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イミテイターイドル ~模造のヒトと偶像の機神~  作者: 靖乃椎子
Episode.12 √真道歩駆:復活篇
80/104

chapter.80 冥王星、受胎

 マモリとマナミ、そして歩駆を乗せた《ガイザンゴーアルター》が月を出発して一週間が過ぎた。


 始めは和気あいあいと銀河旅行気分で楽しんでいたマナミだったが、時が経つにつれて徐々に口数も減り、マモリから話し掛けられても頷くか無視をし黙っている。


 進んでいるのか止まっているのか、延々と変わらない星々の景色を虚ろな目で眺めて眠るだけの日々が続く。


 マナミが歩駆の冥王星行きに同行するのは《ガイザンゴーアルター》の操縦担当をマモリに任せられないから、と言う表だって理由だけではない。


(このまま、死ぬまで宇宙をさ迷うなんてことあるのかしら)


 出発前に冥王星の様子を宇宙望遠鏡で観測しようと試みたが、位置が掴めず確認は出来なかった。


 だが、マモリの魂と繋がった本体のマモルが居れば冥王まで真っ直ぐに《ゴーアルター》で飛んでいける。


 三代目ニジウラ・セイルのスフィア落とし決行は二十二世紀に変わる2101年一月一日0時。


『ヒト同士で争っている場合じゃないんだよ。敵は本格的に地球へやって来る。そうなったら終わりだ。そうなる前に早く歩駆を元の器に戻さなきゃいけない』


 そうマモリは語るがマナミは訝しんだ。


 月から冥王星に二週間以内で行って戻ってくるなんてことは不可能なぐらい少し考えればわかることだ、とマナミは思った。


 九十年ほど前の探査機は冥王星に到着するまで約十年ぐらいの時間が掛かったとされている。

 2100年現代の探査機であっても冥王星まで行くのには年単位の時間を必要とするので技術的に不可能だ。

 それをわかっていながら冥王星行きの《ガイザンゴウ》パイロットに立候補したマナミ。


(どうせ死ぬなら歩駆さんの側に……)


 マナミは戦いに疲れ果てていた。


 仲間を失い、仲間を殺した宿敵も再起不能な状態、そして故郷の月は壊滅状態、と度重なる出来事に戦う意思を完全に喪失してしまっていた。


 ここ数日、マナミは食料の節約と称してわざと食事を取っていない。

 変わりに精神安定剤を服用するようになって、幻聴が聞こえるようになっていた。


 常にボンヤリとした状態の頭で、顔は見えない想い人である歩駆の姿と声が浮かんでくる。

 宇宙漂流の恐怖は吹き飛び、彼の側で死ねるならば本望だとさえ思えた。

 

(ここからゴーアルターのコクピットに行けるようにしてくれたらよかったのに……)


 シートのリクライニングを倒してからコクピットの照明を落とすと、空腹でぼんやりした意識のままマナミは眠りに付こうとした。

 しかし、半分寝かけたところをマモリによって直ぐに起こされた。


「到着しましたよ、これが冥王星です」

 体を大きく揺さぶられて不愉快さを感じながらマナミは身体を起こすと、目の前に現れた巨大な物体に思わず絶句した。


「あれが母……いや、マモルだよ」

 震える指でそれを差しながらマモリも言葉が詰まる。

 それは星と呼べるものではなかった。

 身体を丸め、大きな腹を抱えた少女を内包する卵。

 それも惑星サイズだ。

挿絵(By みてみん)


「聞いてないんだけど、これ?」

「イミテイトは星のエネルギーを吸って繁殖する。でも……ボクが最後に見たときよりも大きくなってる。マモル一人でここまで成長させられるなんて」

 変わり果てた冥王星の周りには地球でも確認されたタイプの《擬神》が群れを引き連れて冥王星に攻撃を開始する。

 数百、数千、それ以上の数が四方八方から無数のレーザーが冥王星に向かって伸びていくも、冥王星の表面から溢れ出る淡い光がレーザーを掻き消してた。


「同じイミテイト同士で、これじゃヒトがしている事と一緒じゃないか」

「多すぎるでしょ、あんな一方的で勝てるわけが……ちょっと待って、今なんて言ったの?」

 マナミはマモリのある言葉が引っ掛かった。


「え? 何が?」

「だから、今言った事よ!」

「マモルがここまで冥王星を大きく……」

「そこじゃなくて、その先」

「…………同じイミテイト同士で、戦うなんて」

「擬神じゃないの? だって模造獣イミテイトって駆逐されたはずじゃ」


 模造獣イミテイト

 2015年、南極に落ち隕石から現れた未知の生命体。

 人類史上初の地球外生命体との戦いは人類が勝利した。


 しかし、それから二十年後の2035年。

 再び現れた模造獣は統連軍の秘密組織IDEALと歩駆の操る《ゴーアルター》によって再び倒された。


 と言うのがマナミの認識しているイミテイトの知識だ。


「誰がそんなこと言ってんの? 地球のヒト、特に統連軍には隠れイミテイターが多く潜んでいる。あのイシズエとか言う統連軍の司令官もイミテイターだよ」

 さも知ってて当然かのように言うマモリだったがマナミにとって全くの新情報で戸惑った。


「正確に言うと君たちが擬神って呼んでいるイミテイトは、イミテイトの中でも高次元の存在だよ。最初に地球に来たイミテイトは奴等から逃れていたハグレモノってわけ」

「でも、なんでそんな奴等が地球を襲うって言うのよ?」

「それは……って言ってる状況じゃないみたい。来るよっ!」

 二人が喋るのに夢中になっていると何処からか飛んできたレーザーが《ガイザンゴーアルター》の横を掠め通った。

 その衝撃で《ガイザンゴーアルター》は吹き飛ばされて浮遊する岩石に激突する。


「くっ、見付かったか」

「当たってないのに……あの数を戦えっていうの?」

「やらなきゃ死ぬよ!」

 冥王星を狙っていた《擬神》たちの視線が《ガイザンゴーアルター》に集まり出す。

 距離のせいで全体の大きさがわからなくっているが、地球に現れた《擬神》とは比べ物にならないほど大きく、数万キロ離れた場所から放たれたレーザーは《ガイザンゴーアルター》を余裕で飲み込むほどの威力だった。

 たった一機で星の数ほどいる敵の圧倒的な戦力差を前に、マナミの心は竦んでしまう。


 ──大丈夫だ。


「歩駆さん……」

 何者かの声がマナミの頭の中で響いた気がした。


 ──俺が付いてる。


「……私、やってみます」

「何を独りでブツブツ言ってんの?」

 それはマナミが作り出した都合のいい幻聴だ。

 当然マモリには聞こえていないが、マナミの心は自信を取り戻す。


「行きますよ。マモリさん、ガイザンゴーアルター!」

 幻に勇気付けられて決心するマモリは《ガイザンゴーアルター》を発進させる。

挿絵(By みてみん)

 通常は約十メートル前後あるSVの倍以上の体躯を持つ巨体の《ガイザンゴウ》を《ゴーアルター》に纏わせたのが《ガイザンゴーアルター》である。

 全身がブースター、バーニア、スラスターの針ネズミ状態なこの機体の機動力は並のSVを凌駕する。

 本来なら蓄積量オーバーで百パーセント自壊する無茶苦茶な機体だ。

 それが一週間で月から冥王星に到着するほどの加速力を持つのは《ゴーアルター》と融合状態だからこそ想定されたスペック以上の能力を叩きだしたのだ。

 肉眼では捉えられない光の速さで《擬神》に突撃するだけで簡単に撃墜できてしまう。

 だが、それだけでは数を減らすにも時間が掛かる。


「弾数は気にしないで。ゴーアルターの力なら弾は光に変わる」

「両腕部フィンガーガトリング、胸部・脚部アイズレーザーに、条約違反のGミサイル……全武装オールロックオン、ファイアッ!!」

 繰り出される光条の暴雨が《擬神》に降り注ぐ。

 避けられない速度と広範囲で拡散する光に触れた《擬神》の群れは、浄化されたように次々に溶けていった。


「歩駆さん! 私やれます! 絶対に歩駆さんを助けて見せますから!」

 しかし、どれだけ敵を消し去ろうとも全体の半分にも満たしていない。

 それどころか倒した側から別の《擬神》が何処からともなく現れ、数は膨れ上がっている。


「駄目、異空間から増えていってる……きゃっ?!」

 機体の衝撃に揺さぶられ、マモルは声を上げた。

 いつの間にか《ガイザンゴーアルター》の足元に地蔵のような《擬神》が取り付いている。

 足を振り回して拘束を解こうとするが、列を為して飛んでくる《地蔵擬神》に身動きが取れなくなっていた。


「これは不味いよ、マナミ!?」

 叫ぶマモリ。

 次第に《地蔵擬神》は《ガイザンゴーアルター》の身体中に覆い被さるほどになると、真っ赤になって膨れ上がり爆発を起こした。


「……あ、歩駆…………さ」

 頭から血を流して、マナミはコンソールに伏せる。

 敵の自爆特攻により《ガイザンゴーアルター》に起きた被害は甚大であった。

 システムがダウンしてしまい操縦不能。

 下半身は消失し《ゴーアルター》の脚部が露出している。

 コクピットは潰れ脱出不可能となった。

 辛うじて中の二人に息はあるがメイン操縦者のマナミは脚を挟まれて動けない。


「しっかりしてっ、マナミ!?」

 奇跡的に軽傷のマモリはどうにかマナミを助けようと、ひしゃげた機械を動かそうとするがびくともしなかった。


「こんなところで……あと少しなのに?!」

 虫の息の《ガイザンゴーアルター》に止めを刺そうと《擬神》が取り囲みじわりじわりと迫る。

 その行動が《擬神》がターゲットにしていた本来の相手に隙を生ませてしまったのだ。


「………………冥王星、マモル……っ!?」


『大丈夫、ボクが君たちを守るよ』

 

 マナミは冥王星から聞こえる声に耳を傾ける。

 何もかもを受け止め、優しく包み込む母の眼差しと目が合った。

 すると、冥王星の透明な殻の中から少女が腕を伸ばした。


『ボクを信じて、マモリ』

 胎動する冥王星の少女マモルの手が、この場に存在する全ての存在を抱き止めた。


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