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魔力なし少女は譲らない  作者: 村玉うどん
第三章 図書棟の幽霊
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17話 シェリカ

 図書棟から飛び出し、シェリカは薄暗い裏庭を闇雲にかけた。

 あの場にいたくなくて、いられなくて、心配して声をかけてくれた女の子の顔を見るのが怖くて逃げ出した。


「痛……」


 砂利道に足を取られ派手に転ぶ。

 柔らかな手には歪な跡が付き、じくじくと熱が広がる。


「怪我……お兄さまに心配をかけてしまう。回復薬で治しておかないと……」


 こうやって兄に見つからないように何度も痛みを隠した。

 小さな小瓶の中身を飲み干すと、腫れた頬も転んで出来た傷もすっかり治ってしまう。

 まだ、大丈夫。自分は頑張れる。

 なんとか上体を起こし座り込むも、足に力が入らず立ち上がることが出来ない。

 膝の上で握り込んだ拳に、唇を噛む。そうしていないと、今にも涙が溢れそうになったからだ。


「……たい」


 いつからだろう?

 ものが無くなったり壊されたりしても、自分で買い換えられるものだと安心してしまうようになった。

 気づけば両親からの手紙が増え、休み時間まで兄が付き添うようになった。


「消えて……しまいたい」


 とうとう熱い雫が小さな拳にこぼれ落ち、制服を濡らしていく。

 冷たい夜風が、小さな身体から体温を奪い去っていく。そんな時だった。


「ひぎゃぁぁっぁぁぁぁ!!!!!!」


 びっくぅ!!!? とシェリカの肩が跳ね上がり、ずぼっ!! となにかが茂みを突き抜けてきた。


「黒い塊が、追っかけてくるぅぅ!!」

「!! 、!!」


 葉っぱまみれどころか、小枝を数本頭に突き刺しているルーツェが喚きながらシェリカの前に現れた。

 その向こう側にはロイもいるようで、メモ帳を片手に必死にこちらに向かってきていた。

 ルーツェはシェリカの存在には気づいておらず、しきりに「黒い何かが、黒い何かが追ってくるぅ~お助け~」と木にへばりついて泣いている。控えめに言って、頭がおかしくなった様にしか見えない。

 シェリカが追いついて来たロイを見上げれば、ロイもシェリカに気づき慌ててメモに何かを書き記した。


「へ? えーと、これを伝えて上げればいいんですか?」


 殴り書いたメモを手渡され、暗闇の中シェリカは目を凝らす。

 幸い月明かりのおかげでそれほど苦労はしなかった。しなかったが・・・。

 すぐ隣で奇行街道まっしぐらな少女に声をかけなくてはいけない、と言う方がべらぼうに気がすすまない。


「あの……」

「わぁーん! わたしを食べたって美味しくないんですからね!!」


 何とか目の前で懇願のオーラを向けてくる男性のために、怪しい少女に声をかけるも謎の奇声にかき消される。

 しかも声をかけたことによって恐怖心を煽ってしまったらしく、相手はカサカサと木の上へと登っていってしまった。なんてこったい。

 シェリカはしばし途方にくれた後、大きく息を吸い立ち上がった。


「あのお! 貴女を追いかけてきた黒いものの正体は、メガネを落として屈んでいたこちらの男性らしいですよぉ!」

「ぎゃああ!! 黒い塊がしゃべっ……え? メガネ? 男性?」

「…………」

「…………」

「…………・・・」


 本当に!! 良かったぁ~、と半泣きのままヘラリと笑って木から降りてくる。

 するすると滑り降りる様は、とある動物を思い出させた。


「なんだロイさんか、ビックリした……。あんまり脅かさないでください!」

「……! ……」


 勝手に勘違いされただけなのだが、濡れた目元をこすりながら言われれば反論できない。むしろ申し訳なさそうに背を丸めるロイに、ルーツェは遠慮なく小さな拳をぽこすこお見舞いする。

 力は込められていないので痛くはないが、どうしたらいいかわからずなされるがままだ。


「貴女も教えてくれてありが……あ! シェリカさんだったんですね! 良かった捜してたんですよ」

「え、あ……」


 気が済んだのかルーツェが振り返り、シェリカに気づき表情を輝かせる。

 嬉しそうにシェリカの側まで近寄ってくると、背後に手を回し腰帯から何かを引き抜いた。


「はい、これ貴女のでしょう。さっきの人たちが返してくれました」


 そう言って差し出されたのは、祖父からの最後の贈り物であるロッド。

 ルーツェはにこにこと笑っているが、服はよれていて頬に引っ掻き傷らしきものがあり血も滲んでいる。

 シェリカは差し出されたロッドよりも、ルーツェの有様が気になる。


「……取り返して、くれたんですか?」

「はい。こう相手が手放すまで意地でも離れないぞって抱きつい……じゃなくて返してくれたんです! ワタシ揉め事オコシテないヨ!」

「………………」

「………………」

「……本当に、こっちからは手は出してませんよ? わたしは無罪です!」


 沈黙の視線に耐えられなくなり、ルーツェが口を尖らせ明後日な主張をする。


「どう、して……」

「?」

「私なんかの為に……どうして・・・。貴女には関係ないのにどうして、こんな」


 そこでルーツェの傷に気づき、シェリカは慌てて回復薬を取り出そうとする。

 しかし相手は不思議そうに首をかしげると、なかなか受け取ってもらえないロッドを一度見るとシェリカへ視線を戻した。


「どうしてって……これ、貴女の大切なものなんでしょう?」

「え? ……ええ、そうです、けど」

「だから」

「私の大切なもの……だから、ですか?」

「はい」

「・・・?」

「?」

「「???」」


 互いに反対方向に首をかしげてしまった。

 何か自分は間違ったことを言っただろうかと、二人の少女が見つめ合っている。

 次第に不安が首をもたげ始め、ルーツェが伺うように口を開いた。


「あの、もしかしてわたし何か余計なことしちゃいました? 大切なもの盗られたのかと思ったんですが、勘違いしちゃってたりします?」


 だったらごめんなさい、と再度遠慮がちにロッドを差し出してくるルーツェに、シェリカは今度こそじわりと自身を拘束する熱に囚われた。

 シェリカはゆっくりロッドに視線を落とすと、ゆっくり両手を持ち上げ手をのばす。先程相手を拒んだ小さな手は、小さく震えていた。

 何とかロッドを受け取り、礼を言わねばと思うもシェリカの口からは短い呼吸音しか出ず自然と眉根が寄る。何か弁明しなければと自身を急かすも、逆に喉が張り付き何も言えなくなってしまう。

 シェリカが悔しそうに唇を噛み、ロッドを握り込むように身を縮めた時、ふと頭に優しい熱が触れた。


 なでなでなで――


 包帯に触れないよう避けて、白い髪を梳く。


(誰かが、私を撫でてくださっている?)


 ぼうっとした頭でシェリカは考える。

 暖かく懐かしい感触。こんな風に誰かに頭を撫でられるのは久しぶりだと思い返す。


(たしか、昔、最後に撫でてもらたのはお祖父さ……)


 ハッと我に返り顔を上げる。

 見開かれた真っ赤な瞳と目があった相手は、心配そうな表情を隠し安心させるように笑みを受かべた。


「大丈夫、大丈夫。それより貴女転んだの? あちこち砂がついてるわよ?」


 そう言ってシェリカと然程変わらない小さな手が、土汚れを払い落とす。

 その熱が擽ったくて、離れがたくて頬を拭う手に目を閉じる。

 よくわからないけれど、少し落ち着いた様子のシェリカにルーツェも小さく息を吐く。


(嫌われたかと思ったけど、触っても怒られないならそうじゃないよね……!)


 内心ビビっていた分、肩の力を抜いたシェリカに自然と口元がゆるくなる。


「それにしても貴女、どこを歩いたの? こんなところにまで葉っぱが……」

「っ、あ、だめっ」


 そう言ってルーツェが右目元の包帯についている葉っぱに手を伸ばす。

 シェリカがそれに気づき、慌てて身を引こうとするよりも早く――


「いっ!」

「!」


 パチリと小さな痛みが走り、指を引っ込める。


「ご、ごめんなさい! わたし引っ掻いちゃったのかしら、包帯が!」

「いや! だめ、見ない――……え?」


 ハラリと包帯が解け、ただの白い布に成り果てたものが地へと落ちる。

 慌てて自身の右目を手のひらで隠し蹲るシェリカに、ルーツェは青ざめる。


「ごめんなさい! もしかして怪我をしたの? 良かったら顔を上げて?」

「……ない。――痛くないの」

「え?」


 そうして、信じられないと言うようにゆっくりと顔を上げたシェリカにルーツェは安堵の息を漏らし笑顔になる。

 怪我をさせたかと思ったが、そうではなかったようだ。包帯が落ち、月夜に照らし出された可愛らしい顔には傷一つ無かった。

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