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イミテイターイドル ~模造のヒトと偶像の機神~  作者: 靖乃椎子
Episode.3 √サナナギ・マコト:You get to blazing
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chapter.25 見守る影

 TTインダストリアル本社、最上階にあるのは地球を一望できる社長室だ。

 青く輝く美しき人類の母性を眺めながら、織田ユーリ・ヴァールハイトはソファーに寝転びに一枚の写真を見つめ深い溜め息を吐いていた。


「あぁ、サナナギ・マコト……君はどうして僕に振り向いてくれない?」

 それは《ゴッドグレイツ》から降りてくるマコトの一瞬を捉えた写真であった。

 骨董品のカメラ集めがユーリの趣味であり、今の時代ではかなり珍しいデジタルではないフィルムから現像して作られた生写真である。

 とても良い表情の笑顔で写っているが、写真が撮られたことをマコト本人は知らない。もちろん存在するのはこの一枚だけではない。


「君は知らないんだ、ガイと言う男の存在の世界を危険に晒す。記憶のダウンロードが終わるのはもうすぐなんだ。彼の人格が完全に目覚める前に……そうしたら君と」

 顔を紅潮させ呼吸を荒々しくして写真を胸に抱き締めながらユーリは身悶える。

 普段のキリっとした立ち振舞いはどこへやら、まるで別人のようだった。

 マコトとの妄想に更けているとポケットから携帯電話のバイブが唸りを上げる。


「んっ…………誰からだ一体?」

 妄想を中断させられ少し不機嫌になりながらも着信を見る。画面に流れている名前を見た瞬間、ユーリは電源をオフにした。


「……はぁ……全く」

「入るわよっ!」

 突然、電子ロックの掛かっていた社長室の扉が開け放たれ、妄想の中に入りかけていたユーリは驚いてソファーから飛び上がった。


「デリカシーのない妹め!」

「社長なら仕事をしなさいね? やる気が無いのなら、さっさと部屋を出ていきなさいな」

 床に尻餅をつくユーリの前に現れた、妹と呼ばれる背の低い青眼鏡の少女。

 名をアンヌ・O・ヴァールハイト。十九歳。 

 王子様系のボーイッシュな容姿で背の高い姉のユーリとは似ても似つかない。

 中学生ぐらいの娘が大人びたスーツを着ているように見えるが、彼女らは同じ親から生まれた双子の姉妹なのである。


「例の赤いexSVが目覚めたんですって? 何故、私に報告をしないのですか?」

「一番上の僕に報告が行っている。スフィアの分家に所属となった副社長に伝える意味とは?」

「私じゃない……お婆様よ」

「あとでゆっくり伝えるつもりさ。さぁさぁ、早く帰りたまえ」

 何事も無かったかのように立ち上がり、ユーリは追い払おうと手を振るとアンヌが掴んだ。


「お婆様を怒らせたら知らないわよ」

「感謝されど怒られる理由は全く無いな。統連からGアークのライセンスを取り戻したのは僕のお陰だっていうのに」

「なら、それをお婆様に返しなさいよ」

「今のGアークは月の大事な戦力となっている。無理だね」

 イタズラっぽく舌を出してユーリは言う。


「地球と月にexSVが二体ずつ……これで、あとはソウルダウトを手にした方が主導権を握る。勝つのは僕らさ」

 ユーリは部屋から見える地球に手を伸ばし不敵に笑った。


「それよりも僕は君のところいにる男について聞きたい。統連軍に付いたらしいじゃないか、それもexSVと一緒に」

「えぇ、それが何か?」

「先々代が探していた少年も捕まえなくていいのかい?」

「一緒にウサミさんを付けてるから問題ないわ。あの頭救世主バカが放っておくわけないし」

 頭の中でムカつくあの男の顔を思い浮かべてた瞬間、アンヌのプライベート用の携帯電話が鳴る。

 アンヌが画面を見ると番号も名前も表示されていない。

 無視して電源を落とそうと指がボタンに触れる前に、携帯電話は勝手に通話状態に切り替わった。


『ご無沙汰していますアンヌ社長、イザ・エヒトです。』


 ◆◇◆◇◆


 格納庫の消灯時間はとっくに過ぎてしまっているのに、ナカライ・ジェシカは《ゴッドグレイツ》の前で座り込んでいた。

 他のメカニックたちは今日の仕事を終えて帰ってしまっているのにジェシカだけが居残ってるのはマコトを心配しているからである。


「マコちゃーん! いい加減に出てきなよ、お風呂も入ってないでしょ? 女の子がそんなんじゃ嫌われるよー?!」

 マコトが《ゴッドグレイツ》の中に閉じ籠ってから五日が経つ。

 ジェシカが何度、呼び掛けてもマコトからの返事はなく無反応。

 強制的にコクピットを開放させようと試みるも、ハッチは溶接してあるかのように隙間が固められ、外から開けることは不可能だった。

 なのに監視カメラには何者かが《ゴッドグレイツ》に出入りしている様子が確認され、一部では《ゴッドグレイツ》に倒されたパイロットの幽霊ではないかと噂が広がっている。


「……まだ、彼女引きこもったままですか?」

 様子を見に来たマナミ・アイゼンがジェシカに言う。ジェシカは首を横に振りお手上げだ、というポーズを見せた。


「全く、落ち込みたいのはこっちだって言うのに……」

 強大なexSVという力を持っているのにも関わらず、出撃するしないの自由が許されているマコトのことをマナミは羨ましくもあり少し妬んでいた。

 前回の戦いでマナミの調査チームの一人が撃墜され、もう一人が辛うじて生き残ったものの重症を負う。


「そんなにスーパーロボット乗りが偉いんですか!?」

「まぁまぁ、どうどう。マミさんにはマミさんの良さがあるよ」

 社長のユーリにも──最新鋭機の《Gアーク・ストライク》で結果を出して見せる──と宣言して自らプレッシャーをかけているのだ。

 このまま負けが続けば防衛騎士団の存続も危ぶまれ、マナミは崖っぷちに追い込まれていた。


「これからどうするんです? ジェシー」

「どうするってもねぇ。我が家秘伝の何でも切れる対SV用装甲裁断カッターを持ち出してもいいけどさぁ……」

「それをやって解決していたら、彼女が半世紀もSVの中で眠り続けていたなんてことはないでしょ!」

「そりゃあそうだよね」

 漫才的なやり取りをしてみせるが解決法は思い浮かばない。ふと、ジェシカは別の問題を思い出した。


「あれだよ、こうなったら例の幽霊騒動の謎を解明するしかない!」

「どうなったらそう言う考えになるんですか?」

「だって今、ちょっとしたブーム? じゃないの。こういうのは早めに解決しておかないと!」

「そもそも宇宙時代に幽霊って、非科学的な……」

「マミさん、もしかして怖いんですか?」

「ま、ままさか! そーんなわけないでしょぉっ?!」

 顔を真っ赤にして否定するマナミだったが声が上擦る。

 この手のオカルトめいた話を聞くと夜に思い出して眠れなくなるほどマナミは苦手であった。


「なら、大丈夫だよね?」

「あぁっ……ぅぅ」

 半ば強引に納得させられて、ジェシカとマナミの二人は格納庫の照明を落とすと、幽霊が現れると言う時間になるまで物陰に隠れて待った。


 ◇◆◇◆◇

 

 深夜3時。

 睡魔に負けそうになりながら三枚目のミントガムを噛むジェシカは、どこからか聞こえる物音に反応して立ち上がった。

 首を上下に揺らして夢うつつなマナミを小突いて、ジェシカはすぐさま暗視ゴーグルを装着すると周囲を見回した。通路の真ん中をほのかに発光する物体がゆっくり移動するのが見える。


「居た! まて、幽霊だか泥棒めーっ!」

 幽霊らしきものに向かって一気に駆け出すジェシカは突進する。

 すると何か軽い物にぶつかり、それが体力に床へ散乱した。


「な、何これ……箱? お菓子のだ」

 落ちた物はクッキー、チョコレート、スナックなどお菓子の箱や袋であった。

 顔を床から視線を上げると、そこに立っていたのは長い綺麗な髪の十代ぐらいの少女である。

 その少女の衣装をジェシカは地球の古い映像で一度見たことのあった。

 神社と呼ばれる神様を奉る建物で“巫女”と呼ばれる女性が着る服に身を包んでいる。

挿絵(By みてみん)

『ナカライ・ヨシカ……マコトちゃんにはナイショよ』

 うっすら微笑む幽霊少女はそう言い残し《ゴッドグレイツ》に向かって飛ぶと、中へ吸い込まれるように消えていった。

 残されたジェシカは呆然と立ち尽くす。


「じぇじぇじぇっジェシー! 今何か光ったの何?! 懐中電灯だよね? そうだよね?」

 後から来てビビりまくっているマナミはジェシカの肩を激しく揺らす。どうやら幽霊少女を見ていないようだった。


「ヨシカ……ママの名前。あの娘もマコちゃんと同じゴッドグレイツの中で生きてる?」

 ジェシカは幽霊少女のことが不思議と昔から知り合いのように感じてならなかった。

 そう思うとハンガーに固定された《ゴッドグレイツ》の顔は、赤い鬼のようではなく優しく見守る菩薩のように思えてくるのだった。


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