chapter.63 鯱矛、迫る
青い装甲をした統連軍海上基地所属の《Dアルター》が次々と発進する。
『敵一体だ。先日に確認された人型タイプとは違うが、サイズは小さい。こちらから先手を打ち、撃破する』
先行する隊長機に続いて、大型のシールドと大槍を携えた《Dアルター》は上空から《鯱矛擬神》の様子をじっと伺う。
静かな海面の奥に大きな黒い影が蠢いている。
『撃ち方、始め!』
並び立つ《Dアルター》が大槍を構えると、槍の尖端から対潜ミサイルが放れた。
海中の《鯱矛擬神》に向かって発射される無数のミサイルによる爆発と激しい水柱と飛沫で海面が大きく波打つ。
『…………やったか……?!』
数秒後ゆっくりと海面に《鯱矛擬神》が顔を出すと獣のような咆哮を上げて《Dアルター》を睨んだ。
尾ひれを天高く立たせ、約五十メートルぐらいにはなるだろう高さまで伸ばすと、背ひれに生えた黄金色の鱗が光輝く。
ポップコーンが弾け出したかのように勢いよく飛ばして《Dアルター》を攻撃した。
猛スピードで迫る鱗弾は、とっさに防御した《Dアルター》の持つ特殊合金製のシールドを破壊し、本体ごと意図も簡単に貫いた。
『全機、一旦待避だっ! たい……』
雨のように降り注ぐ鱗弾により半数以上の《Dアルター》が撃墜されるどころか、発生した大津波に海上基地が飲まれて甚大な被害を及ぼすと《鯱矛擬神》は満足したのか再び海の中に姿を消してしまう。
「このぉ、魚のバケモノめ! マモリが相手になってやるっ!」
後退していく《Dアルター》部隊から遅れてマモリの乗った《Zアーク》が炎上する港口に現れた。
半崩壊の防波堤の上によじ登り海面を覗く。
「どこだ……どこにいった?」
この《Zアーク》は特別製である。
地球と月の技術を併せ持ち動力には純正ダイナムドライブを搭載しており、機体と特殊なパイロットをリンクさせることによって操縦することの出来る機体だ。
普通の人間では精神力を膨大に消費してしまい乗ることが出来ず、搭乗できるのはexSVである《ゴーアルター》の操縦者であり不老不死である真道歩駆専用機だが、同じくexSV操縦者のマコトや、イミテイターとなったトウコ。
そしてイミテイターの子であるマモリも操縦することができるのである。
「……居たぞ」
海の深いの場所で八の字を描きながら泳ぐ《鯱矛擬神》をマモリは捉える。
初めて動かす機体だが操縦方法はコクピットを通して頭の中へ自然に流れ込んでくる。
「武器は、これで!」
意識を腕に集中させると周りに光のリングが成形され高速で回転する。
「フォトンサークル!」
叫ぶマモリ。
グルグルと両腕を思いきり振り回し、回転する二つの光輪を海中に向けて投擲した。
海水の中を突き進む光輪は、海底まで潜水する《鯱矛擬神》の尻尾を寸断させた。
「効いてる?! でも海の中に潜られちゃ……」
尾ひれが無くなり泳ぐスピードが落ちたものの《鯱矛擬神》は健在である。
尻尾を切られて怒ったのか《鯱矛擬神》は牙を剥き出しにしながら《Zアーク》に向かって真っ直ぐ上昇する。
海面から飛び出した《鯱矛擬神》は大口を開けて《Zアーク》に噛み付いた。
「くっ……食われて、たまるかっ!」
とっさに展開したバリアフィールドで周囲を包み込む《Zアーク》だったが《鯱矛擬神》の強靭な顎と牙がバリアを噛み砕こうとする。
「うぅぅ……ま、まずい。このままじゃ破れられちゃう……っ?!」
収縮していくバリアの内まで牙が《Zアーク》の頭部に触れようとした瞬間に《鯱矛擬神》の額が砕け、遥か彼方へ吹き飛んでいった。
「お前の出る幕じゃあない、下がれマモリ」
「その声はツルギのじいちゃん!?」
振り返ったその先に立っていた黒いSV。胴体の細身なスタイルにはアンバランスな巨大な両腕を装着した《Dアルター》の改造機であった。
「生まれ変わったこの《Dアルター覇皇》を試すときが来た」
年甲斐もなくツルギは不敵に笑ってみせる。
額から体液を漏らし怒りの叫びを上げた《鯱矛擬神》が、飛び魚のように海面を跳ねながら猛烈な速度で向かってきた。
フワリとした独特な浮遊飛行で《Dアルター覇皇》は前に出て迎え撃つ。
「来るよ、おじいちゃん!?」
「わかっている。メガ・グラヴィティクラッシャーパンチ、作動」
突き出した鍵爪の右手が大きな腕装甲の中へとスライドして攻撃体勢に入った。
怒り狂った《鯱矛擬神》に真っ直ぐ標準を合わせ、ツルギは精神統一する。
「…………3……2……1……解放ッ!!」
衝突の衝撃波が海上を爆発的に震動させた。
狂乱する《鯱矛擬神》の鼻っ柱に《Dアルター覇皇》の巨腕の一撃が炸裂する。
腕の中で圧縮された“重力エネルギー”を掌から叩き込まれた《鯱矛擬神》の顔面は醜く歪み、身体全体がぺしゃんこに潰れていく。
「潰れていけ、魚野郎」
最期に甲高い奇声を叫びながら《鯱矛擬神》は爆発四散した。
「やった……いや待って、あれ!?」
今度こそ強敵を倒し喜んだのも束の間、マモリは上空を指差す。
空に《擬神》の出現を示す亀裂が再び現れていた。
それも一つだけではなく三つも出来ている。
「まだ、来るのか?!」
ツルギは思わず絶句する。亀裂の中から降りてきたのは先程、倒したばかりのと同じ《鯱矛擬神》か三体も出てきたのであった。
「ねぇツルギのじいちゃん、もっかいさっきのアレは出来ないの?」
「フルパワーで使った。チャージ時間を待っていたら基地が持たないだろう」
「そ、そんなぁ……」
バラバラになって海に浮かぶ仲間の残骸を見た三体の《鯱矛擬神》が共鳴して吠える。
その血走りギラついた目はツルギの《Dアルター覇王》を凝視していた。
絶体絶命の状況をマモリたちの前に空から《真紅の魔神》が漸く到着する。
「そこのガキンチョ! さっさとトウコちゃんのZアーク返しなさいよ!?」
「正確には真道さんのZアークですけどね?」
基地から発艦した戦艦アキサメ改と共に現れたのはマコトとトウコの乗る《ジーオッド》だ。
「赤い奴……」
「私も居ますよ! 戦力は多い方がいいですしね」
更に一機やってきた赤い大剣を構える改良強化されたSVの《Dアルター・エース改》はホムラ・ミナミノだ。
「ちょっと聞いてるの、君?!」
「うるさい! れーちゃんをマモリが守らなくちゃいけないの! だから戦う力が必要なの!」
「レーナさんならアキサメ改に居ますよ。基地は破棄するそうです」
見上げると崩落する基地から次々と戦艦が離れていく。
「ふん、元帥が尻尾を巻いて逃げるとは情けない」
呆れるツルギ。
そんな中で月の巨大戦艦クィーンルナティックだけが未だ海上基地の上空に悠然と留まっていた。
「私たちが奴等を倒せるのか見物しようってわけね。あの社長」
「と言うわけでマモリさん。貴方をアキサメ改までお送りしている暇はないので私達と合体しましよう」
提案するトウコ。
「ほら、マモリ。さっさとしないと化け魚が来る」
「タイミングはこちらに任せてください。行きますよ!」
「……わかったよ、来てゴッドグレイツ!」
合体するため三人の少女は気持ちを一つにする。
天空に舞い上がる二機のマシンを紅蓮の炎が包み込んだ。
燃え盛る炎は、やがて超高温の熱風を吹き出す竜巻に変貌して《鯱矛擬神》に突撃する。
風圧で海面を蒸発させてながら《鯱矛擬神》の巨体は空高くに舞い上がった。
「行くよ、トウコちゃん、マモリ……ゴッドグレイツ!!」





