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魔力なし少女は譲らない  作者: 村玉うどん
第三章 図書棟の幽霊
97/204

37話 よく頑張りました

 どうしてこんなことになっているのか。

 片やありありとした不満を隠そうともせず、片や脱力し戦帰りの兵のように悲壮感を漂わせ同じソファに腰掛けている。


「色々と説明してくれるんだろーね」

「ここの術式は変換よりも引用形式のほうが魔力消費少なくなるかな~」

「人の話を聞け! 説明をしろ!」


 書斎だと思われる室内で、向かい合うようにして座る三人。

 ちょうど真ん中にあるテーブルを占拠するのは、魔術具と術式らしきものが書かれた紙の束。

 帝都に来てそれなりになるが、コハクも初めて見るような珍しい工具が雑に散らばっている。


「これ! この宝の地図だとかふざけたものを、このふざけた男に持たせたのはお前か!!」


 本当は地図を机に叩きつけたかったが、わずかのスペースもなく散らかされており、仕方なく相手の眼前に突きつける。

 ククシュルは「えー、なにー?」とのんびり顔を上げると、風の出る魔術具で紙片を泳がせて笑った。


「あっはっは、ぺらぺらしてる~」

「あっはっは、じゃねーよ! 何も面白くないんだけどアンタ頭だいじょ」


 言い切る前に何かが横から伸びてきて視界を塞ぐ。

 それが隣に座っていた青年の手だと気づくのに数秒かかった。


「レイス様ー。子供の言うことなんすから大目に見てやってくださいよぉ」

「んー、そう?」

「こんなんでも一応ちびちゃんの兄貴なんですし、下手したらちびちゃんに嫌われますよ」

「え、それは困る。仕方ない、我慢するか~」


 コハクの額すれすれの位置にあるのは青年の手の甲。

 しかし視界の殆どを遮る影の向こうには、真っ赤な術式が浮かび上がっていた。


「これねー新しく作った魔術具なんだよ。クロスボウより小さくてー、なのに数百倍の速さで光の矢が飛び出すだー。もう少し改良を加えれば石壁も貫通させられると思うんだぁ」


 凄いでしょうと言う声と共に赤い光も収まり、コハクの視界もようやっとひらけた。

 向かいに座っているククシュルは、一見しただけでは玩具のような引き金のついた何かを持っており、くるくると回して遊んでいる。

 ひやりと冷たい汗が背を伝う。それでもククシュルから目を背けないコハクに、隣に座る青年は小さくため息を付き口を開いた。


「で、おれもそろそろディーグ様の所に戻りたいんすけど。地図の目的地ってここで合ってるんですかね?」

「合ってるよ~。本当はルツェちゃんをご招待してお茶するつもりで作っただけだから~」

「そんだけなら普通に呼びゃーいいでしょうが!」

「なのに肝心のルツェちゃんいないしー。意味分かんなーい」

「無理やり持たされたうえに、第二寮に届けてこいとしか言われてませんでしたからね!!」


 隣で憤慨する青年に、強張った身体が落ち着きを取り戻す。

 コハクはバレないように小さく息を吐き出すと、今度は大きく息を吸い顔を上げた。


「ルーツェはいま風邪で寝込んで」

「は? なにそれ。お前なんでこんなとこ来てるの? さっさと戻ってルツェちゃんの看病しなよ」

「…………」

「……あー、じゃあ、おれ等戻りますね」


 コハクは未だかつてない程に己の頬が引き攣るのを感じた。

 帰り道は青年が知っているのか、コハクの腕に合図を送り立ち上がらせる。

 かと思えば頭を鷲掴まれ強引に退出の挨拶をさせられた。


「あ、そうそう。宝の地図ってのは嘘じゃないよ。僕、ルツェちゃんにお土産用意してたの~」


 扉に手をかけようとして声をかけられる。

 青年が僅かに眉を潜めたが、声をかけられた時点で振り返っていたコハクは気づかなかった。


「はいこれ。絶対渡してね」


 そうしてリボンで可愛らしくラッピングされた小さな箱を渡された。

 ククシュルが自分で巻いたのかと思うと気持ち悪いと思ったが、拒否するのも躊躇われてしぶしぶ受け取る。

 その受け取ろとうした手を反対の手で掴まれ、相手の方に引かれた。


「あと今度あった時は、君の故郷のお話も聞かせてね」

「!」


 コハクだけに聞こえるように、耳元で囁かれたセリフに相手を見る。

 そのまま強引に小箱を押しつけられると、今度は背後に腕を引かれククシュルが視界から消えた。


「では、失礼します」


 ククシュルの視界から隠すように青年は挨拶を落とすと、コハクを扉の向こうへと押し出す。

 有無を言わさぬまま目だけでついてくるように示され、長い廊下を歩き出す。

 そうしていくつかの角を曲がり、屋敷を抜け門の外まで進んだところで、前を歩いていた青年が立ち止まりそのまましゃがみ込んだ。


「だっはぁ~、もう、超心臓に悪い! お前もっと口の効き方気をつけろよ! あの人あれで、結構なお偉いさんなんだぞ!!」

「…………」

「聞いてんのかよ!」

「…………」


 俯いたまま、まともな返事さえ返さないコハクに盛大なため息をつく。

 青年はガリガリと赤茶の髪を掻きむしり苦い表情を浮かべたあと、コハクの背を小さく叩いてまた歩き出した。

 大した反応も見せず、コハクも大人しくその後を追う。

 男の革のブーツが目の端で動くのを眺めながら、コハクは口を開いた。


「で、オイサンはどこにやったんだよ、この駄犬が」

「お前一回ぶっ飛ばしてもいいか!!!?」


 青年――ルドルフが振り返れば、しれっとした様子のコハクと目があった。






********************






「で、この今更なタイミングでバラしたのか」

「おれだって不本意ですよ!! どうせならもっと、こう、ここぞって時にじゃじゃーん! みたいな感じで披露したかったのに!!」

「オイサンー! 無事で良かった!!」

「ハヌ?」


 談話室に置いてある立派なソファ。ちょうどルーツェがお茶会に参加している日に、送り主不明で届けられた上等な代物。

 恐らくクレイド辺りの仕業だろうと、有り難く使用させてもらっている。

 その三人は座れそうなソファの真ん中に、ディーグが一人腰掛け、コハクとルドルフはすぐ前に敷いてあるラグの上に座っている。

 談話室と続きになっているキッチンの方では、昼食を作ると言い出したシェリカとそれに奮闘しているアレンの姿が見える。


「ホント有り得ないんですけど? なんで犬が人に化けんの? ディーグさんもそんなのペットにして大丈夫なの?」

「ペットじゃねーし! 俺は人狼族の先祖返りなだけで、立派な人類です!!」

「はあ? 人狼族ってあの、昔話に出てくる?」


 人狼族――。

 数千年前、まだ多くの大陸が陸地で繋がっていた頃。地上には数多の神々が存在していた。

 神々は人も獣も平等に愛し、平等に祝福を授けた。それにより人は魔術を使えるようになり、獣は魔力や知識を得た。

 中には進化を遂げ人のようになった獣も存在し、そういった進化種族と人が交わり人狼族もそうして誕生したと言われている。


「昔話が真実かまでは知らねーけど、おれって存在がいるのは事実だ。まあ、おれが出来るのは狼にもなれるってくらいだけどな」


 昔話での人狼族は、大岩を持ち上げるほどの怪力だとか、身体の大きさを自在に操れるだとか色々言われているが定かではない。


「だが、珍しいのは確かだな。見世物として売り飛ばせば、そこそこの値もつくだろう」

「ディーグ様ぁ!?」

「事実だろう?」

「そうですけども! おれ絶滅危惧種! もっと大事にして下さいよぉ!!」

「だから吹聴されると、いざという時の資金源を失うかも知れないので困る」

「…………」

「つまり誰にも喋るなってこと?」


 組んだ足に肩肘を付きながら言うディーグに、コハクがため息交じりに問う。

 その問いにディーグは答えなかったが、否定もしなかった。


「意外と大事にされてんじゃね?」

「そう、なるのか?」


 自分たちだけで話がしたいからと、シェリカたちにはしばらく近づくなと頼んである。

 それでも念のために遮音の魔術具を使用し、フィファナにはルーツェの部屋で待ってもらっている。

 最初はクレイドがやたらかしこまる相手――ディーグを、ルーツェから人攫いさんと呼ばれる怪しい男に任せるのは不安だと渋った。

 しかしディーグ自身から『昔からの私の護衛だ』と言われれば従うしかなかった。


「ルーツェにも内緒なの? クレイドの部下って言ってたけど、騎士団ではどうしてるのさ?」


 ディーグがルドルフに視線を寄越す。

 自分で答えろと言っているようだ。ルドルフはわずかに唸ると、苦笑を浮かべてコハクへ答えた。


「おちびには知られてもいいかな。つか、おれのこと知ってるのお前以外だとディーグ様ともう一人だけなんだよ」

「クレイド?」

「違う。お前らは知らない人。えーと、ある意味おれや団……リャダマンさんの上の人になるかなって、そういやさっきのでレイス様にもバレたか」


 めんどくせーな、とぼやくルドルフの隣で、あと一人は騎士団長かなとコハクはあたりをつける。

 実際にはこの国の宰相殿であるのだが、わざわざ言う必要はない。


「俺とルーツェはなんでいいの?」

「いいと言うか、いずれバレるだろうなぁーって思ってたから、しゃーない感じ?」

「? いや、答えになってないし」

「ヒント。おれのご主人様との接触時間」

「あー」


 なるほどと思いながら、ディーグを見る。


「なんだ?」

「なんにも」


 一方的ではなかったようだ。


「わかった、別にアンタ自身に興味はないし、害がないなら言いふらしたりしない」

「一言多いガキだな」

「ねえ、俺もうあっちに戻ってもいい? そろそろ限界っぽいし」

「………………」

「………………、行ってやれ」


 ディーグの許可を得て向かう先はカウター向こうのキッチンスペース。

 遮音の魔術具のせいで音までは聞こえてこないが、遠目でもわかってしまうほど凄いことになりつつある。


「おい、……おい! なんかすっごい煙が上がってるんですけど!? 何やってんの!!」

「お、お姉さまのお兄さま! どうしましょう! 火力を上げるため魔術具だけでなく薪をくべたのですが火がつかなかったので、術式で直接燃やしたら炎の柱が!!」

「止めろよ!!」

「すまん! 散乱している刃物を回収していたので、見ていなかった」


 刃物が散乱!? どんな状況だ! と思うも、シェリカがロッドを取り出し構えを取る。


「すぐ消火します!!」

「やめろ! お前の術は、規模がでかいんだよ!」


 遮音の魔術具を停止させると同時に飛び込んできた慌てふためく声。

 仔犬が興味を引かれ駆け寄って行くのをルドルフが捕獲し、ディーグは頭を抱えた。

 密かにフェルエルトが施した補強の術式がなければ、こんなボロ屋やなど丸焦げになっていたかも知れない。


「あー、ははは。まさか……クロスフォルドの化物飼いをここまで手懐けるとは。これだからおちびは放っておけませんねぇ」


 ルドルフがキッチンの方を眺めながら言う。

 ディーグは肩肘をついた体制で顔を背けているが、わずかに寄った眉間のシワが不機嫌を主張していた。


「で、報告なんすけど――情報が漏れました。貴方がここに居ることが()()()()()にも伝わってます」

「…………」

「それで、学院に紛れ込ませて御身を隠していただくという、ホフツニス様の作戦は駄目になっちゃたので」

「城にはいかん」

「ですが」

「どこに居ようが同じことだ。故に必要性を感じない」


 話を打ち切るように立ち上がるディーグを目で追う。

 食堂を出るつもりなら追いかけたが、その気はないようで騒がしい方へと足を進めていく。

 ディーグに気がついたコハクが、立っているものは何でも使えと言わんばかりに、何やら雑用を並べ立てている。


「あーあ、もう。うちのご主人、あれで寂しがりの気遣いさんなんだよねー」

「ハヌ?」

「いいように使ってくれちゃって、困るわー。マジで」


 偉そうにコハクに言い返しつつも、仕方ないと騒動の中へと消えていく主人に嘆息する。


「取り上げるくらいなら、最初っから与えるなっつーの」


 遠目でもわかる主人の表情に、唯一の従者は逃れるようにラグへと寝そべった。

 せめて彼から取り上げる役目は、自分ではありませんようにと小さく呟いて。

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