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魔力なし少女は譲らない  作者: 村玉うどん
第三章 図書棟の幽霊
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33話 案の定だった

 はて? これから始まる決闘とやらに、一体どんな意味があるのだろうか?


「さあ、どこからでもかかってきなさ、ぶえっくっしょん!!」

「お、お姉さまぁ~!!」


 片や鼻水を垂らしながら尋常じゃないほど震えており、もう片方はそれを絶望の眼差しと情けない声とで相対している。


「ルクラス。一体ルーツェは何がしたいんだ? 相手の女子がとても困っているようで、見ていられないんだが」

「そんなの俺が知りたいよ」


 一切の事情を知らないニウロが不思議そうにコハクに問う。

 今朝、日課の自主訓練に行こうとしていたのをルーツェに捕まり、話で聞いただけの彼女の友達を迎えに行かされた。


「ようは意見の食い違いが起こって、なのにどっちも譲らないから揉めんの」

「ふむ……それで決闘だのなんだの言っているのか」

「まあ、無茶言ってんのはルーツェの方なんだけど……アイツ言い出したら聞かないから」

「………………」


 否定できずに静かに頷く。

 短い付き合いとは言え、ニウロもなんとなくルーツェの頑固っぷりは把握している。

 強引にでも止めたほうがいいのだろうかと視線を戻せば、シェリカに武器を持つよう促すルーツェの声が届いた。その声は熱のせいか震え、息も上がっていた。

 戦うも何も、しばらく放っておけば自滅して倒れそうである。


「ルールは簡単、よ! はあはあ、どんな武器を使用しようが、なにしようが、先に相手に負けを認めさせたほうが勝ち」

「嫌です! 勝負などよりも、今はお休みになってください」

「ならわたしの不戦勝ってことになるわ。そうしたら、……はあ、わ、わたしはシェリカちゃんに構うのやめないからね」

「っ…………」

「じゃあ、今から勝負開始よ! ロッドも持って来ているんでしょう? はやく構えないと、こっちから行くわよ!」


 自室に勝手に入られることもあったというなら、大切なロッドは普段から持ち歩いているとルーツェは踏んでいる。

 ルーツェの推測した通りシェリカのロッドは具現化するタイプのもので、シェリカが制服の下に隠されていたペンダントを握ると、淡い光と共にペンダントの魔石がロッドへと変貌した。


「おいシェリカ。術式でも物理でもなんでもいいから、さっさとそいつボコって終わらせろ。その棒きれで一発殴っとけば簡単に倒れる」

「なんてことを言うんだルクラス! 見損なったぞ!!」

「うっせーな! これ以上風邪が悪化したらどうする! 看病するのは俺なんだぞ!」

「心配するのはそこなのか!」

「もう、コハクもニウロさんも、外野は黙ってて!」


 うるさいと怒鳴り返して目眩がする。

 ふらりと足取りの覚束ないルーツェに、シェリカはコハクの言葉を思い返しロッドを握る手に力を込める。


「勝敗がついたらお姉さまは休んで下さるんですね」

「もちろんわたしが勝つけどね」

「……私だってクロスフォルド家の端くれです」


 ふわりと風と共に真っ赤な術式が宙に浮かび上がる。

 次いで槍の刃先のような岩が無数に出現し、なぜか術者のシェリカがぎょっと目を剥いている。


「駄目です。こんなものぶつけたら怪我してしまう! もっと小規模で丸みのあるものにしないと……、ん、えい! まだ危ない、もっともっと……」

「シェ、シェリカちゃん?」

「お姉さま、もう少し待ってくださいませ! すぐ小さくて当たっても危なくないものにしますから。私だって色々勉強してまいりましたし、それくらい出来ますから」

「なんかもうすでに、グリンピースくらいになってるけど」

「でもこれ硬いですし、数だって沢山」

「ルクラス見ろ! 凄いぞ! 元は腕ほどあった岩を、あれほど小さく出来るなんて!」

「確かにすげーけど、もう石どころか砂になりそうじゃん」


 かろうじて目視出来るほどの石? の塊に、あれでどんな攻撃をしかけるというのか。いっそ、大量の砂にして生き埋めにすればいいのではと思う。

 それでもシェリカは、攻撃の手段としてルーツェに投げつけるのを戸惑っており、術式の赤い光だけが煌々と辺りを照らす。

 ルーツェは一度顔を伏せると、フッと口元を緩め高らかな笑いと共に顔を上げ盛大に咳き込んだ。


「ふ、ふふ、ゴホ! ゲホッ! はあはあ、ふふ、やっぱり、げほ、思っげほげほ!」


 もはや何を言っているのか聞き取れないレベルで咳き込むルーツェに、コハクが近付きげんなりと背中を擦ってやる。

 いっそこのまま担ぎ上げて、ベットにぶち込んでしまいたい。朝から騒がれてしんどい、疲れた。

 シェリカも元から乗り気だったわけではない術式を早々に解除し、オロオロと立ち竦んでしまっている。

 なるほど、ルーツェの狙いはこれだったのかと、コハクはようやく落ち着き始めた風邪っぴきの頭を軽く(はた)いた。


「お前、シェリカが自分に攻撃術を当てないって踏んで決闘とか言ったな」


 落ち着いたとは言え、肩で息をしているルーツェは、必死に笑みを浮かべ誇らしげに親指を立てた。

 その(さま)にイラッときたので、シェリカの代わりにもう一撃お見舞いしてやった。


「全然うまくねーから。むしろ、人の好意を利用した最低な作戦だ」

「だって、しょうが、ないでしょ。他に方法が、思い浮かばなかった、んだもの」

「…………はあ、で? お前の攻撃手段はなんなの? これで自分はディーグさん辺りから別の魔術具借りてたらドン引きなんだけど?」

「わたしだって、シェリカちゃんに危ないことはしないわよ。わたしの攻撃手段はここよ」


 言ってルーツェは自分の口元を軽く叩いてみせる。


「絶対、口説き落としてみせるわ」

「はあ~。ざけんな、だったら中でやれ! 馬鹿じゃないの、この大馬鹿は!」


 フフンとどこか誇らしげなルーツェに、コハクは青筋を浮かべながらすっかり冷えてしまった身体を担ぎ上げる。

 ニウロに先に戻って温まる飲み物を用意しておけと命令する。

 そうしてやっと少し離れた場所でぽかんとしているシェリカへと振り返ると、お前もさっさと来いと声をかけた。


(こんなの、勝負にすらなりゃしない)


 物理もありだとか言っていたが、互いに相手に危害を加えるつもりがないのなら、対戦相手の気弱な少女に勝ち目などないだろう。


(だから勝敗の条件が相手が敗けを認めることか)


 ならばルーツェは絶対諦めないし、認めない。

 気丈に振る舞おうとしながらもぐったりしている妹と、これでもかと青ざめ彼女を心配しているその友人に、コハクは二度目の大きなため息をついた。






 アレン・リェ・クロスフォルドは走っていた。

 今まで生きてきた中で最速なのではと思えるぐらい、尋常じゃない速さで人通りが増えた朝の校内を駆けている。

 宮廷魔術師を多く排出するクロスフォルド家にとって身体強化など容易いもので、術式が放つ赤の光が流星の如く過ぎていく。ぶつかりでもしたら、軽い怪我ではすまないだろう。


 それもそのはず、アレンはいつもどおり妹を迎えに行こうと女子寮近くの待ち合わせ場所で待っていたが、シェリカは現れなかった。

 余裕をもって寮を出ているため時間は大丈夫なのだが、真面目なシェリカが意味もなく待ち合わせに遅れるなど考え難く、起き上がれないほど体調を崩したのかと不安になる。

 流石に部屋までは行けないので寮内の使用人に確認を頼むと、すでに外出されていると告げられ目を見開いた。

 何かあったのかと思いながらも、最近妹と親しくなった友人のところにいるかも知れないと第二寮へと足を進めている時だった。

 クラブ活動の朝練が終わった生徒と、登校するために寮から出てきた生徒で賑わう人混みの中、たまたま通り過ぎようとした女性徒たちの会話が耳に入った。

 なにやら恋人の話をしているようで、自分の彼氏がどうのと少し離れた場所にいるアレンにまで筒抜けである。大声でプライベートな話をするなと内心眉を潜めながらも、足早に通り過ぎるつもりだったのに。


「そう言えば今朝、クロスフォルドの化物飼いが男と二人で歩いてるのを見たの。怪しくない?」

「本当!? どんな(ひと)?」


 きゃらきゃらと盛り上がる女性徒たちから数歩向こう。いつの間にか周囲の人間は青ざめ、人の流れはとある人物に避けるように人垣が胡散していく。

 それでも女性徒たちは話に夢中で、周囲の異変に気づくことなく語る言葉に熱がこもる。


「見たことなかったけど、体格もよかったし騎士科の生徒だと思う」

「顔は? 呪い持ちに手出すとか、よっぽど相手いないんじゃない?」

「あはは。たしかに~」


 ふと、(しと)やかとは言えない笑い声を上げる彼女達に影がさす。


「すまないが、その話詳しく教えてもらえないだろうか」


 落ち着いた……と言うよりもドスのきいた声に遮られ、甲高い笑い声が途切れた。

 女生徒たちは声をかけてきた人物に気づき、一気に青ざめ言葉を失う。


「あ、あの……私達……」

「ああ、君たちの弁明には興味ない。それよりも……私の妹はどんな人物と、どこへ向かったかを教えてくれないか?」


 女子生徒たちは、ただただ必死に頷いた。




 だと言うのに――。


「わたしは、ね……シェリカちゃんの手も、好きよ。……ちっちゃくて、綺麗で、ぅ、ごほ……はあはあ、笑った時に口元げほげほ、……にちょっとだけ人差し指が出てるんだけど、……それが、ぷにっと乗っかってごほごほ、……で可愛いしなにより女の子らしくて素敵なの」

「お姉さま! お願いします、お休みください! それにもう、私、わた……あうぅ」

「前に、手をつないだ……はあ、はあ、時も、なんだか嬉しい気持ちになって、心がほわほわしたわ。げほ、……一つしか違わないけど、やっぱりわたしのほうがお姉ちゃんなんだから、頑張ろうって……元気、がもらえるの」

「うぅ~!! お姉さまぁ~」

「それから、ね……」


 どういう状況だ、これ?

 息せき切って校舎裏の森を走ってきたと言うのに、なぜか探し人(いもうと)は男にではなく友人の女子に口説かれていた。

 だが相手は体調が悪いのか何枚もの毛布を頭から被り、鼻水を垂らしながら何とか語っているという状態だ。馬鹿かコイツは? 調子が優れないならベットで休むべきだろうに、死にそうになりながら人様の家(うち)の妹に愛? を語っているのだろうか。

 シェリカに至っては真っ赤を通り越しゆでタコ状態で、今にも泣き出してしまいそうなほどふるふると震えていた。


「気でも触れたのか?」

「だよな。そう思うよなぁ」

「! 居たのか、驚かすな!」


 ノックをして正面入口を開けてもらうだなんてことをすっ飛ばし食堂に駆け込んだアレンに、近くにいたらしいコハクが声をかける。


「なんだこれは。なぜお前の妹は、死にそうになりながら私の妹に好意を伝えているんだ?」

「女同士の決闘だから、邪魔したら怒るんだよ」

「決闘? え……、ええ!? 決闘??」


 どう捉えればそうなるんだ!!!?

 全くもって理解不能な状況下、アレンは遠くで始業の鐘が鳴るのを聞いた。

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