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魔力なし少女は譲らない  作者: 村玉うどん
第三章 図書棟の幽霊
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35話 だからおれは、やってない

「は? なにこれ? 改装工事でもやってるのか?」

「ふざけんなこの人攫(ひとさら)い野郎。黙れ」

「人攫いだと!?」

「え!? なんで開口一番そんなにぶち切れてんの? おれ、何もしてなくね? つか人攫いじゃねーつってんだろ!!」


 どこから入ったのか、食堂側のカウンターから身を乗り出し一人の青年が言う。

 赤みがかった茶髪に、冬が迫りくる肌寒い季節だと言うのに軽装な衣服に相まった軽い素振り。

 以前ディーグが連れてきた、クレイドの部下だと言うその人物は荒れ果てたキッチンを見渡して「うわ……」と口元を引きつらせていた。


「で、何しに来たのさ人攫い」

「だから人攫いじゃねぇ!」

「俺アンタの名前知らないし」

「あれ? そうだっけ? なんだ、おれの名前知りたかったのかぁ」

「いや別に」

「可愛くないぞクソガキ!!」


 ガルルと牙をむく青年を無視し掃除の手を再開する。

 アレンが怪訝そうな目を向け、明らさまな警戒心を覗かせた。うん、突然現れた見知らぬチャラい男など、誰だって警戒する。


「てかお前。おれが前にやった地図、まだ使ってないだろう! さっさと探しに行けよ!」

「はあ? なんの話?」

「地図だよ地図。宝の地図! 少し前に渡しただろーが」

「宝の地図? 何言って……あ」


 言われて、幾日か前の出来事を思い出す。

 あれはたしか授業初日の午前中。今みたいに突然姿を現した青年は、詳しいことを話さないままにコハクに宝の地図だと言うものを押し付けていった。


「あの謎の紙なら捨てちゃったよ」

「はあああ??!! なんでだよ、なにしてくれちゃってんだよ!!」

「いや、普通親しくもない奴から渡された怪しい物なんて捨てるだろ」

「そうだな」

「ふざけんな! ちゃんとやってくれよ! でないとおれに被害が来るんだぞ!」

「へー」

「ちくしょう!」

「ハヌン!」


 コハクからは見えないがカウターの向こう側から聞こえた鳴き声に、仔犬が起きてきた事を知る。

 体調が悪いからとルーツェの部屋から追い出され、雛と一緒に食堂の日当たりの良い場所でふて寝をしていたのだが、騒がしい男の乱入に目が覚めてしまったようだ。


「おれに優しくしてくれんのはお前だけだぜ、わんころ」

「なに犬相手に必死になってんの。つか、オイサンも連れ去る気だな。離れろ」

「だからおれは人攫いじゃないって、何度言えばわかるんだよ!!」

「ほう。家屋の掃除などしたことなかったが、意外と重労働なのだな。いい勉強になる。なによりこの魔術具だ。かなり高度な術式が組み込まれている。一体だれがこのような物を……」

「まだ終わってないんだろ。感心してないでさっさと終わらせるぞ」

「頼むから人の話を聞いてくれよ!!」


 制服の上着を脱ぎ、代わりにエプロンをし石窯をこすっているアレンに、コハクが念押しする。

 その真横をシャカシャカと丸い物体が過ぎていき、アレンの目がついあとを追ってしまうのだ。


「ふ、なるほどな。たしかにあの人の言うとおりだった……」


 ふと青年の声が低くなり、カウターに何かを叩きつける音がした。


「これはあの時の地図の写しだ! まさか本当に破棄されてるとは思ってなかったが、無理やり持たされて正解だったな」

「なに? だから地図なんて」

「おれだって何なのかは知らねーけど、とにかく黙って見つけてこい! それまでわんころはおれが預かって返さねーからな!!」

「は?」

「行くぞわんころ!」

「ハヌン!」

「え? ちょっ」

「絶対行ってこいよな!! 誤魔化そうとしたって解るんだからな!!」


 遠ざかる足音と正面入口が開閉する音に我に返り、コハクが慌ててカウターから身を乗り出す。

 もちろんそこには青年の姿はなく、ただ背後で掃除用の魔術具がせわしなく動く音だけが聞こえた。

 一生懸命に石窯をこすっていたアレンも絶句し、ちらりとコハクへと視線を移す。


「追わなくてもいいのか……?」


 アレンの言葉に一度振り返ったコハクは、次の瞬間には近くに会った長柄(ながえ)ブラシを手に取りカウンターを飛び越えた。

 なんということだ。人攫いに、愛犬を攫われしまった。

 怒声を響き渡らせ周囲を疾走してみたが、青年の足取りは微塵も掴めなかった。






********************






「なんで俺がこんなことを……」

「グルルゥ……」


 第二学生寮からさらにさらにの森深く。

 コハクは乱暴に扱って、くしゃくしゃになってしまた紙切れを片手に枝をかき分けていた。

 足元には鳶色の狼。

 不機嫌そうに唸り声をもらす(さま)は、なぜ自分がと不満をありありと訴えている。


(俺だって行きたくないよ)


 隣でぶちぶち文句を垂れている狼を尻目に、コハクは重い足取りを何とか前に進め先を急ぐ。


(あいつらだけ残してきて大丈夫なのか。アレン、お前はどうなってもいいから建物だけは絶対守れよ)


 絶望的な表情をしていたかの人物を思い返しため息をつく。

 本当に、ほんとぉ~に不本意なことだが、今頼れるのはアレンしかいないのだ。

 なぜなら熱を出し寝込んでいるルーツェのそばにいるのが、見かけによらず不器用だったシェリカに、料理方面壊滅的なフィファナ。そしてもう一人。


「なあ、ディーグさんって身の回りのこと出来る人? ゲテモノ食いのイメージしかないんだけど大丈夫なのあの人」

「ガウ!」


 主人を馬鹿にされたと思ったのか、狼が牙を向き吠える。

 怒んなくてもいいじゃんとぼやきながらも、狼相手に愚痴っててもしょうがないかと口を噤む。

 なぜディーグと彼の飼い狼? が居るのかは単純な話で、唯一の受講者であるルーツェが授業開始時間になっても現れなかったからだ。

 それで不審に思ったディーグが第二寮へと向かい、仔犬を連れ去った青年の事をディーグに問いただそうと向かっていたコハクが鉢合わせになった。

 どうせ暇……ではなく、困っているのならルドルフを貸してやると言われて今に至る。

 唯一の救いはアレンが意外にも、教えればやってくれるタイプだったことだろう。


「なんでこんな時に宝探しなんて……どうせ碌なものでもないだろうに」


 食堂のカウターに叩きつけられた宝の地図。の写し。

 写しってなんだ。そんなお手軽な地図から得られるものなんて期待できない。そんな事に時間を()かれるくらいなら、寮の安寧のため問題児たちを監視しておくほうがよっぽど建設的じゃないか。


「・・・はぁ~」

「・・・ワフ~」


 少し前を行く狼と、同時にため息をつき肩を落とす。

 それでも仔犬を放っておくわけにもいかず、コハクは重たい足取りで先を急ぐことにした。









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


■おまけ ~その頃のアレン~





 古びた第二寮の食堂で、大きめのテーブルに座る二つの影とそのすぐ傍らに控える一つの影。

 一人は妹を捜しに来たアレン・リェ・クロスフォルド。そのアレンの目の前には、行儀悪くも書物に目を向けながら薬草茶を口にするアルディン・ディ・オルフェンスという名の新任教師。なんでもルーツェの個人的な知り合いらしく、授業に来なかった彼女を心配して様子を確認しに来たらしい。

 そして最後はオルフェンスの後ろに控える女性。先程シェリカをそそのかしキッチンをめちゃくちゃにした人物で、名をフィファナと言う。


(……気まずい)


 アレンは自分ように淹れられた薬草茶を胃に流し込みながら、視線の向けどころに迷い先程からテーブルクロスの網目を視線でなぞっていた。


(どうしてこの教師は帰らないんだ! そしてフィファナ? だとか言うあの女性は、なぜあの男の後ろに付いている? コハク()は彼女も寮監と言っていたが、なぜ寮監が剣を所持して微妙に武装しているんだ?? そもそも先程までいなかったじゃないか! 寮監のくせに寮に常駐していないのか?!)


 何一つ理解出来ない。

 シェリカはルーツェの(そば)から離れたがらず、睡眠の邪魔をしないという条件で部屋に残ることを許された。

 そんなシェリカを一人置いて帰ることも出来ず、何よりコハクにお留守番を頼まれてしまった。無視すればいいだけなのだが、根が真面目であり、目の離せない妹を持つ兄として妙な親近感を持ったアレンには、無視という選択肢は存在しなくなった。

 結果、様子を確認したにも関わらず居座り続けるオルフェンス教員に、なぜかそれに護衛のように付き従うフィファナ。と、自分(アレン)という全く接点のない者たちがテーブルを囲むことになってしまったのだ。が、


(それにしても気まずい!!)


 目の前にアレンが座っているにも関わらず、毛ほどにも興味を向けず書物に没頭している男に、これまた綺麗サッパリ気配を消し護衛に徹している女。


(こんな連中と一体なにを話せばいいんだ!)


 いっそ席を立ってしまおうか?

 しかし、外に出る用もないうえに出たところで寒いだけ。食堂と談話室が一体型になっているため、そちらのスペースに意味もなく移るのも、避けていると思われてしまうかもしれない。

 もちろんオルフェンス教員……ディーグもフィファナもそんなことは一切気にも留めず、アレンの葛藤は全くもって無意味なものであるのだが。


(そして、なにより……)

「ハヌン!」


 ディーグの足元で、平らげた餌皿から美味しい口で顔を上げた仔犬。

 口の回りには食べ残しが沢山付いており、ペロペロと一生懸命舐め取っている。


(犬はここにいる! 騙されているぞ、コハク!)


 攫われた仔犬を取り戻すため、行きたくもない宝探しに出かけたコハク。彼が戻るまで、仔犬がまた攫われないように自分が守らねばと、アレンは密かな決意を燃やしていたのだった。

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