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Angel symphony  作者: 幸月友
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白い翼の天使-1

「ふぁぁぁ‥‥眠っ‥‥」



 春の温かな日差しが、窓際の席に座る俺に降り注ぐ。そんな中で本日、最後の授業が古典なのである。まさに、眠気が最高潮だ。



 先生の読み上げる古文が、子守歌のように睡眠欲求を掻き立ててくれる。



(最後の授業に古典なんて、寝てくれとでも言ってるのかね?)



 そんな事を考えながら、授業そっちのけで窓の外を見ていた。それには目的があって見ていたのではない。古文が書かれてる黒板を見るよりは、外を見ていた方が精神的に遥かに気楽だからである。



 そんな不真面目に授業を受けている俺は

 一ノ(いちのせ) (そら)

 北海道にある高校 白石学園の2年生だ。



 授業中に余所見をしているぐらいだから、成績は決して良くはない。運動神経はそこそこだが、部活にも入っていない。お調子者の三枚目が周りの評価だ。



(うむー‥‥眠気の限界‥‥)



 睡眠欲求に耐えれず、机に伏せようとした瞬間、小さく折り畳まれた紙が隣の席から投げ込まれ顔に当たり机に落ちた。



 なんだよと思いながら、折り畳まれた紙を広げ中に書かれている文字を読む。



 〈あたしも眠いんだから、空だけ寝るのは許さん!道ずれじゃー!〉

 文末には怒りの顔文字。



 睡眠を阻止され、軽く溜め息をつきながら紙が投げられた方向を見ると、ポニーテールの女の子がドヤ顔でこちらに向けて中指を立てている。


 北条 ミコト(ほうじょう みこと)


 小中一緒の学校で、クラスもほぼ一緒の腐れ縁な奴だ。幼なじみの定義は分からないが、小学生の頃から一緒に遊ぶぐらいの女親友と言っても過言ではない。



 今でも、男子に混じって騒ぐぐらい活発なヤツで、大人しくしていれば、可愛い部類にははいるだろう容姿だが、如何せん歩くスピーカー。ミコトの辞書に無言の文字は存在しないぐらい、常に騒いでいる。



 明るめな茶髪のポニーテールをなびかせながら、新聞部兼放送部として走りまくり、恐ろしいぐらいのスキャンダルセンサーを駆使し学内の電波塔として活躍していた。



 ちなみに、スタイル抜群のエロボディだ。



(はいはい、分かりました)



 目で訴え、それを受信したかのように笑顔で何度も首を上下させるミコト。



(アイツのポニーテールはアンテナか?)



 寝るのを断念し、俺は再び窓の外を見始める。視線の先には無人のグランドがあったが、視界には入っていない。ただ、そこを見ているだけで脳にまで映像が届いていない、そんな感じでぼーっとしていたのだった。



 それはもう、老人が軒先で庭を見るかのごとく無の境地に達していたかもしれない。その状態から現実に戻したのは、目に入る一瞬の光であった。



 光はグランドからではなく上の方、2年生の教室が校舎の2階なので、3階か屋上または空からの光だと推測される。



(んっ……何が光っているんだ?)



 授業中は頻繁に外を眺めているのに、今まで一度も上からの光を感じた事は無かった。



 校舎の作りは、上から見るとU字型の3階建になっている。端が1年から3年の教室で、真ん中部分が職員室や移動教室。反対側が部活動で使う部室というように区分けされている。



 部室がある棟だけは屋上が開放され、ちょっとした中庭感覚の作りになっていた。そんな作りの校舎で、光を感じた方向に顔を向けてみた。



 光を感じる場所は部室棟の屋上だった。



(ん?屋上?授業中なのに誰かいるのか?それとも何かが反射したのか?)



 俺は目を凝らして屋上を見る。すると、視界の端から瞬間的に何かが光った。



 今度は、場所を確定できる。



 視界の端にあった光を素早く視界の中央に移動させ、裸眼2.0の視力を駆使して凝視した。



(あれは‥‥人?)



 その人が発してる光ではなく、逆光のような光の反射で全身は見にくい。だが、人である事は確実であり、多分だが女の子のようにも見えた。



 授業中の屋上に女の子が居る事より、もっと驚愕の事実を視界に捉えている。



(あれ‥‥フェンスの外じゃねぇか!?ヤバっ!!まさか、自殺なのか?)



 一瞬で頭をよぎる最悪な想像。



(先生に言うべきか?でも、それじゃあ大騒ぎになる‥‥どうすれば‥‥)



 時間にして数秒だったが、脳みそは過去最速フル回転。



 そして、出した答えが……



「先生ーっ!便所行ってきてもいいっすか?」



 自分が駆けつける為に教室から脱出する方法だった。



「一ノ瀬!我慢出来んのか?」



 不真面目に外を見ていたのは、先生も気付いている。そのせいか、素直には教室から出る事が出来なかった。



「無理っす!限界間近っす!」



「大か?小か?」



「大っす!」



 潔い言いっぷりに教室に笑いが響く。



「空ーっ、特盛りかい?」



 ミコトが良いタイミングで絡んできた。



「メガ盛りだよ!」



 教室が爆笑の渦に巻かれる。



「先生ー、マジにヤバそうですよー。このままじゃ空がお漏らし王として暗黒の学生生活を向かえそうです」



 そこまで言わんでもいいが、ナイスフォローと感謝しておこう。



「はあ‥‥とっとと行ってこい」



 そのおかげか、溜め息混じりに了承を得る事が出来た。



「ラジャー!では、行ってまいります!」



 誰が見ても大を我慢してるとは思えない軽快な動きで、教室を飛び出していく。作戦通りに教室から脱出成功した俺は、出来る限り音を立てないように全力で廊下を疾走していた。



(廊下は走ってはいけません‥‥知った事か!人の命がかかっているんだ!)



 走りながら風紀のポスターが目に入るが、自分なりの理由をつけて無視する。



(くそっ!なんだよ!?平和な睡眠タイミングにあんな場面見せやがって!)



 もし、本当に自殺なら直前の姿を見てしまった俺は罪悪感にかられるだろう。自殺じゃないなら、それでよし。とにかく、真相を確かめる為にも屋上に急がねばならなかった。



 だが、教室から屋上に上がる階段までは校舎の端と端。焦る気持ちと音を立てないように走っているせいか、いつも以上の距離と疲労を感じる。



(こんなに遠かったか?)



 焦りはさらに焦りを呼び、得体の知れない焦燥感が身体を包み込む。その焦燥感を振り払うかのごとく、走り続け2階の端までたどり着いた。残るは階段だけだ。



 階段を目の前にし、大きく深呼吸したあと息を止め2段飛ばしで一気に駆け上がる。



(間に合え!間に合えよ!)



 残り僅かな距離。3階の踊場まで到達し、そのままノンストップで屋上までの階段を駆け上がる。2段飛ばしで階段を駆け上がっていたので、2階から数秒で屋上のドアが見えるぐらいの位置まで来る事が出来た。



(よし!ドアを開ければ屋上だ!)



 ゴールを目の前に気を緩めた訳ではない。2段飛ばしで無理しながら駆け上がった結果、あと1歩の所で足を踏み外してしまう。



「うおっ!?」



 階段の端に足が掛かり、バランスを崩した俺は、前のめりのまま滑り落ちてしまった。



「くうっ!」



 なんとか手で階段を掴み、2,3段落ちるぐらいで済んだ。そのまま、腕の力で上体を引っ張り上げ残り数段を一気に駆け上がる。滑り落ちた驚きや、全力で駆け上がった事で息が乱れていたが、そんな事を気にしている場合ではない。



 乱れた息のまま、ドアノブに手をかけ、そのままドアを開けようとしたが躊躇してしまう。



(ここで、急にドアを開けてビックリした拍子に足を滑らせたら……)



 そんな考えが頭をよぎってしまったのだ。



(ダメだ!ここはゆっくりと……)



 自分を落ち着かせるように大きく息を吸い、ドアノブをゆっくり回して少しだけドアを開けた。ドアの隙間から外を覗くが、誰も見えない。



 誰も居ないのか?これぐらいの隙間からじゃ見えない位置なのか?



 それとも……



 嫌な想像が、冷たい汗を全身から吹き出させる。緊張のせいか、唾を飲む音が大きく聞こえる。



 だが次の瞬間、黙視での確認ではない方法で屋上に人が居る事を確認する事が出来たのだった。

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