chapter.65 対策と対抗
擬神との戦闘で大きな損害を負った統連軍海上基地を後に、アキサメ改とクィーンルナティクスは宇宙に上がった。
『貴方たちの力を信用してレーナ様のこと、月まで護衛を任せますよ』
モニター越しに織田ユーリ・ヴァールハイトは穏やかな表情で、アキサメ改の艦長であるヴェントに依頼した。
「彼女は月の重要人物ではないのか? 先程、誘拐事件があったばかりと聞くが……?」
足元で貧乏揺すりをしながらヴェントは訝しげに訪ねた。
そもそもヴェントの管轄は欧州であり、海上基地でマコトたちを降ろしたら欧州の基地に帰還するはずだったのだ。
その事を《鯱矛擬神》から艦で一番に逃げ去ったイシズエ総司令に抗議するも聞き入れてもらえず、知らぬ間に乗り込んでいたレーナを月まで護送する任務を成り行きで受けてしまった。
『あぁ、その件に関しては不問にします』
「不問? 随分と甘いんだな」
『彼女らに任せた方がレーナ様も気が紛れるでしょう。では頼みますよ? ジャイロスフィアの活動が活発になってきます。彼女、サナナギ・マコトのゴッドグレイツが頼りですよ』
「あんな機体、人類の戦いに使うものではないし出撃の許可もしないぞ」
『いずれ分かりますよ、スフィア側も切り札を用意しているみたいですからね。それでは……』
そう言って一方的に通信を切られてしまった。
「……チッ」
思わず舌打ちをするヴェント。
ユーリに母親シアラと同じような傲慢さを感じて無性に腹が立つ。
ブリッジに流れるピリピリとした雰囲気に周りのオペレーター達もヴェントの気に触らないよう、航行する艦の周囲をチェックする。
だが変な緊張感のせいか後方の暗証宙域に不自然な軌道を描いて動く謎の物体の存在を発見できなかった。
◇◆◇◆◇
一方、その頃マコトはアキサメ改の艦内でマモリを探していた。
帰還するやいなや真っ先に《ゴッドグレイツ》から降りてレーナを名を叫びながら何処かへ消えてしまったのだ。
一度シャワーを浴びて食事を取った後、マコトは広い艦内を散策する。
疲れて眠たいの我慢しながら歩くこと十分。
先の通路で女の子が何度も叫ぶのが聞こえマコトは声の方へ向かう。
そこに部屋の扉の前で立ち尽くすマモリの姿があった。
「ねぇねぇ、れーちゃん出てきてよぉ! マモリたちとお話しようよぉ?」
マモリは固く閉ざされた扉を何度も叩いたり、叫んだりで中のレーナを呼び掛けている。
海上での戦闘中、レーナは案内された個室に閉じ籠っていた。
マコトたちの戦いが終わった後、食事の用意をウサミが持っていったがレーナが姿を見せることはなかった。
「ほっときなよ、引きこもりのお姫様に何言っても無駄なんじゃない?」
未だに扉を叩き続けるマモリの後ろでマコトは退屈そうにあくびをする。
レーナにも聞きたいこと話したいことは色々あるが直接、顔を見せず返事もない彼女の態度にイラつきを通り越して呆れていた。
「ねぇ、マモリ。ゴッドグレイツと合体した時、私に見せた“アレ”は本当なの?」
思い出したように質問するマコト。
地球から遥か遠くにある過去の地球の姿を模造した冥王星に《擬神》の軍勢が迫る来る驚異の映像だ。
「アレって?」
「トウコちゃんは見てないって言うんだ。私にだけ見せたの?」
「……そうだよ」
そう言ってマモリのまるで別人のように目付きが変わる。
挑発的なその表情はマモリが母と呼ぶ、冥王星のマモルという少女にそっくりだった。
「あのゴッドグレイツと合体して段々と思い出してきた……ねぇ知ってる? イミテイト、模造獣、イミテイター、擬神、そして、ヒト。実はね、これらは全てを同じなんだ」
ドアを背に座り込みマモリは語り始める。
「神の作りし生命の種から進化し、分かたれた存在。もっとも神の存在に近いのはヒト。そして生命として“出来損ない”の存在、それがイミテイト。だが、彼らはヒトの住む地球にやって来て、念願の進化を果たしヒトの姿を手に入れた」
「うん……ごめん、よくわからない」
事の規模が壮大すぎて、何を聞かされているのかマコトの理解の範疇を越えていた。
「じゃあさ、擬神ってのはなんなのよ?」
「別次元で神を模倣して進化したイミテイト、かな」
「神様ねぇ……」
マコトが想像する神のイメージは、白い髭に白い服を着て頭に黄色い輪っかを付けたステレオタイプのお爺さんだ。
あの《擬神》のような厳つい見た目をした異形の巨人などではない。
「アイツらを倒すためにはゴーアルターの力が必要になってくる。ゴーアルターでないと全ての擬神を倒せない」
「でも真道君が行方不明じゃない? ……そうか、だから礼奈さんを?」
「うん、ゴーアルターを呼ぶためには、れーちゃんが必要なの」
歩駆は必ず渚礼奈を追い掛けて宇宙に上がる。
だが、今は月と地球が協力関係にあり、歩駆が月に攻め入られるとややこしいことになのだ。
「でも、真道君が礼奈さんを取り戻したら冥王星にいくと思う?」
歩駆がSVに乗って戦うのは礼奈を助けるためだ。
それが達成された後、歩駆が戦いを続けるかどうかはわからなかった。
「その時は、ジーオッドでゴーアルターに合体すればいい」
突然、現れたのは整備長ナカライ・ヨシカと織田アンヌ・ヴァールハイトだ。
「二人とも、どうしたの急に?」
「アンヌと打ち合わせしてて、それでマモリ見つかったかぁと思って」
「レーナ様の方は……時間かかりそうなのね」
「うん、まぁね。それでイイちゃん、合体すればってどういうこと?」
マコトはヨシカに質問する。
「実は昔ね、リターナーのおやっさんに聞いたことかあるんだ。あのジーオッド……ゴッドグレイツと言う合体システムが作られた本当の目的を」
「本当の目的?」
「えぇ、ジーオッドに手足がないのは未完成って訳じゃないの。そもそもはexSV/GA01……通称・ゴーアルターを制御するために作られたマシンだった」
「だった?」
マコトは初耳だった。
開発に携わったヤマダ・シアラや、搭乗者となったマコトの父の死に関与したクロス・トウコからも《ゴッドグレイツ》の開発の経緯までは詳しく聞いたことがなかった。
「サナナギさんがジーオッドと出会う前、既にゴーアルターは消息を絶っていた。お婆様が真道さんを探すためにあらゆる手を尽くしましたが当時、真道さんとゴーアルターは発見できなかった」
「その後、人工島イデアルフロートによりジーオッドは回収され、マコちゃんと出会うんだね
西暦2057年。
忘まだ普通の少女だったマコトが、ガイや《ジーオッド》と出会い、その運命を大きく変えた春の事である。
「おやっさんから擬神のことまでは聞いてないから、まさかここまで大きな問題になるとは思わなかったけどさぁ」
「説明してくれるのはありがたいけど、私はジーオッドが何のために作られたとか理由がどうだってのは興味ないよ」
マコトは一蹴する。
過去がどうあれ全ては過ぎ去ってしまった事だ。
それに戦いを止めたい意思のある歩駆に戦いを強制させるのは気が引けた。
「擬神はまだ現れる。奴等を倒しきるにはゴッドグレイツだけじゃ無理。ゴーアルターの力は絶対に必要なんだよ」
「ちょっと待って! その根拠はなんなの?」
マモリの言葉を制止して、アンヌは頭の中で事を整理する。
「えーと、ゴーアルターが凄いって言われても、そう簡単にどうにか解決できることなの? お婆様からゴーアルター……と言うか真道歩駆さんについては色々と聞かされてますけど」
敵は異次元より来る未知の敵である。
いくら《擬神》と渡り合える異次元の性能を持っているとしても、所詮は一機のSV、一人の人間だ。
「未知数の敵、規模もわからない。ゴーアルターだけに頼るんじゃなく我々も準備を万全にするべきじゃないんですかナカライ整備長?」
「うーん……」
「早急な決着を求めるソウルダウトです。あれこそ全ての解決の決め手になるんじゃないのでしょうか?」
「前も言ったけど、ソウルダウトは私が破壊する」
マコトの言葉にアンヌはイラついたように睨む。
「今そんなことを言っている場合ですか?!」
「ヤマダ・シアラの言っていたことが本当かどうかは知らないけど、ソウルダウトが世界や人の運命、過去や未来そのものを変えてしまう力を持っているんだとしたら危険すぎる。それに、多分だけどソウルダウトを一番欲しているのは真道君だと思う。真道よりも先にソウルダウトを見つけて破壊するのが先決かもしれない」
「だからっ!」
「まぁまぁ落ち着いてアンヌ、マコちゃんも!」
マコトとアンヌの間に流れる険悪な雰囲気の間に入ってどうにか仲裁するヨシカが、二人の間にバチバチと散らす火花が消えることはなく、アンヌは怒って立ち去る。
やり場のない苛立ちが募ると同時に深い寂しさがマコトを襲う。
(こんなときにガイが居てくれたら……)
頼れる男の姿は側なく、マコトは自分の部屋に戻って静かに泣いた。





