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イミテイターイドル ~模造のヒトと偶像の機神~  作者: 靖乃椎子
Episode.11 機神と魔神のマリアージュ
75/104

chapter.75 合体する二つの意思

 静寂に包まれるの月面。

 マコトの《ジーオッド》に目をやられ、瓦礫の上に倒れていた《鳳凰擬神》が、ようやく起き上がった。

 歪んだくちばしをパクパクと開閉し、きらびやかな巨体を揺らしながら頭を上げると、自分を攻撃した相手を鋭い眼光で睨む。

 機神と魔神。

 二つが融合し光に包まれて新たなる“巨神”が姿を現す。 

 その巨神を見た《鳳凰擬神》は目を見開く。

 憤怒の形相が一瞬にして崩れ去り、雛鳥のようなか細い声を上げた。。



 ◆◇◆◇◆



 戦いの最中、気が付くとサナナギ・マコトは見渡す限りの一面の白が続く謎の空間に立っていた。


「……ここどこ…………歩駆……君?」

 音もない謎の場所をさ迷っていると真道歩駆らしき人物の後ろ姿を発見する。


「ゴーアルターとジーオッドが合体して、それから……ねぇ、私たちどうなったの?」

 マコトが歩駆に近付く。

 肩に触れようとするとマコトの手は歩駆の身体をすり抜けた。


「えっ!? 何なの、これ……歩駆君、どうしたのよ」

 背を向けた歩駆は黙ったままで何も答えない。

 何度もマコトが手や足を歩駆に出してみるが、実体が無いのか触ることが出来なかった。

 するとマコトの方に歩駆はゆっくりと振り返る。


『……チカラ、ヲ、ヨコセ……ッ!!』

 その声は歩駆の声ではない。

 しかし、その声の主は歩駆の身体から現れ、白い手を伸ばしてマコトの首を締め上げようとする。

 それは等身大サイズの《ゴーアルター》だった。

 抵抗しようとマコトは手を掴もうとするが、先程と同じようにすり抜けて触れることが出来ない。 


「何なの……ご、アルター……」

 呼吸が出来ず気を失いそうになるマコトは、どうにか身体を揺さぶり脱出を試みる。


(だ、駄目だ。これ以上はもたない……)

 諦めかけたその時、首を捕まれたままのマコトの身体からも何かが飛び出し《ゴーアルター》を彼方へ吹き飛ばした。


「かはっ…………げほげほっ! うぅ……どうなってんのよ、これは?」

 尻餅を突いたマコトの目の前に同じく等身大サイズの《ジーオッド》が出現する。

挿絵(By みてみん)

 マコトは息を整えて立ち上がりを《ジーオッド》に向き合う。

 赤と青、二色の瞳がマコトを見詰めている。


「父さん……そうだね。負けるわけにはいかないもんね」

 おもむろにマコトは《ジーオッド》にそっと手を触れ、いつも合体した時のように頭から被った。

 鋼鉄の装甲は重さを全く感じず、視界も良好で丁度いい付け心地で苦しさもない。

 全身が燃えるように熱くなり力が底からドンドン湧いてくるようだった。


「やるしかない。やってやる」

 マコトは一直線に駆け出すと手のひらから炎の球体を生み出し《ゴーアルター》へ思いきり投げ付ける。

 豪速球のファイアボールを《ゴーアルター》は胸で受け止めた。


「一方的で気が引けるけど、動かないならただの的だよ」

 ストレートの連続投球はど真ん中を確実に狙っているのだが《ゴーアルター》にダメージは差ほど無いようで無傷、微動だにしなかった。


「なら数を打てばいいだけよ!」

 両手を使って次々と火球を投げ続けるマコトと防御は一切せず、一歩一歩ゆっくりと《ゴーアルター》は近付く。


「これでぇ」

 胸の前でメラメラと燃え盛る大きな火球を溜めるのに夢中だったマコトは、立ち止まった《ゴーアルター》が振り上げた拳が飛んでくるのに気付くのが遅れてしまった。

 真正面から顔面にクリーンヒットすると、せっかく作り上げた大火球が四散。態勢を崩してそのまま後頭部を地面に叩き付けた。


「ぐっ……うぅ」

 鼻腔にヌルりとした感覚があるが《ジーオッド》を脱ぐことは出来なかった。

 もし生身で《ゴーアルター》のロケットパンチを受けていたら頭がスイカ割りのように砕けていただろう。

 飛んでいった右手を自分の腕に戻しながら《ゴーアルター》はマコトを見下ろす。


『チカラ、ヲォ、ヨコセ!』

「………………やだね」

 断るマコトの腹部に《ゴーアルター》は片足を乗せ体重をかけた。


「うぐっ?!」

『ヨコセ、チカラ、ヲ、チカラ、ヲォォ!』

「ッッ……そ、それが、人にモノを頼む……た、態度ってわけ?」

 潰されそうになる身体をどうにか抜け出せないか必死に抵抗するマコト。

 すると遠目で眺めて歩駆がマコトたちの方に動く。


「……目の前なんだよ。礼奈まで少しなんだ」

 これまで黙っていた歩駆が喋りだす。


「あんたずっとそう。それしか言えないわけ!?」

「…………俺のせいなんだよ、礼奈が不老不死になったのは。俺がもっとしっかりしていれば、ゴーアルターを上手く操れてさえいれば、こんな2100年の未来にまで来ることにはならなかったんだ」

 全ては自分の撒いた種で幼馴染みを危険に晒し、取り返しのつかない事態になってしまった。

 遅すぎる後悔に歩駆から悔し涙が溢れる。


「俺がやらなきゃダメなんだ……俺の手で礼奈を救わなきゃ」

「いい加減に……しろっつーのッ!!」

 歩駆の言い訳に腹を立てるマコトが叫ぶ。

 すると身体から《ジーオッド》は抜け出すと炎の手足を生成して《ゴーアルター》を頬り投げた。

 マコトも立ち上がり歩駆の頬へお返しとばかりに思いきり殴りかかる。

 今度は確実に手応えがあり、歩駆は地面に転がった。


「本当マジでムカつく! いったい何なの君!? 悲劇のヒーローのつもり? そうやって何でもかんでも背負いこんで、一人でやってろうなんて簡単に出来るもんでもないでしょ! バカなの?!」

 爆発するマコトの怒りが歩駆に浴びせられる。

 ずかずかと歩み寄り、マコトは地面に倒れ込む歩駆の胸ぐらを掴んだ。


「私だってアンタと同じなんだよ!? 不老不死の身体になっちゃって、未来に来たら友達はずっと年上になって子供も出来てたし、もっとちゃんと青春を謳歌したかったよ!」

 叫ぶマコトの目にも涙が浮かぶ。

 人工島イデアルフロートでの学園生活と《ジーオッド》と出会ったからの戦いの日々を思い出した。


「でも、戦いの道を選んだのは私なんだ! 後悔はしない、だって私には目標がある。例え世界が違っても、私はこの力で私を支えてくれる皆を守る」

「…………強いんだな、お前」

「仲間が居てこそなんだよ。私一人だけじゃなにも出来ない。君もそうでしょ」

 涙を拭いマコトは歩駆から手を離す。

 いつの間にか後方で力比べをしていた《ゴーアルター》と《ゴッドグレイツ》の姿は消えていた。


「俺はずっと一人で戦ってきた……つもりだ。でも、それももう限界を感じる。残された時間がないんだ」

「だったら力を貸して欲しいなら態度ってもんがあるでしょ!?」

「すまない……」

「真道君に対する私個人の感情は置いといて、こんな状況で協力しないなんてこと言わないから」

 そっと手を差し出すマコト。

 顔からは怒りが消え、穏やかな表情を歩駆に向ける。


「やっつけよう。私のジーオッドと真道君のゴーアルターで」

 歩駆は差し出されたマコトの手をしっかりと掴む。

 二人の意思が繋がると再び《ゴーアルター》と《ジーオッド》が出現した。


「絶対に礼奈さんを守ろう」

「あぁ、擬神は必ず倒す……待ってろ礼奈」

 お互いの心が通じ合い、二つの意識が融合する。

 機神と魔神が合体し、新たなる“巨神”が月に誕生した。


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