chapter.69 歌の力、破滅の光
試作運用実験から正式に採用された超大型SVが、クレーターに作られた発進ゲートから迫り上がる。
開けた同時に真上から特攻するピンク色のSV、三代目ニジウラ・セイル親衛隊の《アユチ》を《ガイザンゴウ》は頭部のレーザーで十文字に焼き裂いた。
月の防衛の為に建造中である十体の内、戦いに間に合ったのは計三体。
先行する《ガイザンゴウ》の一号機パイロットは、運用実験に続いてマナミ・アイゼンが担当した。
「ターゲット、マルチロック……発射!」
周りを取り囲もうと8機の《アユチ》は二手に別れる。
その動きを《ガイザンゴウ》の全身に煌々と光りながら蠢く“瞳”が捉え、放たれるレーザーは迫る《アユチ》のコクピットを正確に貫いた。
「……相手が地球だったら良かったのに」
その傍らを飛ぶ赤い機体を《ガイザンゴウ》の全身の複眼が見下す。
全長45mの《ガイザンゴウ》の半分以下のサイズをした憎きホムラ・ミナミノの《Dアルター・エース改》が撃ち損じて懐に飛び込もうとする《アユチ》を対艦ビーム刀・マサムネキャリバーで一刀両断した。
マナミは感謝の言葉も述べずホムラの《Dアルター・エース改》を複雑な思いで睨んだ。
仲間の仇が目の前にいる。
しかし今は協力して戦う仲間だ。
以前と比べれば治療により、だいぶ精神が落ち着きを取り戻したとはいえ、マナミはホムラのことを未だに許せなかった。
「戦いは終わらず悲劇は繰り返す。こんなとき、貴方はどうするんですか歩駆さん……?」
行方知れずになった歩駆を思って、マナミは呟く。
「私も貴方みたいに強くなれるでしょうか? 歩駆さん、早く会いたいです」
不思議だが、何故か歩駆のことが近くに感じられるような気がした。
この感覚はマナミが初めて《ガイザンゴウ》へ乗った時と似ている。
機体に搭載されたパイロットの指向をシステムとリンクさせる“レイナーセーフティモード”のせいであるのかはマナミは知らない。
モードが解除されても前のような暴走状態にはならないのは《ガイザンゴウ》が改良されたお陰である。
「はぁ……そこ、さっきからちょろちょろしないでください。射線上に居ても撃ちますよ?」
眼下で素振りをして次の戦いに向けての準備に余念がない《Dアルター・エース改》のホムラに向かって呟いた。
『大きい機体はそれだけ動作も大雑把だ。三代目ニジウラ・セイルの《アレルイヤ》は高機動型のSV。そちらの出番はないと思うが……そこだ!』
ホムラの《Dアルター・エース改》はマサムネキャリバーの出力を上げて、岩石に隠れて様子を伺っていた《アユチ》を岩石ごと真っ二つに切り裂いた。
「ガイザンゴウのレーザーならば近づかせる前に敵を一網打尽に出来ます……と言うか、うちの月面防衛騎士団も後方に待機させているのに何故、貴方は出撃してるのですか?」
『アキサメ改もあっちで戦っている。そもそも敵を発見したのは私たちだ』
「では部外者は下がっててください!」
『こちらに敵が集中しているから援軍に来たんだ!』
喧嘩をしながらも二機は次々と襲い掛かる《アユチ》を撃破していく。
一体、どれだけの数が月に集結しているのか、わからないほど出現する《アユチ》に次第に押されながらもふんばるが、肉体的にも精神的にも消耗が激しかった。
「キリがない。何なの、こいつら?」
『雑すぎる、まるで素人のような動きを……待ってくれ、何か聞こえないか? 通信の周波数を広くしてみてくれ』
通信システムが強化された指揮官機である《Dアルター・エース改》が何かを傍受してホムラは通信機のチャンネルを弄る。
すると、何やら賑やか音がスピーカーに流れてきた。
『歌……? 一体どこから』
「敵艦隊を目視で確認……十二隻、何て数なの?」
雑音混じりの音は段々と鮮明になっていくと同時に、映像が強制的にコクピットのモニターに切り替わる。
そこに映るモノと、機体のメインカメラから見えた宇宙空間に浮かび上がるホログラフィック投影の巨大な少女。
遥か先に展開する三代目ニジウラ・セイル率いるジャイロスフィアの大艦隊が現れた。
◇◆◇◆◇
「みんなぁぁぁーっ盛り上がってるかぁぁぁぁーっ!!」
三代目ニジウラセイルの為に作られた特別製のライブ艦のステージ上で、お馴染みの決めポーズのギャラクシーポーズで叫ぶと、全世界のファンたちからの声援が静寂の宇宙に轟く。
「このライブは、この宇宙に住む全ての人類に向けてリアルタイムで配信しています。ライブバトルツアーin月……ここか決戦の地です」
神妙な顔で三代目ニジウラセイルは語り始める。
「皆さんに問います、正義ってなんでしょうか?」
背後のバックスクリーンに映し出される正義の二文字。
放送を見ている視聴者のコメントがスクリーンに次々と流れ出す。
「信じるもの、自分の中に正しさは人それぞれ。正義の反対は悪ではなく別の信じる正義だと誰かは言いました」
くるり、と三代目ニジウラ・セイルが視聴者に背を向けるステージが暗転しま。
「ですが、他人の正義で人々が虐げられることがあって良いのでしょうか? 私たち、宇宙のジャイロスフィアに住む人びとは月の圧政によって苦しい生活を苦しい生活を強いられてきました」
ライブ艦の艦首が開き、三代目ニジウラ・セイルの《アレルイヤ・ゴスペル》がきらびやかな光を放って発進した。
「力あるものが正義ならば、私たちが本当の正義になって見せますっ!!」
三代目ニジウラ・セイルが指を鳴らすと共に、音楽が流れ出す。
「フォトンスマッシャー隊! フォーメーション、スタンバイ!」
激しい曲調のイントロがジャイロスフィア艦隊の士気を高めていき、戦艦からSVが次々と発進していく。
その数は三十体。
三代目ニジウラ・セイル親衛隊で使われていたピンクの《アユチ》ではなく、胸部がまるごと砲身になっている地球統合連合軍の《Dアルター》のカスタム機のようなSVだ。
出撃した《Dアルター》は陣形を組むと、その巨大な砲身を月へと向けた。
「この曲は地球の人気ロボットアニメ“ゴーアルター”の新作映画主題歌です。聞いてください……」
◆◇◆◇◆
【生誕 ~GOSPEL ALTERED~】
作曲/AR-C 作詞/SHIARA YAMADA
それは光から始まり 私を塗り替える
急に始まった物語は 憧れていたものとは違った
だけどやれるはずだと そう思える気がした
もしかして 自分が神さえ越えるって信じてる?
GOSPEL ALTERD
ただ望みが叶うんだったら 君が居てくれるのんだったら
笑顔でも 怒りでも 悲しみでも どんな顔でも構わない
GOSPEL ALTERD
ただ望みを叶えて欲しい 君に届いて欲しい
また生まれ変われるのなら 僕は僕で 君は君でいて
◆◇◆◇◆
『不味い! こいつらは囮だったのかっ?!』
しつこく纏わりついてくる《アユチ》の群れを《Dアルター・エース改》は切り捨てる。
(避ける。いや、攻撃を……駄目だ距離が遠すぎる)
葛藤するマナミ。
悪い予感は的中した。
『『『うぉぉぉぉおぉー、セイルぅぅぅぅーっ!!』』』
三代目ニジウラ・セイルの歌声が親衛隊である《Dアルター》のパイロットたちに異常なほどの不思議なパワーを与える。
歌により心の底から沸き上がる高揚感、いわゆるハイテンションな状態が《Dアルター》に搭載されたネオ・ダイナムドライブシステムに反応してエネルギーに変換。
機体の出力は想定されたスペック値以上の数値を軽々と叩き出す。
輝いて見えるほど《Dアルター》から溢れ出る大量のエネルギーは胸部の砲身へと収束していく。
『エネルギー充填120%!』
『フォトンスマッシャー砲……発射ッッ!』
合図と共に《Dアルター》軍団から一斉に吐き出された光芒。
漆黒の宇宙を裂くように一直線に伸びる光条の雨は観るものの視界を真っ白に染め上げ、月の大地に降り注ぐ。
分厚いシェルターの中で安堵しきっていた月の住民、数百万の生命を奪う。
その身に何が起こったのかもわからぬまま、断末魔すら上げることなく現世から生滅していった。





