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魔力なし少女は譲らない  作者: 村玉うどん
第三章 図書棟の幽霊
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26話 いざ庭園会

「ふわ……、やっぱり立派な建物。うちの第二寮とはぜんぜん違うわね」


 貴族の屋敷のような白くでっかい建物。

 寮であるが高い壁に囲まれ、広く立派な庭園が広がる。

 前に来たときは緊張のあまり気にしていられてなかった周囲を観察しつつ、入り口まで辿り着いた。

 白く、これまた大きな扉に迎えられ、勝手に入って良いのかもわからずドアをノックする。

 そのあとすぐに扉は開かれ、初日に対応してもらった案内役の女性が現れた。

 女性はルーツェを認識すると、胸元のブローチに手を当てほんの僅かだけ目を細めた。ブローチは黄色い魔石を加工したもので、何か不都合でもあったのかとビクリとルーツェの肩が揺れる。


「あの、わたしルーツェレア・ルクラスと申します。今日は庭園会に出席するために来ました!」


 ルーツェがやや早口でまくしたてるも、女性の表情に変化はなく何を考えているかはわからない。

 今日は女子寮庭園会当日。

 生徒の大多数は貴族である学院で、個人ごとや派閥ごとのお茶会はあっても、今回のように公開型の大きなものは初めてだった。


「招待状はお持ちですか」

「へ? 招待状?」

「寮生以外が寮に入られる場合、許可が必要となります。招待状、もしくは寮監の許可か、学院側が発行する許可証が必要となります」

「許可証? え? わたし何も持ってないです」

「でしたらここをお通しするわけには行きません」

「でも!」

「規則ですので」

「そんな……」


 なんだそれは、聞いてない。

 折角アレンのやたら細かい特訓をこなし、心細いからエマを道連れにしようするも全力で断られ、不安で引きこもりたい気持ちを押さえつけて来たと言うのに。


「わたし帰ってもいいんですか!」

「あら、そんなの駄目よ」

「「!!」」


 くわっと顔を上げたルーツェの背後から、ふんわりと漂う甘い香りと制止の言葉。

 驚きに跳ねた肩にそっと柔らかいぬくもりが乗せられ、ゾクリとむず痒くなるような声がルーツェの耳をくすぐった。


「スフィーネ先生!」

「折角来たのに、もう帰ってしまうだなんて勿体ないわ」

「ですが、わたし許可証とか持ってなくて、そもそも入れないらしいんです」

「そうなの? なら私が許可証を発行してあげる」

「へ?」


 スフィーネは言うと入り口横の窓口が備え付けられている部屋の台に紙を取り出し、身体を揺らしながら(ちゅう)に何かを書き出した。

 魔力によって書かれた文字は光りを帯び、スフィーネがそれに息を吹きかけると手元に用意した紙へと落ちる。

 それを確認しにっこりと嬉しそうな笑みを浮かべると、「えい」と楽しそうな掛け声と共に胸元の谷間から取り出したハンコを押した。


「出来たて職員長先生の許可証ですよ。これがあれば大丈夫よね」

「はい、確かに」

「え? え?」


 スフィーネから許可証を受け取った案内係の女性は、一礼し下がると窓口である部屋の中へと戻って行った。

 流れるように行われたやり取りにキョドるルーツェに、スフィーネは目線を合わせて優しく微笑んだ。


「貴女だって立派な学院の生徒よ。堂々としていなさい」

「! ……はい、ありがとうございます」


 ゆるりと肩の力が抜けていく。


「場所は食堂よ。あそこの扉の奥へ少し進んだところにあるわ。そこから庭へ出れるようにガラス扉が開放されていて、軽食を持ってお庭に出られるの」


 いってらっしゃいと背中を押されて一歩進む。

 来たときよりも軽やかになった足取りに、ルーツェはスフィーネに礼を言い扉を開けた。






 食堂までは一本道で、迷うこと無くたどり着けた。ただ思ったよりは距離があり、ホコリ一つない磨き上げられた廊下を物珍しげに歩いた。

 目を凝らして見れば柱や床の石はただの白い石ではなく、魔石片が含まれているのかキラキラと光りを反射している。

 そのおかげで冷たく固い印象もなく、ただただ美しいと感じた。


「わわわぁ~。美味しそうな食べ物がいっぱいあるぅ」


 そうして長い廊下を抜けた先にある食堂で、ルーツェは感動に瞳を輝かせた。

 昼食も兼ねた庭園会と言うだけあり、軽食やデザートだけでなくちょっとした料理がそれなりに並んでいる。

 だと言うのに料理の置いてある食堂内に人の気配は少なく、みな外へとでているようだ。

 広く整えられた庭には大きなガゼボがあり、その周辺にはパラソルや簡易の日差しよけが設置されているテーブルがいくつかあった。


「みんな外にいるけど、これ食べちゃ駄目なのかしら? もしかしてまだ始まってなかったりする??」


 そうであれば、一人がっついて食事に手を付けるわけにいかない。

 目の前に美味しそうな料理があるのにお預けだなんて、今にもなきだしそうな腹を押さえてこらえる。


「でも、デザートなら少しくらいつまんでも……」


 言って、ルーツェがつつつとテーブルに近づいた時、空気がざわつき室内にいた数少ない生徒が入り口へと注目した。

 ルーツェもなんだとテーブルに伸ばしかけた手を引っ込め、取り繕って振り返る。


 大きく切り取られた入り口は開け放たれており、その中央を一人の女生徒が堂々と歩いてくる。

 艷やかな金の髪をなびかせ、一瞬にして周囲の視線を集める美少女。リィリーシェ・リェ・アリューダ。

 そのすぐあとを二人の女生徒と、更にその後ろにもう一つの小さな影が追うように続く。


 いつの間にか外にいた女生徒たちの注意も集め、主催役であるリィリーシェを先頭にした集団がルーツェのすぐ前を横切ろうとしている。

 リィリーシェに続き、普段から彼女と共にいるティーサ・ディ・カッベランテとエクリエナ・ディ・ロイスン。誇らしげに胸を張っているティーサと、ブラウン色の三編みで控えめなエクリエナ。

 そんな対象的な二人が、リィリーシェに続きやって来ることなど誰もが想像出来たし、日常的な光景だった。

 しかしだ。


「え?」

「どうしてあの子がリィリーシェ様と?」


 普段とは違う、見慣れない光景。

 呪いを受け化物飼いと呼ばれていた白髪の少女、シェリカ・リェ・クロスフォルドが彼女らに付き従うようにそこにいた。


「シェリカちゃん――?」


 思わずと言ったように、ルーツェの口から素の呼び方がこぼれた。

 いくら年下とは言え、貴族のご令嬢をちゃんづけで呼ぶのは良くないとエマやコハクに言われ、人前で呼ばないよう気をつけることにした。

 最初はシェリカがぶすくれ不満を顕にしたが、互いのためだとアレンにたしなめられしぶしぶ頷いていた。

 今日だってコハクに場違いだと言われたルーツェを全力でフォローするのだと、お作法訓練も一緒に頑張ってくれた。


「シェ」

「………………」


 声をかけようとし、しかしシェリカはルーツェから視線を外したままその前を通り過ぎた。

 他の女生徒たちはリィリーシェと、なぜか共にいるシェリカに意識がいっているようでルーツェだけが取り残される。

 そのまま外へと降り立つのを見送りながら、ルーツェは行き場を失った呼びかけをゆっくりと飲み込んだ。


「んん?」


 わたし、シェリカちゃんに無視された??


 そう思った瞬間、ぐっさりと突き刺すようにルーツェの胸は打撃を受けた。


(え、いや、いやいやいや。あんないい子で優しいシェリカちゃんが、無視とかありえないし。ちょっとタイミングとかが悪かっただで、それだけで……)


 ・・・うん。きっと勘違いだ!


「みんな集まってるし、わたしも外に行かなくちゃ」


 誰にも届かない独り言をこぼし顔を上げれば、庭園の方ではリィリーシェが挨拶をしようとしているところだった。

 ざわりと空気が揺れる気配など感じる余裕など無く、ルーツェは慌てて庭へと走り出た。

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