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イミテイターイドル ~模造のヒトと偶像の機神~  作者: 靖乃椎子
Episode.5 エターナル・シックスティーン
40/104

chapter.40 亀裂

 真道歩駆の心は焦りを感じていた。

 その原因は今、自分の隣に引っ付いて離れない女、マナミ・アイゼンのことである。

挿絵(By みてみん)

 マナミは歩駆の心に圧し殺した深い寂しさを受け止めてくれた。

ずっと我慢していたものが溢れだし、歩駆はマナミの優しさを求める。

 だが、マナミに触れるたびに頭の中で礼奈のことが過り、彼女に対する後ろめたさを感じて仕方がない。

 魔が差し、自分の魂を投げ打ってでも助け出さなけれいけない最愛の人、渚礼奈のいない寂しさを埋めるために歩駆はマナミと夜を共にしかけたこともあった。


『アルクチャン、ダメダヨ』

 そういう時はマナミの首に付けられたチョーカーを通して監視しているウサミ・ココロによって行為は未遂で終わる。

 これを利用してマナミから誘ってくる事もあるので、歩駆の心は激しく掻き乱された。

 不老不死になろうとも真道歩駆は男の子なのだ。


 ◇◆◇◆◇


「歩駆くん、大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」

 格納庫への道すがら、マナミが歩駆の顔を覗いて心配そうに話しかける。


「不老不死に体調悪いもないでしょ」

 前を行くマコトが不機嫌そうに言う。

 確かにマコトの言う通り歩駆の身体は《ゴーアルター》に乗り続けたことにより不老不死となっている。

 病気になどかからないし、宇宙で木っ端微塵になったとしても元の状態に再生する、もはや呪いだ。

 それなのに最近、誰にも言っていないが歩駆は身体の不調を覚えるようになっていた。

 常に頭が重苦しいせいでボーっとしたり、何時間寝ても疲れが取れず睡魔が襲う。

 この症状が一時的に治る時がある。

 それはSVシミュレーターで遊んでいる時だ。

 今の歩駆には戦いたくても乗り込めるSVが無い。

 あれだけ戦いを拒み、乗るのを嫌がっていた《ゴーアルター》は歩駆の前から望み通り忽然と姿を消した。

 しかし、今は礼奈を助けるために《ゴーアルター》の力が必要不可欠なってしまったのだ。

 この矛盾、もどかしさが歩駆が患う謎の体調不良の原因なのかは分からない。

 気を紛らわせるためにシミュレーターで高難易度ミッションに挑むのが日課だ。

 艦の電力節約のため一時間しか使用できないのが難点である。


「見てください。これが私のDアルターです!」

 格納庫に到着すると、ピカピカに磨かれた真っ赤な愛機の前にホムラが駆け出した。


「実はサナナギさん、私のDアルターのカラーリングはゴッドグレイツをモデルにしているんですよ?! と言っても映画のゴッドグレイツですが、今回、本物のゴッドグレイツがあると言うことでカラーも本物仕様にリペイントしました! どうです? カッコいいでしょ? もちろん見た目だけ請っているわけじゃないですよ? 私が来たからにはスフィアも月にも負けません! 皆様のお役に経って見せますよ!?」

 一人でずっと自慢気に喋るホムラを歩駆たち三人は黙って聞いていた。

 歩駆は腕に違和感を感じて、ふと隣を目をやる。

 ホムラの《Dアルター》を見詰めるマナミの様子がおかしかった。

 瞳孔の見開いた目、体は小刻みに震え、抱き付く歩駆の腕をキツく締め上げている。


「ホムラ・ミナミノさん? 質問が、あります」

「はい、なんでしょうかアイゼンさん?」

「……二年前の“キサラギ攻防戦”を知っていますか?」

「もちろんですとも。その作戦には私も参加してましたからね」

 自慢気にホムラが語る。

 地球統合連合軍と月のジャイロスフィアを巻き込んだ大規模戦闘。

 SVの数で圧倒的な戦力を持つ月を相手に《ゴーアルター》を模して量産された高性能大型SVである《Dアルター》により地球側の勝利で終わった。

 その犠牲として戦いに巻き込まれたジャイロスフィア・キサラギに住む人々から多くの死傷者が出てしまった。


「月の奴等は許せないですよ。キサラギの人らを盾にするようなことをして」

「……違います。私たちは守ろうとしたかったのに」


「地球へのスフィア落としは食い止めましたけど。住民は助けられなかった」

「……毒ガスが撒かれたんだ」


「でも私は非道を行う奴等に勇敢に立ち向かいましたよ!」

「……ただ力を見せ付けたいだけの傲慢なSV」


「中でも月の紋章付きSV軍団は強かった」

「……あの赤いSVは許せない」


「けど私とDアルターの活躍で、統連軍は勝利した!」


「……やっぱり、お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッッ!!!!」

 突然、マナミは叫びだしホムラに飛び掛かった。


「お前のせいで私の仲間が大勢死んだッ! お前が、皆の仇だッ!!」

 倒れたところを馬乗りになって首を思いきり締める。

 マナミの中で甦る戦いの記憶。

 戦火に包まれるスフィア。瓦礫となった月騎士団のSVに立つ《Dアルター》が炎に照らされて血のような色に思えた。

 そんなトラウマを思い出し、怒りと悲しみがない交ぜになったような形相でマナミはホムラのことを睨んでいた。


「せ、戦争を……やってんですよ!? それに先に、し……仕掛けてきたのは、月の方だ!」

「お前たちがそんなSVで宇宙に上がったのが悪い!!」

 マナミの凶行を止めるべくマコトが動く。背後に近付いて両手をホムラから引き離そうと掴んだ。


「マミさん止めな!? こんな事したって死んだ人たちが帰ってくるわけじゃないでしょ?!」

「くっ……離せッ!!」

 振り払うマナミの手がマコトの顔を打って後ろに倒れる。その衝撃でマコトの掛けていた眼鏡は勢いよく吹き飛び、整備の機械に叩き付けられた。


「今すぐ離せマナミ!」

 歩駆がマナミの目の前に出る。前に掲げるその手にはライター状の物が握られている。マナミの首に付けられた爆弾チョーカーの起爆スイッチだ。


「そんなもの肌身離さず持ってたんですか?」

「……入れっぱなしにしてるだけだ」

「出来るんですか? 至近距離ならこの人も巻き込むかも……それとも、無理矢理に引き千切ろうとするのでも起爆する仕掛けでしたよね」

 馬乗りにしているホムラの頬に自分の頬をくっ付けてマナミ。脅すようにチョーカーへ指を引っ掛けて見せた。


「歩駆くんは優しい人ですよね? そんな酷いことをする人じゃありませんよね?」

「押せるさ……」

「そんなの嘘です。私は信じていますよ?」

 ニコリと微笑むマナミには歩駆の心が見透かされた。

 本気であるかのように歩駆は振る舞うが、起爆スイッチに触れる親指は小刻みに震えている。

 いつでも自爆できることを歩駆とホムラにアピールしながら余裕のマナミと睨み合う。

 そんな時である。

 ここ数日間にはお馴染みな敵の襲来を知らせる警報が格納庫内に鳴り響いた。


「貴方たち、通路の真ん中で何をしているの!?」

 駆けてきたのはアンヌ・O・ヴァールハイトだ。その後ろには整備士長ナカライ・ヨシカもいる。

 ホムラの体に馬乗り状態になっているマナミの視線がアンヌに向いた瞬間、マナミは大きく吹き飛んだ。

 その頬に拳を叩き込んだのはマコトである。

 意識が逸れた一瞬の隙を突いてマナミの顔面を殴ったのだ。


「……っ!」

 息を荒げるマコトの目に掛けられた形見の赤い眼鏡のレンズには大きなヒビが入っていた。殴られ床に倒れたマナミは口から血を流しマコトを睨み返す。

 マコトが更に追撃しようと一歩踏み出すとホムラがそれ止めた。


「なんでッ?!」

「これは私が悪い。敵兵だった人間の前でする話じゃなかった」

「そんなのはもう関係ない!! コイツ、私の、パパの、眼鏡を……!」

 激しく暴れているマコトを押さえるホムラ。


「止めなさい、マコト! 今はそんなことしてる場合じゃない。敵が来ている」

 今度はヨシカがマコトの事を止めに入る。


「…………やだ。今日は出撃しない」

「ワガママ言わないで、眼鏡は次の補給の時に何とかするから」

「無理! もう出ない……! コイツのせいだ、許さない!」

 まるで子供の喧嘩だ。マコトは駄々をこねて言うことを聞かなかった。


「困りましたね、ツルギさんはボディのメンテナンスで出られません。あのバカ……イザとホムラの二人で頑張ってもらえませんか?」

 アンヌがホムラに頼もうと声をかけると、背後でSVが起動する。


「あれ?! ホムラさん、ここにいて……え?」

「私のDアルターが勝手に? 誰が乗っているんだ!?」

 この場に集まった人間は全員、その場に立ち尽くしている。ホムラの《Dアルター》まで移動した者は誰もいない。


『……全く、こんな部隊でこれからやっていけるんですか? 心配ですね……』

 ゆっくりとした足取りでカタパルトまで移動する《Dアルター》がマコトの方を見る。

挿絵(By みてみん)

『眼鏡、後で私が直すから待っててね、マコトちゃん』

 正体不明のパイロットを乗せて《Dアルター》は発艦した。


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