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魔力なし少女は譲らない  作者: 村玉うどん
第三章 図書棟の幽霊
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5話 それは困ります

「うわぁーん、なんか動いてる。すっごく機敏な動きしてるぅ~!!」


 まずは身近な方からと、縋り付いてくる妹を引っ剥がし、コハクは先程室内に放り込まれ動き回っている物体を探す。


「あそこ、あそこや! 落ちてきた時はただの丸っこいボールみたいやったのに、足がシャキーンてめっさ生えてきたんや!」


 エマが必死に指差す方向へ目を向ければ、球体の何かから六つの足が生えたものが、床をシャカシャカと泳いでいる。


「…………ん、もしかして魔術具?」

「へ? 魔術具やて?」


 コハクは迷いない足取りでソレに近づくと、むんずと鷲掴む。ルーツェが後ろで「コハク駄目! 噛まれるよ!」と喚いているが噛むってなんだ。

 鷲掴んだソレを裏返せば、思ったとおり術式の陣が刻まれており、球体になっている上半分には魔石が仕込まれていると思われる。


「この足っぽいのの先に取り付けてあるのはブラシだ。それに、泡……洗剤か!」


 もしかしてと思い床に戻してみると、謎の球体は液体を吐き出しながら足に取り付けられたブラシを高速回転させながら泳ぐように床を滑っていく。

 六本あるうちの真ん中の二本にはフックや吸盤がついており、器用にそれを伸ばすと壁や天井にまで範囲を広げる。

 これは、つまりあれだ。


「掃除してくれる魔術具だ! よっしゃ、これで楽が出来る!」


 途端、コハクの目に喜色が浮かぶ。

 しかも、自立し掃除してくれる魔術具は洗浄と乾燥の機能もついているようで至れりつくせりだ。細かいところは無理でも、放っておけば大部分を勝手に掃除してくれるのではと期待につい口元が緩む。


「わあー、あれって魔術具なんだね。すごい、あんなの初めてみた。どんな術式が組まれてるのかしら。後で分解してみていい?」

「駄目。絶対やめろ。断固拒否する」

「う、天井から水しぶきが……」


 いつの間にか、えっちらおっちら天井を移動する魔術具を見上げ、降ってきた雫に顔をそむける。

 どういった理由で誰が投げ込んだかは謎だが、それを考えるのは奴が戻ってきてからで良いかも知れない。

 出来れば使えるものは使いたい。むしろ手放したくない。

 コハクはとにかく、ルーツェを魔術具から遠ざなければと心に決めた。


「あれの魔力がどれくらい保つのかわかんないから、俺が食堂に残るよ。二人は他の場所の掃き掃除を進めていって」

「それはええけど、あんた一人で大丈夫か?」

「いざと言う時は一人の方がどうとでも出来る」


 あっそ、とエマが軽く肩を竦めて見せる。

 その横でルーツェが、何やら険しい表情でコハクをガン見しており、何だと目を細める。


「あのコハクが、こんなに一生懸命働くなんて……もしかして熱でもあるんじゃないの?」

「ねーし! 人のやる気を病気扱いするな!」

「でも、最近だるいとか、眠いとかもあんまり言わなくなったし」

「頼むから、本気で心配するの止めてくれない? ……俺だっていつまでもあのままじゃ駄目だって、思っただけだし」

「え? なにか言った?」


 後半部分はボソリと呟かれたため、ルーツェが悪びれもなく聞き返す。コハクが勢いよく投げつけた箒を、ルーツェはみごと顔面でキャッチした。

 流石にエマも何も言わず、あーあと涙目のルーツェを宥め外へと連れて行く。


「わぁーん、コハクのバカー! 意地悪ぅー!」

「うっせ」


 いー、としかめっ面を向けてくる妹に、ちりとりを投げる素振りで応戦する。

 そうして、役割分担を決め没頭すること数時間。

 いつの間にか辺りは赤く染まり、腹の虫も限界を迎えていた。


「そう言えば、朝が遅かったからお昼食べてない……」

「うちもお腹ぺこぺこやぁ。二階の廊下まではざっと終わったし、後は明日にして今日は終わろう」

「賛成です~」


 お掃除魔術具は現在一階のシャワー室を丹念にセルフカーリングしている。

 トイレはエマがテントにいる間使用していたらしく、それほど汚れていなかった。訪れた時は薄暗かったため気づかなかったが、玄関からトイレへの経路だけは埃が溜まっていなかった。


「最悪の場合うちのテントを運び込んで、その中で寝てもええし」

「エマさんのテントってそんなに大きいんですか?」

「もちろん女の子優先や」

「それじゃあ、コハクは? 今日、コハクすっごく頑張ってくれてたし、わたし床でも大丈夫ですから」

「アカンアカン! それに、うちだって嫁入り前の娘なんやで。そこは遠慮してもらわんとな」


 玄関の扉を開け、ブランケットでもこもこにしていた仔犬と雛を迎えに行く。

 二度ほど様子を見て、少しだけ走らせてやったりもしたが、だいぶ寂しがらせたみたいだ。

 真っ白な雛も目を覚ましており、二匹がキャンキャンニィニィ胸を突き刺す声で鳴く。


「ご、ごめんね。もうお家入っていいからね。みんなで食事にしようね」

「ハヌン!」

「ニィニィ!」

「なんか白いのも増えてる! なんやこれ!」

「こっちの白い子は十世って言うんです」

「やっぱ変な名前つけられとる」

「むう! 変じゃないですぅ」


 先程起きていた仔犬だけを紹介したときのことを思い出し、エマがルーツェをからかうように笑う。

 途中、お掃除魔術具によってきれいになった廊下を見回しながら、食堂の中へと入る。


「わぁ……」

「なにこれ、すごいやん! めっちゃ綺麗になっとる!!」

「一応キッチン内の術式も残ってたし、食堂はほぼ問題なしに使えるようにしといた」


 すぐ入り口の傍にいたらしいコハクが、驚くルーツェ達に声をかける。


「あれ、コハク着替えてる? お風呂に入ってたの?」


 先ほどと服装が違うコハクが、ルーツェの言葉に意味有りげに口を釣り上げる。


「とある場所を掃除して、だいぶ汚れたから……二人共感謝してよね」

「「?」」

「調理台と談話室の通気口。これで問題なくカマドや暖炉が使えるよ」

「本当!」

「でかした兄キ!」


 エマとルーツェが嬉しそうにカウンターを周り、あちこち見て回る。

 どうやら午後の時間念入りに掃除をしてくれたようで、中は見違えるほど綺麗になっていた。

 エマと二人で凄い凄いとはしゃいでいると、ちょうど食堂と談話室のあいだにある、外へと繋がる扉が開いた。


「駄目だルクラス。中のクッション材がボロボロになっていて使えそうにない」

「やっぱ無理か。残しといても邪魔だし解体して燃やすか」

「ニウロさん!」

「ん? やあ、ルーツェ。久しぶりだな」


 頭に白い灰のようなものが付着しているニウロが、残念そうに扉をくぐる。

 それに気づいたルーツェが嬉しそうに近寄っていけば、エマは見知らぬ人物に探るような目を向けていた。


「ニウロさんこんにちは! どうしたんですか? なんでここに? 頭粉っぽくなってますけど何してたんですか?」

「どれか一つに絞ってから聞け」


 粉っぽいと言われ、閉めかけていた扉をくぐり直し外で身なりを整える。

 失礼したと、ニウロが真面目な顔で謝罪をすれば、いちいち固い奴だなぁとコハクが零す。


「ここに来たのは昼過ぎなのだが、入り口に回ろうと歩いていた所、誰かが物を投げ入れるの見かけてな。注意しようと追いかけたのだが見失ってしまった」

「追いかけたって、危ないじゃないですか! 大丈夫でした?」

「これでも将来騎士を目指す身だ。これしきのこと問題ない」


 ニウロ曰く、追いかけたのはいいもののすぐ見失ってしまい、さらに相手の特徴などは木の陰になっており手元しか見えなかったとのこと。

 しょんぼりして戻れば、そのままコハクによって食堂の掃除をさせられていたらしい。


「ともあれ、僕も今日からここに」

「やっぱそうかぁ! あんたも新しい編入生なんやな!!」

「え、……はい」

「エマさん? わっ!」


 ガバリとニウロの手を取り、エマが瞳を輝かせる。

 かと思えば、身を反転させルーツェを抱き込みくるくる回る。頭一つ分くらいの身長差はあるとは言え、抱え上げられているわけではないそれにルーツェは転びそうになるのを必死に堪える。

 急に有頂天になったエマに、コハクは残念そうな眼差しを向け、ニウロがどなただと小声で聞く。コハクは「ちょっとおかしな先住者」とだけ返していた。


「あーもう、なんなん! 今日はホンマに最高の日や!!!」

「そ、それは良かった、です、けど、あの、そろそろ目が……」

「この寮に編入生が三人も入って来るなんて・・・夢みたいや!」


 きゃあ! と歓喜の声を上げるエマに、コハクとニウロが顔を見合わせる。


「どういうことだ? ルクラスは職員としてここにいると言っていたじゃないか」

「そうだけど? エマが勝手に勘違いしてるだけだし」

「へ?」

「だから、お前の勘違いだって。その二人はそうだけど、俺は学生じゃない」

「・・・、はあーーーーーーーー!?!?!?!?」


 エマの歓喜を、無情なコハクの言葉が打ち消し絶叫をあげる。

 エマはあり得ないと困惑したあと、この世の終わりであるかのように崩れ落ち項垂れてしまった。

 隣ではようやく開放されたルーツェが目を回し共に座り込む。

 正直酔った。


「そんな……あと一人くらいやったらなんとかなる思たのに……二人足りんかったなんて」

「なんの話?」

「大丈夫か? よくわからないが、ルクラスの代わりに僕が詫びよう。申し訳なかった」

「何でだよ。色々意味わかんないし」


 へたりこんだエマに、ニウロが心配そうに頭を下げる。

 だがそれに構っていられる余裕などなく、エマはギリリと拳を握ると悔しそうに声をもらした。


「このままやったらう、うちら三人共進級できんくなる……。下手したらそのまま退学や!」

「「…………、はあ!!!?」」


 目を回し座り込むルーツェの膝下で、男二人の声に驚いた仔犬が飛び上がった。

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