chapter.39 トライアングル
『そんな機体で本当にやれるのかサナナギ?』
「お爺ちゃんこそ、戦いは若者に任せて下がりなよ」
軽口を叩くサナナギ・マコトの《ジーオッド》の背後へ、不快な羽音を鳴らしてハチ型SVの《フライヴB》が突撃しようと試みる。
だが、その上空から一発の黒い光球が《フライヴB》を地面へ叩き潰した。
それはツルギの《Dアルター豪》である。
『後ろがガラ空きだぞ、サナナギ・マコト』
「知ってた」
強がるマコト。機体が小さくなったせいか一般的なSVより小型の《フライヴB》もいつもより大きく見える気がした。
「合体前の小さい姿だからってっ!!」
発光する《ジーオッド》の瞳から迸る真紅のビームが《フライヴB》の集団を一斉に薙ぎ払った。
◆◇◆◇◆
補給を終えてセントレア基地を出発したネオIDEAL一行は《ソウルダウト》の新たな情報を聞き付けて北へと向かっていた。
その途中、未だその正体不明が虫型無人SVに三度も襲われるが、ツルギとマコトの活躍により敵を撃退に成功する。
「本当はアレの出所、わかってるんじゃないですか?」
シアラの自室。テーブルに向かい合いオセロをするイザとシアラ。
「ん……あぁ、虫たちはスフィア側さァ。でも三代目ニジウラ・セイルとは関係ない別の勢力だよ」
「これ以上は敵を増やさないんで欲しいんですけどねぇ。ただで連戦続きなのに……そこ取れませんよ?」
こっそりと石が取れない箇所をひっくり返そうとするシアラだったが、イザは見逃さずあっさりとバレてしまった。
「君も出撃すれば良いだろうイザ?」
「語り部は戦いません。だからと補充要員を用意したんじゃないですか?」
「よく軍のデータベースにハッキング出来たもの」
「もしかしたら既に改竄したのが発覚してるかもですよ」
「……何だと?」
「この世に完全なんて物はありふれている」
盤面は白一色に染まりわイザのパーフェクト勝利となった。
プルプルと震えるシアラはオセロ盤をひっくり返した。
「意地悪だよねイザ……」
「貴方こそ、僕の救世主を惑わせるようなことをして」
シアラによって床に散乱したオセロの石をイザは拾い集める。
「マナミ・アイゼンのことかい? 良いじゃないか、歩駆少年の心は疲弊している。戦いを頑張ってもらうには癒しが必要だ」
「そう言うことする魂胆だとは思いましたよ」
全て集め終わりイザはケースにオセロを閉まってシアラの部屋を出ていく。
「……だからこその僕はホムラを呼び寄せたわけなんだけどね」
◇◆◇◆◇
戦いを終えて帰還したマコトは、シャワーを一浴びながら基地で出会ったゴウ・ツキカゲと言う男について考える。
(ツキカゲ、月影ってことはレディムーンの息子?)
どことなく顔付きが彼女の面影があるような気をマコトは感じていた。
だが、ゴウ・ツキカゲからまるで親の仇を見るような殺気は異常だ。
(私が何をしたって言うのよ。ずっと寝てたっつーの!)
強めにシャワーで気分をリフレッシュし、マコトは食堂へと向かった。
金曜日のカレーライスを楽しみにしながらやってくると、そこに真道歩駆とマナミ・アイゼンが食事をしていた。
「はい歩駆くん、あーんしてください」
箸で掴んだ海老フライをマナミが歩駆に食べさせようとしている。
「いいよ、自分で食べ……んぐんぐ」
「美味しいですか? 私が作ったんですよ。はい、もう一度あーん」
嫌々という態度をしながらもマナミにされるがままの歩駆。
まるで付き合いたての恋人のようなやり取りにマナミは困惑した。
「何なのあれ?」
机の影に隠れてマコトはしばし二人を見詰める。
マナミは立場上、捕虜という扱いではあるが制限付きで自由に行動することを許されている。
「お水飲みますか? もうない……取ってきますね」
ウォーターサーバーまで駆けるマナミ。
歩駆は戦うためのSVが無いため、捕虜であるマナミの監視役をさせられている。
マコトから見てマナミは最初、大人しく自分達の指示に従い黙って受け入れている。
マナミは月のSV防衛騎士団の元リーダーだ。
首に爆弾付きチョーカーを装着され、暴れたり無駄に抵抗はせず落ち着いた様子を見せていた。
「口拭いてあげます」
マナミの行動にマコトは違和感を覚えた。
付き合いが長いわけではないが彼女はもっと凛とした性格に思えた。
所謂バカップルのような甘えた世話焼きをする人には見えなかった。
「なぁ……マナミ。俺には助けたい人が、守りたい人いる」
「わかってますよ歩駆くん。レーナ様を助ける、それまでの間です……」
マナミは自分の身体を歩駆にピッタリとくっつかせる。
(かぁーっ! 本当マジで何なの、距離が近すぎる!!)
マコトの背筋がゾワゾワした。
そこまでするのに何か裏があるのかマナミの行動が不可解すぎる。
(真道君も真道君だよ! アンタには礼奈さんがいるんでしょ?! それなのに鼻の下伸ばしてあんなデレデレしちゃってまぁ)
まるで不倫現場を目撃してしまったような感覚に陥る。
こんな時どうするべきかマコトは悩んだ。
①直接、指摘する。
②それとなく探りを入れてみる。
③見て見ぬふり、無視する。
(いやいや、①でしょ! 気を使う必要なんてない。ズバッと言っちゃえばいいのよ)
意を決してマコトは歩駆たちの前に進む。
「……二人は何をしてるのかな?」
しまった、とマコトは心の中で言葉のチョイスミスを悔いる。
いざ面と向かうと思わず物怖じしてしまった。
「歩駆くんと一緒に食事ですよ、サナナギさん」
答えたのはマナミだ。
「そうじゃなくてマミさん、なんかキャラ変わってません?」
「いえ? 普通ですよ。そうですよね歩駆くん」
「だからソレですよソレ。いつから二人はそんな仲良くなったの?!」
「サナナギさんに関係ありますか? 私は捕虜、歩駆くんに監視されているに過ぎません」
マナミは歩駆の腕に抱き付く。マコトからはどう見てもマナミが歩駆を付きまとっているようにしか見えなかった。
「真道君も真道君だよ! 君には礼奈さんがいるんでしょ?!」
「あ、あぁ……」
目を逸らす歩駆。何かを隠していることがバレバレだ。
「……そんなことぐらい、お前に言われなくてもわかってんだよ」
「じゃあ」
「止めてくださいよサナナギさん。歩駆くんが困ってる」
「困らせてるのはそっちでしょ!?」
一触即発。険悪なムードが流れる中、食堂に一人やって来た。
「ネオIDEALの先輩方! ここは食事をする場所だ! 争いは止めてください!」
急いでマコトとマナミの間に割って入ってきたのはホムラ・ミナミノだった。
「何があったのかは知りませんけど落ち着いて話し合おう!」
「部外者は引っ込んでください!」
マナミが食って掛かるがホムラは怯まない。
「貴方は捕虜なのだろう? せっかく自由行動を許されているのに心証が悪くなるのは貴方的にも良くないですよね?」
「くっ……そうね」
怒りを抑えて席に座るマナミ。
「サナナギさんも、眼鏡が湯気で白くなっているぞ」
「……本当だ」
ホムラに指摘されマコトは身体の熱気から出た蒸気で曇った赤い眼鏡のレンズをハンカチで拭う。
「推理するに問題の中心は……歩駆さん、貴方だな」
「……」
歩駆は俯き黙秘する。
「ふむ、わかりました。こう言うときは体を動かしましょう! 心のモヤモヤを発散するためにシミュレーターを使って勝負です」
「あのホムラさん。私さっき出撃帰りでシャワー浴びたばっかりだし、食事したいんですけど?」
マコトが言うもホムラは聞く耳を持たす三人を立たせようとする。
「格納庫に行きましょう! 私のDアルターの塗装と調整がやっと完了したんだ。歩駆さんに是非、見て欲しい!」
食堂に来た本来の目的はこれだ。
三人はホムラに急かされて格納庫へと向かった。





