chapter.99 愛の告白
真道歩駆と《ゴーアルター》が異次元に消え、ヤマダの《ドラグゼノン》とのタイマン勝負となりマコトたち《ゴッドグレイツ》は窮地に立たされていた。
山脈のように規格外の大きな体躯を持つ《ドラグゼノン》から繰り出される激しい一方的な攻撃を前に《ゴッドグレイツ》は手も足も出せない。
「なんだってのよ……ゴッドグレイツ、もっと力を出せるでしょ!?」
「所詮は不完全なexSVだなァ!? 何もかも中途半端、燃えるだけならマッチで十分だァ!」
漆黒の羽を《ドラグゼノン》が一振り羽ばたかせるだけで巨大な竜巻が発生。
凄まじい吸引力に《ゴッドグレイツ》が纏う炎は一瞬で消され、天高く舞い上がる。
再び遥か遠くに飛ばされて砂上に墜落する。
「三本の矢だって思いきり力を入れると折れるのさァ!!」
「くっ…………くそ、バカにして……!」
高笑いするヤマダの《ドラグゼノン》をマコトは睨む。
砂塵が吹き荒ぶ中をゆっくりと《ゴッドグレイツ》は立ち上がり、歩を進める。
その瞳は今だ眼光鋭く、目の奥で赤と青の火が激しく燃えていた。
「そうやって、人を見下したような態度のアンタには一生わからないでしょうね。仲間との信頼なんてね」
「はァ? 今なんと言ったんだァ?」
聞き返しながらも《ドラグゼノン》はわざとレーザーを乱れ撃ちながら《ゴッドグレイツ》の行く手を妨害する。
だが、マコトたち《ゴッドグレイツ》は飛び交うレーザーの間を縫って砂上を駆け抜ける。
「簡単には折れないって言ってんのよ! 諦めない、何度だって立ち向かってみせるんだから」
「マコトちゃんの言う通りです! どれだけ貴方のSVが強大でも私たちは屈したりしません!」
トウコの意思が《ゴッドグレイツ》に乗ると、背中から青い炎が翼のようにひろがって吹き出した。
「だったら、わからせるまでだァァーッ!!」
大きく息を吸い込んだ《ドラグゼノン》の顔から黒い炎を勢いよく吐き出すと《ゴッドグレイツ》青い炎の翼で防ぐ。
「……たったそれだけか、オリジナルの俺よ?!」
啖呵を切るのはガイ。
吐き続ける黒い炎の中を掻い潜り《ゴッドグレイツ》は白き火炎を纏って接近すると《ドラグゼノン》の下顎に強烈なアッパーカットを食らわせた。
「あァーん? 模造品がァ聴視に乗るんじゃァない!!」
すかさずオーラレーザーを乱れ打つヤマダだったが白い軌道を描きながら《ゴッドグレイツ》は高速移動で次々と回避し、レーザーは掠りもしない。
「なぁ奴をどう思う、マコト?」
「ガイのオリジナルで、本当の真道くんか。私から言わせてもらうと……アンタ空っぽだよ!」
ヤマダを煽るマコトと《ゴッドグレイツ》は《ドラグゼノン》の頭部に降り立ち、背中の坂を下りながら本体の《ゼノン》を目指した。
「なんの魅力も感じない。自分を大きくみせるだけの虚勢、ハリボテ、上っ面だけ。まだシアラの方が人間味があったよ、ヤマダ・アラシ!」
「言っておくがァそんな罵詈雑言で惑わそうったって無意味だァ」
ヤマダは《ドラグゼノン》の背中を駆ける《ゴッドグレイツ》を攻撃しようと動かすが違和感を覚えた。
「どうしたァ、ドラグゼノン!」
ヤマダの指示に《ドラグゼノン》は反応を示さない。
虚空を見詰め停止したままだった。
「…………あっ……!」
◆◇◆◇◆
その瞬間、一発の火焔弾が《ドラグゼノン》の頭を直撃して爆裂した。
『ふん、あんな遠いところからまぐれ当たりというわけだァ』
攻撃の出所は遥か彼方。肉眼では豆粒にしか見えない距離の《ゴッドグレイツ》からである。
◆◇◆◇◆
『ぬはっはっはっ! ヤマダの小僧、この黒龍は支配してやったぞ!』
首を後ろへ振り向かせヤマダの《ゼノン》を見る《ドラグゼノン》から高笑いが響き渡る。
その声はクロス・トウコの中に居たはずのオボロだった。
「そうか……あの時かァッ!?」
それは《ゴーアルター》を冥王星へ飛ばす直前に受けた火球。
遠方からまぐれで当たったと思われた《ゴッドグレイツ》の攻撃はオボロの魂を込めた一撃であった。
「作戦大成功だね、オボロちゃん!」
嬉しそうにマコトが叫ぶと山のように巨大な《ドラグゼノン》は次第に収縮していく。
『マコトが時間を稼いでくれたおかげだ……それに』
『…………マコト、すまなかった』
優しげな男の声が名を呼ぶ。
マコトの父、裕史だ。
『あの男に心を支配されていた。娘に手を上げるなんて父親失格だ』
「……ううん、いいんだよ。パパが無事なら……それよりも娘の活躍を、そこで見ていて!」
許すマコト。
再び《ゴッドグレイツ》は《ゼノン》に向き合おうと前を向くと、そこに《ゼノン》の姿はなかった。
『そう言うのが一番、虫酸が走るんだよなァ!!』
一瞬の出来事だった。
マコトがユウシの方に気を取られている内に《ゼノン》は《ゴッドグレイツ》の背後に急接近。
次の瞬間には《ゴッドグレイツ》は天高く打ち上げられ、両腕、両脚を《ゼノン》の持つベールが変化した光の剣によって切断されていた。
「うぐ、あぁぁあぁぁぁぁあぁぁーッ!!?」
『ドラグゼノンが小さくなったのはなァ、お前らに奪われたからじゃァないッ! ゼノンから与えるエネルギーの供給を止めただけだァー!』
「くぅぅ……手や足の一本や二本ぐらいでッ!!」
諦めないマコトに強く呼応して切断された部分から激しく燃え盛る紅蓮の焔が放たれた。
「ガイ! トウコちゃん!」
「ぶちかませ、マコトッ!」
「マコトちゃん、お願いします!!」
三人の意思の炎が一つとなり、猛火となって《ゴッドグレイツ》を包む。
「「「イルネイト・ノヴァッ!!!」」」
白き世界を飲み込む《ゴッドグレイツ》の特大閃光。
光すら食らい尽くす渾身の一発は《ドラグゼノン》の巨体は跡形ともなく消滅した。
「ぐぐぐ、こんなァ……たった三人で、この……コフィンエッグを有するゼノンがやられるわけがァーッ!!」
凄まじい光の奔流に耐えるヤマダの《ゼノン》はゆっくり《ゴッドグレイツ》に近付こうとすると、目の前に空間が突如、裂け出した。
「な、なんだァ!? こんどは何がおき…………がっ?!」
裂け目の向こう側から無理矢理、抉じ開けようも飛び出し蠢く白き物体。
「これは……指?! こんなデカイ“指”があってたまるか!? この指、いやもう出てきている手は…………まさかァ!?」
「破り抜けッ!! ゴォォアルタァァァァーッ!!」
次元を裂いて現れる白き巨神と少年の咆哮が轟く。
生命の煌めきを装甲に纏う《ゴーアルター》は超巨大化した《ドラグゼノン》よりも遥かに大きく、まるで星のようだった。
「真道歩駆……往生際が悪いなァ!! 失格者は失格者らしくさっさと退場しなァァッ!!」
ヤマダの怒号を《ゼノン》はエネルギーに変えた極大のビームを放つ。
「返して貰うぞ、ヤマダ・アラシッ!!」
ヤマダの《ゼノン》の攻撃は顔面に直撃を食らうも、今の《ゴーアルター》には蚊が刺す程度の些細なダメージ。
歩駆の視線は《ゼノン》の額の中にいる礼奈を見詰める。
礼奈も《ゴーアルター》を通して歩駆を見詰め返した。
──歩駆。
「聞いてくれ礼奈……。俺は、いつだって自分勝手だった。いつも選択を間違った。昔からそうだったよな……小さい頃から色んな迷惑とか心配とか世話を焼かせるようなことをさせて、それで……そのせいでお前を戦いに巻き込んでしまって、ゴーアルターで…………全部、自分が悪いんだ………本当にすまないと思っている。俺は馬鹿な男なんだ、これ以外に上手いやり方が思い付かない。だから、今度こそ俺にチャンスをくれ! 必ず礼奈を救ってみせると誓う。この世界で俺は……俺は、お前がいないと駄目なんだ! お前と、礼奈と一緒にいたいッ! 大好きだッ!! お前が好きだァッ!! 礼奈ァァァァーッ!!」
◇◆◇◆◇
それは残光か、元々の景色なのか。
マコトが気付いた時には一帯は晴れ、静寂だった。
倒れ込んでいた手足のない《ゴッドグレイツ》は上半身をゆっくり起き上がらせる。
周囲をぐるりと見渡すと、自機を中心に深いクレーターが広がっていた。
「…………そうだ、真道くん! ゴーアルターは? アイツは、ヤマダ・アラシはどうなったの?!」
「行けば分かるさ……」
マコトたち三人は《ゴッドグレイツ》を乗り捨ててクレーターを脱出する。
目の前には大規模な戦闘があったにも関わらず傷ひとつ付いていない“扉”が変わらず佇んでいる。
その下には少年に抱きかかえられた少女が嬉しそうに泣きじゃくっていた。





