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chapter.92 怒りの日

 スフィア、地球、月の激化する三つ巴の攻防戦は最終局面を迎えていた。

挿絵(By みてみん)

 大気圏へと突入していくミナヅキを破壊するため、クィーンルナティクスは戦火の中を突っ切って近付き、主砲を発射しようと狙いを定めていた。

 艦長代理ヴェント・Y・モンターニャは決死の覚悟で判断したが、その目論みは大きく外れてしまった。


 地球の重力により降下していくジャイロスフィア・ミナヅキに突撃する二つの光。

 真っ赤に燃える一つは《ゴッドグレイツ》で、もう一つの目映い閃光は冥王星より帰還した《ゴーアルター》だった。

 前後から来る激しい衝突にミナヅキ全体に亀裂が入り、真っ二つに分断された。


「やったのか!?」

「落下ポイントからは大きく反れましたが……」

 オペレータは新たな予測をスクリーンに映し出す。


「海に落ちるか」

「これで、もう安心なんですね」

「いやしかし、それでも被害は起こるだろう。作戦は終わっていない、ルナティクスを残骸の破壊に向かわせろ!」

 周囲に纏っていた不気味なオーラが消えたのを確認してクィーンルナティクスはミナヅキを追い掛けた。



 ◆◇◆◇◆



 崩壊するミナヅキの中で対峙する、かつて愛し合っていた男と女。


 不安定な中、跪く《ゼノン》の足から軽々と上っていくヤマダ・アラシは頭頂部にある蓮華の形をした座椅子に腰を下ろした。

 胡座あぐらをかき、つまらなそうに欠伸をしてみせる。


「つまらない世界だと思わないかァ? 何もかも上手くいかなかった……もっと、いい世界を紡げるはずだったのに……」

 乾いた音が鳴る。


「無駄だよ愛留」

 落胆するヤマダの額に鉛弾が空中に浮かんでいた。

 ミナヅキが落下している中で、正確にヤマダの眉間に向かって拳銃を撃ったのは虹浦愛留だ。

 ヤマダは深いため息を吐き、弾丸を指で摘まんでスーツの胸ポケットに仕舞う。


「僕は君を殺したくない。こんなに人を好きになったのは初めてで、特別なんだよ? 君だけは次の世界にも連れていきたいんだァ」

「そんなハネムーンはごめん被るわ……ルクスブライトッ!!」

 愛留がその名を叫び、呼び出す。

 床を割って現れた白き兜の《ルクスブライト》に愛留は飛び乗った。


「その機体、アイミ・テイトが作った機体かァ? とってもよく出来てはいるが、ゴッドグレイツの模造品で何が出来るって言うんだァ!」

「アンタを殺すことよっ!」

 愛留は《ルクスブライト》のリミッターを外す。

 肉体と精神を機体に捧げ、頭部と胴体だけの《ルクスブライト》から光を帯びた四肢が生える。


「はあぁぁぁぁあぁぁっ!!」

 光の巨人と化した《ルクスブライト》が駆け出す。

 視認できないほどのスピードでヤマダの《ゼノン》に背後に回り込み、輝く白き拳を振り下ろした。

 しかし《ルクスブライト》の手刀は《ゼノン》が纏うベールが蛇のように動いて防ぎ、跳ね返されてしまった。


「この《ゼノン》は世界中のニジウラ・セイルを信じた者たちの魂を吸収し、一つとなって形になったマシンだァ。君ならわかるだろう、ファンの結束力は何よりも強い」

「そんなものが何だってのよ。本人が死んでしまったら終わりでしょうよ!」

「わかってないなァ。死ぬからこそ永遠になれる、そして死んでしまった者から受け継ぐ者こそ、次の世界に必要なIDOLイドルなんだよなァ」

 ヤマダは《ゼノン》の額にあるクリスタルの装飾を覗く。

 その中に磔にされた少女が一人、渚礼奈はぐったりと項垂れていた。


「訳のわからないことを言わないでっ!」

「わからなくても結構! すぐにわからせてあげるさァ!」

 振り返る《ゼノン》はベールを伸ばして《ルクスブライト》の足に巻き付かせると引っ張り上げて自機に近付かせる。


「くっ、しまっ……!」

「拳とは、こうやって打つんだァッ!」

 足を前に踏み入れ、腰を下ろして身体を捻りながら真っ直ぐに左腕を突き出した。

 瞬間、とっさに《ルクスブライト》は顔を横に反らして《ゼノン》の鋭いパンチを避ける。


「流石は我が嫁だァ!」

「婚約なんてとっくに解消よッ!!」

 ヤマダを睨む《ルクスブライト》の両目から光線が放たれる。

 回避できるはずのない至近距離のビームが、ヤマダを跡形もなく消し飛ばせると確信した愛留。

 だが《ゼノン》の頭部にビームが照射する前にヤマダの姿は消えていたのだ。


「上に飛んだっ!?」

「下に落ちたかなぁ?」

 足下で手を振るヤマダを確認した一瞬の隙に《ゼノン》のベールが《ルクスブライト》の手足を拘束した。


「あぅっ……ぐぅ」

「本当に残念だなァ。僕は心底、君に惚れていたと言うのに」

 空中で縛られながら必死に抵抗する《ルクスブライト》を通して愛留が向ける憎しみの眼差しがヤマダの目には写る。


「私は、後悔したわ……あの時の貴方は、とても……自由で輝いて見えた」

「うん」

「でも……それは間違ってた! 貴方の中にあるのは……独善的で、人の心を利用し、人を人とも思わない、最低のクズ野郎だって!」

「……ふーん、これでサヨナラだ、愛しき人よッ! 僕は君と決別する!」

 パチン、と指を鳴らしたヤマダ合図で《ゼノン》のベールが伸びて《ルクスブライト》の頭や身体全体をキツく巻き上げると、一瞬にしてバラバラに締め壊されてしまった。

 ベールを解き、残骸は大気圏落下の風圧で彼方に吹き飛ぶ。


「…………ふぅ……フフフ、さァーて! もう未練は断ち切ったァ! これでこの世界は終わりに……と、その前に……遅いじゃないかァ?!」

 かつて愛したものを手にかけてと言うのにヤマダの興味は移り、目を輝かせながら手を広げて次の来客を待ち受けた。


「礼奈、どこにいる……礼奈ーッ!」

「歩駆見て! あの機体、あそこだよ?!」

 下方から勢いよくやってくる白き巨神。

 力を取り戻し、復活した真道歩駆とマモルの《ゴーアルター》である。


「誰か人が居ますわ、マコトちゃん!」

「あれは、ガイ? でも、アイツはここに?!」

「…………ふ、アレが俺のオリジナルか……」

 黒焦げで四肢を失ったガイの《ブラックX》を抱き抱えて、サナナギ・マコトとクロス・トウコの《ゴッドグレイツ》が現れる。

挿絵(By みてみん)

 二機のexSVを前に不適に笑うヤマダ。


「模造の機神ども、今となっては無用の存在かァ……しかし、もうこの階層も終わりになる。星の終焉をじっくり眺めるとしますかァーッ!!」

 目映い閃光を放つ《ゼノン》が飛翔する。

 ヤマダは渦巻く天を見上げて高らかに叫んだ。



 ◇◆◇◆◇



「一体、何が……何が起こっている……っ!?」

 地球に向かうクィーンルナティクスの背後で起こる超常現象により艦が激しく揺れる。

 不可思議な事態を目の当たりにして絶句するヴェント。

 それは戦場にいるもの全ての人間も同じだ。


「直上より異常な重力場を感知!」

「宇宙で、嵐が起こっているだと……そんなことは、あり得ん!」

「艦長代理……み、見てください!」

「なんだ…………う、宇宙が……割れている!? また擬神の出現だと言うのか? しかし、これは……」


 月の戦いとは比べ物にならないほどの裂け目が戦場のSVや戦艦を飲み込んでいく。

 やがて地上からもはっきりとわかるぐらい広がっていき、地球の空を引き裂いた。



 ◆◇◆◇◆


 時は移り変わり22世紀。


 西暦2101年、一月一日。


 その日、人類の未来は閉ざされ、世界は崩壊した。


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