きが出来なかった。



 ハイトーンで伸びる声に、アカペラながらリズムが聞こえるかのような歌い回し。それは、綺麗な声であった。多分、サビの部分だったのだろう。まるで間奏に入ったかのように、女性の歌声が止む。



(おっと、聴き入ってる場合じゃない!)



 我に帰り、ドアから顔だけ出して屋上の様子を見る。キョロキョロと辺りを見渡し、ちょうど開いたドアの裏側に顔を出した。



 またもや、一瞬の光が目に入る。俺はその光の方向へ視線を向けた。



(居た!………っ!?)



 風になびく純白の髪。髪が太陽の光を拡散させ、まるで光り輝く翼のようだ。



 それはまるで、白い翼を持つ天使の後ろ姿。



 神々しいとは言い過ぎかもしれないが、その後ろ姿は人とは思えないほど綺麗である。



 歌声を聴いて身動きが出来なかった時とは違い、今度は惹かれるようにドアから離れ、ゆっくり白い翼の天使に近付いていった。



 足音を立てないように意識して歩いた訳ではないが、自然と音が出ないような丁寧な歩き方になっている。だが、何かに気付いたかのように天使は不意に後ろを振り向いた。



「……あっ」



 驚いたような言葉を吐くが、声色は驚いていない。なによりその顔は、驚いているどころか感情を無くしてしまった無表情な美少女だったのだ。



 どこかに表情を落としてしまったのだろうか?と思ってしまうぐらい、俺の姿を認識しても顔色は変わらない。しかし、そんな無表情でも整った顔立ちは十分過ぎるぐらいの美少女と言えるだろう。



 風が止み、翼のように見せていた長い髪が、ふわっと背中に舞い降りる。



 腰まであるロングヘアーは真っ白で、染めたり脱色したようには見えない自然に綺麗な純白。それは髪だけでなく、服の隙間から見える肌も白かった。着ている服も白がベースで、純白の存在感をそこに感じる。



 俺は惹かれるがまま歩き、彼女との距離は屋上のフェンスを挟んで3mぐらいまで近付いていった。



「そんな所にいたら危ないぞ」



「……そう?」



 綺麗な声だが、感情が無いように感じる返事。



 しかも、疑問系だ。



「いや!危ないでしょ!」



「……そうね」



 他人事みたいに返事が返ってきた。



「そうそう、危ないからこっちに来ないか?」



「……でも」



「でも?」



「……ここから見ると綺麗」



 この学園は丘の上にあり、屋上からの景色は絶景だった。



「綺麗なのは分かるけど……」



 その時、再び一筋の風が吹いた。



 再び舞い上がる白い翼。



 そして、スカート……



(うおっ、見えっ!……と)

「って違うだろー!」



 邪念を打ち消すかのように、自分の顔を殴る。



「……何してるの?」



「べ、別に……」



 挙動不審な行動をしても、表情が変化する事は無い。



「一体どうやってフェンスの外に出たんだよ?」



 フェンスの高さは2m以上あり折り返しが付いている。男でも簡単に登れるものではない。



「……あそこ」



 そう言いながら彼女は、フェンスの端を指差した。そこにはフェンスの外に出る扉が開いている。



「ちゃんと管理しろよ!」



「……管理?」



「いや、君がじゃなくてね。とにかく、こっちに来てくれないか?」



 懇願するように両手を合わせる。



「……わかった」



 そう言った彼女は、廊下を歩くようにフェンスの外をスタスタと歩く。



「あ、あぶっ!ゆっくりゆっくり」



 歩いている本人より、俺の方が焦っていた。



 彼女と並行してフェンスの扉まで歩き、ようやく扉の所までたどり着く。



「……中に入るの?」



「当然です!」



「……わかった」



(ふぅー、やれやれだぜ)



 やっと一安心出来る場所へ彼女を誘導出来たと思ったその時だった。



「……あっ」



 彼女がフェンスを乗り越えようとした瞬間、フェンスの段差に足を引っ掛け転びそうになる。



「うおっ!?」



 引っ掛けた足は、後ろ側に滑り落ち校舎の外にまで飛び出してしまっている。



「マズいっ!!」



 その声と同時に、転びそうになっている彼女の手を掴み、全力で引っ張ったのであった。当然、力の加減などができる状況ではない。力の限り引っ張った彼女は宙に浮く。



(軽っ!?)



 思ったより抵抗の無い彼女の体重にビックリしてしまう。そのまま、勢い余り彼女の身体が俺に激突したのであった。引っ張る力+彼女の体重+バランスを崩した俺=支えきれない。簡単な足し算の結果、俺は彼女に押し倒されるように後ろに倒れてしまう。



「ぐふっ!いっ……」



 こんな状況下では、受け身もとれず背中を強打し、ついでに頭もぶつける。一瞬だが息が出来なくなり、真っ暗になった視界に星が舞っていた。どんなに頑丈な俺でも、受け身も取らず頭を強打したら身動きは取れない。



(くっ!頭がガンガンする)



 こんな時に急に動くと危ないって話も聞くし、とりあえず現状把握する事にした。



(えっと……授業中に外を見てたら自殺しそうな人がいて、抜け出して屋上に来たっと……その人は自殺じゃなくて景色を見ていただけらしい)



 ここまで覚えているなら記憶は大丈夫のようだ。



(その人は、会話に独特の間がある美少女で、とにかく危ないからフェンスの中に入ってもらうようにした……そういえば何かチャイム鳴ってたな?結局、授業サボっちまったな)



 授業態度は不真面目だが、サボるほど不真面目な生徒ではなかった。



(で、彼女がフェンスを越える時に足を滑らせ、手を掴んで引っ張ったけど勢い良すぎて俺まで倒れたっと……)



 記憶は完璧だった。



(じゃあ、今の状況を把握してみよう……頭が痛くて目を開けられないのは良しとしよう……でも、この甘い匂いと顔を押し潰すような柔らかい感触は一体……)



 今の自分の姿を客観的に想像してみる。



(確か、彼女を引っ張って倒れたんだよな?じゃあ、彼女はどこに倒れてる?)



 本当は気付いていた。ただ、認めたくなかっただけなのだ。



(あぁー身体中が温かいな……温もりってやつだなこりゃ……それに柔らかいし……特に顔が……)

「って余韻に浸ってる場合じゃないだろ!」



 自分にツッコミを入れながら、おもむろに上体を起こす。



「……生きてた」



「えぇ!生きてますよ!生きてますとも!」



 彼女は俺にまたがるような態勢でいる。



(やっぱりか……じゃあ、さっきの感触は……おぱーい……)



 俺は何かを確認するように至近距離で彼女の胸元を見てしまっていた。



「……急に動いたら危ないわ」



 そう言って彼女は両手で俺の肩を押した。



「おぶっ!!」



 再び頭を強打してしまう。



「こっちの方が危ない!」

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