chapter.67 ライブバトルツアー2100最終日
「じゃあまず事務所、乗り込むわよ!」
宇宙港の改札口を出てすぐの場所に設置されていた無料パンフレットを手に取り虹浦愛留は気合いを入れて宣言した。
地球から航宙艦を飛ばしに飛ばして数時間、ジャイロスフィア・ミナヅキに到着した歩駆たち一行。
ショッピングと言う名の変装道具を“元”三代目ニジウラ・セイル親衛隊の資金で地球で買い漁り、身を包んだその姿はスフィア内で逆に目立っていた。
「ザ・セレブって感じ?」
「「「アイルさん、とってもお似合いです!」」」
すっかり愛留に鞍替えした元親衛隊メンバー達の後ろで“元”三代目ニジウラ・セイルこと虹浦零琉は地団駄を踏んだ。
「アイツら許せない! 絶対ぶっ殺す!」
「アイドルがなんて口を利くんだ……」
零琉は何処からか盗み出した小型拳銃を構えると、歩駆が銃口を手で塞ぐ。
「いいの! ファンはいくらでもいるから、百人でも千人でも減ったところで痛くないもん! ……きゅぅっ?!」
とんでもないことを言い出す零琉の首を歩駆は両腕で絞め、軽々と上に持ち上げる。
「……少し前に戦艦イデアルの奴等に聞いたのを思い出したんだ。お前、月で何かやらかしたらしいな?」
「ぐっ、ぐるじぃ……ギブっギブっ!!」
足をプラプラさせてもがく零琉。歩駆もまだ手加減している。
「別に俺はこの時代の人間がどうなろうが知ったこっちゃないが、お前の態度が気に食わない」
「離せ、やめろー! 小さな女の子イジメて、それでもゴーアルターに乗る正義のヒーローか……ぐぅぅぅぅーっ!!」
喉が強く絞まり危険を感じた零琉は、体を捻って歩駆に小型拳銃を向けて引き金を引いた。
プラスチック製の玩具の様な見た目をしているが、本物の拳銃と同じく殺傷能力のある実銃ではある。
「……ぐっ…………お前、俺の命が少ないの、わかってやってるだろ?」
硝煙の匂いが立ち込める零琉のプラスチック拳銃と歩駆の間に現れた半透明の指が歩駆の顔ギリギリで弾丸を受け止めていた。
一秒もない僅かの時間で、歩駆の中に眠る《ゴーアルター》の思念体が歩駆を守ったのだ。
「こらこら歩駆くん、妹分をイジメちゃダメだよ?」
背後から愛留が歩駆の両腕を万歳させるように引き上げられた。
苦しさから解放され床に転がる零琉。
「はい没収。全く、大事な作戦があるんだから仲良くしなさい!」
落ちたプラスチック銃と拾う愛留は元親衛隊の一人に手渡す。
「あのイキリ散らし少年が本当に“あのゴーアルターのシンドウ・アルク”なのですか?」
銃を渡した地球出身である元親衛隊の男が愛留に言った。
この場にいる元親衛隊員は全員、元統合連合軍人だった過去を持つ者たちであり当然、子供の頃からアニメのゴーアルターを見て軍に志願したのである。
ターゲットが伝説のアイドルである虹浦愛留だというのも初めは驚いたが、それよりも愛留を守る謎の少年が真道歩駆だと言うことに驚きが隠せなかった。
「何て言うか改めて近くでじっくり見ると普通だな」
「俺たちより強いのは認めるが性格に難あり」
「ゴーアルターもあれから出さないし……」
「昔、少女漫画誌であったよな? ゴーアルターの出ないコミカライズ」
「女の子向けにロボット出ないやつな。あれは微妙だったでござる」
「キャラ好きにはいいかもしれんが超人ヒーローはまた別ジャンルね」
「月奪還作戦編がカットされたのは許されない」
「ロボットないしな」
好き勝手に言い出す元親衛隊たちを歩駆は《ゴーアルター》の思念体をチラつかせて凄んだ。
「じょ、冗談ですよぉ真道さん」
「……ちっ」
思念体を引っ込めて歩駆は舌打ちをした。
ベンチに座り、スフィアの天井に広がる人工大気を虚ろに眺める。
「どうしたの歩駆くん?」
真道歩駆は焦っていた。
宇宙に上がってからと言うもの、《ゴーアルター》を通して繋がっていた礼奈の感じることが突然、出来なくなっていた。
初めは月に居たはずの礼奈が何者かの手によって移動させられたのか、と思い航宙艦から地球を覗くも礼奈を発見することは叶わなかった。
それどころか人間の魂を関知する力も無くなっているようで、歩駆の心は不安に刈られた。
自分に残された時間が少ないと悟って焦るあまりに、零琉に当たってしまうのは悪いことだとはわかっている。
愛留の影に隠れながら零琉が歩駆を睨んでいた。
素直に謝ればいいものを歩駆は目を反らす。
「でも、作戦は上手く行くんですかアイルさん?」
元親衛隊の一人が言う。
「事務所に突入してそこから、どうやるつもりなんです?」
「三代目ニジウラ・セイルが居れば取っ捕まえる。居なきゃスタッフを取っ捕まえて場所を吐かせる」
つまりはノープラン、強行突破だ。
「あと、誰だっけ? ファンクラブ会員ナンバー10の……」
「プリンスさんです。僕らを暗殺を指示した親衛隊の上位メンバー」
「そいつが黒幕との連絡係のようね」
「事務所前にいるって連絡をしておきました。約束の時間なんでそろそろ行きましょうか」
ここから歩いて五分ほどの場所に三代目ニジウラ・セイルの所属する芸能プロダクション会社“スターエクスペリエンスⅡ”の事務所がある。
今いる場所からでも一際、目立つ星のマークが付いたビルが目に入ってくる。
「わかった。じゃあ歩駆くんと零琉ちゃんは待機してて、何かあったら通信機で呼ぶから……ケンカしちゃダメよ?」
念を押して愛留たちは三代目ニジウラ・セイルの所属する事務所へと歩き出した。
残された歩駆と零琉の間に流れる嫌悪なムード。
何とか出来ないかと歩駆は周囲を見渡すとある違和感に気付く。
「……いやに静かだな」
キャラクターのイラストがラッピングされたビルが立ち並んでいる派手な外観の割りに、通行人の姿をほとんど見掛けない。
街頭の大型ビジョンに映る三代目ニジウラ・セイルのCMが町の中で虚しく響くだけだった。
「やっぱ……レイルも行く!」
画面の向こうで笑うもう一人の自分を見詰めながら零琉は言った。
「待機って言われたろ? 大人しく座ってろよ」
「レイルのスフィアだもん! レイルの勝手でしょ!?」
先程した仕打ちのせいで零琉の歩駆に対する印象は最悪だ。
零琉は聞く耳を持たない。
「寧ろ良いんじゃねえか? お前が月でした大量虐殺を、あそこのお前がやったにしてくれるだろう?」
「……レイルは、レイルが正しいことをしただけだもん……!」
「正しい、ねぇ」
その事件が起きたのは歩駆がサナナギ・マコトの《ゴッドグレイツ》に敗北して竜華の私設ジャイロスフィア・セレーネで目覚めるまでの空白期間に起きたことだ。
実際に見たわけではないが、その時の事を語るマコトの表情は深い怒りと悲しみで満ちていたのを覚えている。
三代目ニジウラ・セイル改め、虹浦零琉。
最初に出会った頃から彼女に感じた得体の知れない何か。
まるで誰かに操られ裏で糸を引いているような違和感。
彼女の意思は本当に彼女自信が考えて、その行動をしているのだろうか。
どちらにせよ、零琉がとても危うい存在であるということは間違いじゃない。
やはり歩駆は零琉を信用できなかった。
◇◆◇◆◇
愛留たちが事務所に向かってから十分が経った。
「……つーか、補給して月に向かうのが俺たちの予定だろう。なんで、こんな場所で時間を取られなきゃいけないんだっつーの」
頬杖をつきながら文句をたれる歩駆。
いい加減、連絡はないものかと退屈そうにしていると、企業CMを流していた街頭ビジョンの映像が突然、切り替わる。
『…………もう回ってんの……? ……流れてる……イェーイっ!! ただいま、ライブバトルツアーの真っ最中な船の中から緊急生放送していまーす!』
華やかな装飾で彩られたスタジオの中心に一人、ポーズを決めながら現れたのは現・三代目ニジウラ・セイルだった。
『さて、このライブバトルツアー2100ですが、遂に最終日となりました。次の場所なんですけどもぉ……時間もないことですし、勿体ぶらずに発表します!』
ドラムロールが鳴り響く。
『その場所とは……月です!!』
ドンドン。
ヒューヒュー。
パフパフ。
『私たち宇宙に住む人々を苦しめ、搾取し続けた月を打倒する時がやって来ました! 最終日に相応しい熱く激しい戦いになりますので皆さんがんばっていきましょう!!』
生放送が終わり、しばらくすると再び企業CMが流れ出した。
「……おいおい、入れ違いになっちまってるじゃねえかよ」
歩駆は零琉を横目で見る。
未だ街頭ビジョンを見詰める零琉の顔は激しい憎悪で溢れていた。





