chapter.101 機神 対 魔神
『二人とも見えますか? ここには様々な可能性が集まっている。君達が望めば世界は幾らでも創造することができる』
異次元空間に浮かぶ少年少女は記憶で作られた浮島。
数々の思い出の地が集まるこの場所で、機神と魔神による世界創造を賭けた最後の戦いが幕を開ける。
ここまで仕組まれし運命に翻弄され続けた歩駆とマコト。
二人の少年少女、機神と魔神は対峙し、睨み合う。
今にも消えかかる大切な者たちを救うために、仲間として共闘した相手を倒すことを余儀なくされてしまう。
彼らの胸中は複雑だった。
元々、今日と言う日が来た時に二人の意思は同じ方向を向かないまま来てしまったのだ。
存続させるのはどちらの世界なのか、それを決める時間はもうない。
『もし、貴方たちが言う神が存在するとしたら、これは試練なのでしょう。姓名として次の段階へと踏み出すための第一歩。その方向性を決めるのはどちらか……?』
「うるさい、うるさい、うるさいよ!!」
マコトは脳内で直接囁くイザ・エヒトの声を掻き消すかのように叫ぶ。
イザの声はマコト同様に歩駆にも聞こえ、さらに視界の邪魔するように二人の前に浮かんでいた。
『私は戦いの邪魔をしません。あくまで語り部なので……この結末を待ってますよ』
嘲笑うようにイザの姿はふわりと消えた。
殴りかかろうと操縦席から身を乗り出したマコトの拳が空振りする。
「……だ……ダメです、マコトちゃん……こんな戦いで、争うなんて……」
「あっちが本気で向かってくるんだ! こっちも本気でやらなきゃやられるんだ!」
消える身体の苦しみに堪えながらトウコはマコトを説得するも聞く耳を持たなかった。
「礼奈、マモル、二人とも待ってろよ。俺が必ず助ける!」
「……あ、あーくん……」
「…………歩駆……」
逃げる《ゴッドグレイツ》を超高速で飛行しながら《ゴーアルター》の右巨腕が追跡する。
建物の影に隠れても、障害物を破壊して強引に突破する。
「だったら壊せばいいか!?」
逃げるのを止めた《ゴッドグレイツ》は正面の巨腕に狙いを定めた。
手の中で溜めていた炎のエネルギー弾を投擲する。
ぶつかる二つの衝撃で建物が跡形もなく消し飛ぶ。
「囮だ」
「だろうね!?」
背後に気配を感じたマコトの頭上に光の剣が落ちる。
その剣は《ゴーアルター》が飛ばして破壊された右腕の付け根から伸びていた。
降り下ろされた瞬間、すかさず《ゴッドグレイツ》は《ゴーアルター》に背を向けたまま両手で真剣白羽取りをして光の剣を受け止めた。
「結局、俺達の向かう道は違ったんだな!?」
光の剣に力を込めて歩駆は言った。
このままでは押し負けそうになりマコトは力一杯、踏ん張る。
「それは当たり前でしょっ!!」
マコトは《ゴッドグレイツ》の背面から炎の翼を展開し《ゴーアルター》を勢いで吹き飛ばす。
距離を大きく取り、巨大な建造物──かつてマコトのいた人工島イデアルフロートのシンボルタワー──の屋上へと跳躍して逃れる。
「真道君、この戦い本当にどっちかが勝ったとして、自分の思い通りの世界に作り直せるって本当に思ってんの?! 私たち、騙されてるんじゃないかって思わない!?」
「思っているさ! だからこそ、お前を倒してそれを確かめてやるんだ!」
一気に距離を詰める《ゴーアルター》は拳を振り上げ《ゴッドグレイツ》のいるビルを攻撃する。
衝撃波がタワーの壁面を駆け上り、真っ二つに引き裂かれた。
「この……わからず屋がぁっ!!」
向かい来る衝撃波に対して《ゴッドグレイツ》が両腕を広げて作り出す炎のカーテンで軌道を反らす。
上空へ舞った衝撃波は勢いそのままに浮島の一つを破砕させた。
「……本当に嫌い、真道歩駆!」
「俺もだよ、真薙真……」
「あんたの苦しみは私だってわからないでもない。私より前の時代から戦い続けて、そんな世界を根本から消したい……それが一番良いのかもしれないんだ…………でも、それは私が生きてきたことの否定になる! 私はゴッドグレイツと出会ったことを後悔しない。SV乗りなことを否定したくない!」
「俺はゴーアルターに出会ったことを今でも後悔してる! 俺はSVに乗ることを憧れてた。だけど、この世界の在り方、SVはヤマダ・アラシによって作られた幻想だ! 戦争を楽しむための玩具に過ぎないんだよ! そんな世界なんて俺は否定したい。全部やり直すんだ!」
衝突する二つの閃光。
「負けられないのよ、私は!」
「負けたくないんだ、俺は!」
互いに譲ることのない白と赤の意思は限界を突破する。
それが、かつてないほどの爆発的なエネルギーを生み出し、周囲の物質を何もかも消滅させる。
「勝つのは!」「勝つのは!」
交わる二つの光の中で《ゴーアルター》と《ゴッドグレイツ》の身体は次第に崩壊していきながらも、二機は組み合い戦いを止めない。
相手を破壊せんと崩れる手足で振るい続ける。
「俺だッ!」「私だ!!」
両機共に手足がボロボロになって使えなくなれば、今度は額の角飾りをぶつけ合い始める。
まるで昆虫が相撲を取っているような姿であるが本人たちは真剣だ。
空中を落下しながら突き合い、互いの角が同時に折れたところで二機は地面に激突した。
◇◆◇◆◇
二人が落ちたそこは学校の校庭だった。
奇跡的に爆発から逃れたのか他の浮島と比べて最小限の被害で済んでいる。
「…………なに……っ?!」
一瞬の気絶から目覚めるマコト。
コクピットに響く謎の異音に気付いた時は既に遅かった。
「……ッ!」
「ちょっ……うわっ!?」
強引に抉じ開けられたハッチからコクピットの中に侵入するのは真道歩駆だった。
胸ぐらを捕まれてマコトは外に投げ飛ばされる。
「くっ……!」
「……」
ゆっくりとした足取りで歩駆は無言でマコトに近付く。
据わった目で真っ直ぐ見詰める歩駆の表情は冷酷そのものだった。
マコトは口に入った地面の砂を吐き出して歩駆を睨み返す。
お互いに言葉は発しない。
殺るか、殺られるか。
その二択。
歩駆。
マコト。
少年少女の運命を駆けた戦いの雌雄が今、決しようとしていた。
二人は同時に一歩踏み出す。
勝負は一瞬だった。
「……」
「……っ!?」
「…………俺の、勝ちだ……!」
歩駆の手がマコトの胸を貫いた。





